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ネクストリボン2023「自分らしいがんとの共生」目指して―外見ケアの講演や麻倉未稀さん対談も

公開日

2023年02月27日

更新日

2023年02月27日

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2023年02月27日

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医療の進歩によってより多くのがんが治るようになり、がんとともに生きていく期間が長くなった。それとともに、患者さんやご家族が抱える悩みや困り事は多様化している。自分らしくがんと共生できる社会の実現を目指すネクストリボンプロジェクトの一環で、「ネクストリボン 2023」(主催:日本対がん協会、朝日新聞社)が2023年2月4日*に開催された。「自分らしさを大切にするヒント」に関する専門家の講演や、乳がん経験後も精力的に音楽活動やがん患者のコミュニティ作りに取り組む歌手の麻倉未稀さんの対談が行われた。概要をリポートする。

*毎年2月4日は、ワールドキャンサーデー(世界対がんデー)です。

【プログラム】

  • パネル討論 「自分らしさを大切にするヒント」~アピアランス(外見)ケアや運動から探る~
  • 対談 「『がん、』といわれた時のために」
  • 対談 「歌ってきた『ヒーロー』に励まされた私」 
  • トーク&ミニライブ 「がんとともに生きる、寄り添う」~ネクストリボンキャンペーンソング「幸せはここに」歌唱~

パネル討論 「自分らしさを大切にするヒント」~アピアランス(外見)ケアや運動から探る~

  • 藤間勝子さん(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター長、公認心理師・臨床心理士)
  • 広瀬真奈美さん(キャンサーフィットネス 代表理事)
  • *コーディネーター:辻外記子さん(朝日新聞 編集委員)

先方提供

藤間さん:がん治療による外見の変化は▽髪や体毛(脱毛、縮毛など)▽皮膚(乾燥、肌色の変化、湿疹など)▽爪やその周り(線が現れる、薄くもろくなるなど)▽その他(体型の変化、むくみ、手術の傷)――などさまざまだ。ボディイメージが変化したことに対する戸惑い、すなわち「患者さん自身の心」の問題であると同時に、「『がん』と分かっても周りの人は今までと同じような態度で接してくれるだろうか?」との懸念、すなわち「他者(社会)との関係性」に関わる問題でもある。

アピアランスケアとは、医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者さんの苦痛を軽減するケアのことだ。がん治療を支える支持療法の1つであり、患者さんが安心してがん治療を選択できるようにする。

先方提供

心理社会的支援としては、「モノの見方・考え方を見直す」手伝いをするとともに、一緒に「コミュニケーションの作戦を練る」。お互いが傷つかないためのコミュニケーションを考えておくことはとても大切で、会話のキャッチボールでは相手が応えやすいボールを投げる工夫も必要だ。がんと分かったばかりの患者さん自身が慣れていないのと同じく、周囲の方も「がん患者さんの友人・同僚1年生」なのだ。

アピアランスケアの目的は、美しくなること(beauty)ではなく生きること(survive)である。自分らしさには幅があり、必ずしも治療前と同じ外見でなくても自分らしい姿になることはできる。「治療前に戻ること」だけを考えず、今の自分らしさを大切にしてほしい。

ご家族や親しい方は、がん患者さんに「どんな外見でも今までと変わらず、あなたのことが大好きだ」と言葉で伝えることが大切だ。そのうえで「気になることや手伝えることがあれば言ってね」と添えることが患者さんの自信と励みになる。職場の方は、仕事のように報告を求めず「しんどいことや手伝いが必要なことがあればいつでも言ってください」と伝えてほしい。今までどおりの付き合いが患者さんを安心させる。

広瀬さん:2008年に乳がんと診断され、治療中に運動の重要性を実感した。当時はがん患者さんの運動療法への認知度が低く、周囲からも安静をすすめられたことで、手術後の退院時には体力が著しく低下しており大きなショックを受けた。

手術などのがん治療により体を動かしにくくなると、日常生活のさまざまな動作に不自由や難しさを感じることがある。しかし、「動かさない」状態が続くと筋力が低下し、結果的に「動けなくなる」可能性がある。生活を不活発にしない、すなわち「動く、運動すること」がとても大切だ。

先方提供

がんに罹患してから運動する際は、開始前には主治医に、そして毎回自分自身で体調を確認してから行う。最初は物足りないくらいの回数や強度から始め、頑張りすぎないことを心がけたい。

