膠原病(こうげんびょう)は、免疫の異常により全身の臓器や関節、血管、皮膚、筋肉などに炎症が起こる病気の総称で、代表的な病気に関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などがあります。2024年12月17日、一般社団法人日本リウマチ学会(以下、日本リウマチ学会)と株式会社メディカルノートによる、第2回連携ウェビナーが開催されました。今回は、日本リウマチ学会の評議員である慶應義塾大学医学部内科学教室 リウマチ・膠原病内科 教授 金子祐子先生より、リウマチ・膠原病領域で扱う病気の特徴や、患者さんの人生の伴走者としての思いなどについてお話がありました。当日の内容をダイジェストでお送りします。
「膠原病」が提唱されたのは1942年のことです。それより昔は、全ての病気の所在は特定の臓器にあると考えられていましたが、医学の発展に伴い、全身の中間組織である結合組織(骨・軟骨・腱など)や血管に異常を示す病気が発見されました。これが膠原病という疾患概念の始まりです。このときに発見されたのが、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎、リウマチ熱であり、これらは古典的膠原病と呼ばれています。
さらにその後の研究で明らかになったのが、膠原病は免疫システムが自分自身の体を攻撃する「自己免疫」が病気の本態であるということです。「自己免疫」によって生じる病気には、2つのタイプがあります。1つは特定の臓器だけが障害されるもの、もう1つは全身のさまざまな臓器が障害されるもので、膠原病は後者に該当します。また、リウマチという言葉はラテン語で「流れる」を意味するRheumaに由来しており、全身の関節や筋肉に流れるように痛みが現れる様子を表しています。
このように膠原病は、結合組織・血管に病変が生じる「結合組織疾患としての側面」、自己に対する免疫反応による「自己免疫疾患としての側面」、そして痛みが流れるように全身が痛む「リウマチ性疾患としての側面」を併せ持っているのです。
膠原病をはじめリウマチ・膠原病領域で扱う病気は「免疫」と密接な関係にあります。免疫システムは、私たちの体を守る防衛機構です。体に何らかの病原体が侵入すると、まず「自然免疫」がはたらき、マクロファージや好中球、樹状細胞などが初期攻撃を行います。続いて、病原体の情報に基づいた「獲得免疫」が、的確に病原体を狙い撃ちにします。
この防御機構には、体内の異物を攻撃するのではなく受け入れる「免疫寛容」と呼ばれる仕組みも備わっています。このはたらきにより、自己に反応する免疫細胞を死滅させたり、活発になることを抑えたりします。私たちの体では、免疫寛容として何重にも重なる安全網がはたらいていますが、これらの防御を全てすり抜けてしまうと、自分自身を攻撃する「自己免疫」が生じてしまいます。自己免疫によって起こる病気は2種類に分けられます。免疫システムのうち、第1段階の「自然免疫」の異常による自己炎症疾患と、第2段階の「獲得免疫」の異常による自己免疫疾患です。さらに、原因となる遺伝子が1つか複数かによっても分類されています。リウマチ・膠原病内科の医師は、こうした免疫システムのエキスパートとして自己免疫によって生じるさまざまな病気の診療を行い、新しい治療法の開発にも取り組んでいます。
膠原病の1つである関節リウマチの治療法は、近年確実に進歩しています。しかし、かつては有効な治療法がなく、患者さんは大変な苦痛を強いられていました。百人一首で有名な平安時代の歌人・山上憶良は「四肢は動かず、体が重くて石を背負っているよう」と詠み、印象派の画家・ルノワールは変形した手に筆を括り付けて絵を描き続けたことが知られています。
その後、治療の開発が進み、ステロイドが登場しました。ステロイドは劇的な効果をもたらし特効薬として期待されましたが、全身に数多くの副作用が生じるという問題点がありました。私が医師になった頃はステロイド以外に治療薬がなく、副作用を受け入れざるを得ない患者さんが多くいらっしゃいました。しかし現在では生物学的製剤である「TNF阻害薬」が開発されたことで、多くの患者さんで関節の破壊を防げるようになってきています。関節リウマチでない方と同じように日常生活を送れるだけでなく、スポーツを楽しめる方も増えてきました。
それでも現時点では、関節リウマチを含めて膠原病を完全に治すことはできません。だからこそ、リウマチ・膠原病内科医は、病気と共に生きる患者さんの人生に寄り添う伴走者としての役割を果たします。リウマチ・膠原病内科は、「病気を診るだけでなく、病気を持つ患者さんを診る」という言葉を体現できる、やりがいのある診療科だと感じています。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。