アメリカスポーツ医学会が2010年に発表した「運動とがんサバイバーシップのためのガイド」では、がんサバイバーは運動を安全に行うことができ、全てのがんサバイバーは非活動を避けるべきであるとされた。十分なエビデンスから、運動によって不安や抑うつ症状、倦怠感などを改善できることが証明されている。日本でも2019年に発行された「がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版」で、化学療法・放射線療法中の患者さんに対し運動療法の実施が推奨されている。

がん患者さんには、運動のコツとして次の5つを提案したい。

先方提供

工夫すれば生活自体が運動になる。朝起きてから夜寝るまでの行動を思い出しながら、どんな「ながら運動」ができるか考えてみるとよい。「回復する力」と「希望を持つ能力」は誰にでもある。がんになると、元に戻らなければ……と焦って悩んでしまうと思うが、新しい自分を育てていくつもりで毎日を生きていきましょう。

藤間さん:ウィッグを入手する際は、「今と同じにしよう」と思うと少しの違いが気になってしまうので、普段の髪型とはまったく違うものを選ぶのも1つの手段だ。自分の好みのデザインで、「ちょっとイメージと違うな」と感じたら買い換えられるくらいの値段のものから試してみるとよい。また、爪に影響が出る薬剤はある程度限定されるので、自分の治療ではどのような影響が出るか医療者に確認することが大切だ。マニキュアや除光液は普通のものを使って問題ない。がんや治療によるさまざまな変化に操られるのではなく、自分で自分のことをマネジメントするつもりで準備しておくとよいでしょう。

広瀬さん:私は、化学療法が始まる前に「もし私が落ち込んでいたら外に連れ出してね」と親しい友人にお願いした。治療中は気分が落ち込むことも多かったが、友人に連れられ散歩に行くと楽しい気持ちになり、帰り道では大声で笑っていることもあった。1人でもよいので、困ったときに「助けて」と言える人を見つけておくとよい。また、新しいことにチャレンジすると希望が生まれるので、やりたいと思ったことはなんでもやってみることをおすすめする。

藤間さん:多くの患者さんやご家族にとって、がんと診断されることは人生最大の危機だ。患者さんもご家族も落ち込むのは当然だし、本当につらいときは無理に頑張ろうとしなくてよい。時にはうまく対応できないこともあると思うが、どうか自分を責めないでほしい。もしつらい気持ちが2週間以上続いて、眠れなかったり食事が取れなかったりするときは病院で相談するとよいだろう。

広瀬さん:私も見た目についてはたくさん悩んだが、内面の美しさを磨いていきたいと思うようになった。「回復する力」は誰にでもあると信じている。ご家族は心配だと思うが、患者さんと一緒にできることをしてほしい。「頑張っているね」と声をかけてもらうと自分を肯定してもらえたと感じて自信がついたし、静かに話を聞いてもらえたこともありがたかった。

藤間さん:ご家族や周りの方は患者さんに見た目のことで「かわいそう」とは言わないでほしい。自分らしさにはいろいろな形がある。がんになったことを「受け入れなければ」と思うとつらくなってしまうので、折り合いをつけながら上手な付き合い方を見つけていただければ。

対談 「『がん、』といわれた時のために」

  • 宇都出公也さん(アフラック生命保険 取締役上席常務執行役員)
  • *聞き手:原元美紀さん(フリーアナウンサー)

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宇都出さん:講演タイトルは、がんの後ろに「、」を付けた。がんという単語に皆さんが抱かれるさまざまな思いや、一呼吸の間を表現した。

1974年、アフラックは日本で初めて「がん保険」を発売した。当時、がんは不治の病とされ、病名の告知も一般的ではなかった。そのようななかでがん保険を発売したのは、患者さん、ご家族の精神的・経済的負担を少しでも軽減したいとの思いからだ。創業の思いに立ち返り、2018年から約2年半をかけて、がん患者さんやご家族が抱える悩みや問題を調査した。その結果、より多くのがんが治るようになった一方、がんと生きる期間が長期化したことで、当事者の悩みや問題はますます多様化していることが明らかになった。

そこで、2021年に公表した報告書「『がん患者本位のエンゲージメント』を目指して」では、3つのビジョンと10のアクションを解決策として提言した。社会全体でがん患者さんとご家族を支えていく「キャンサーエコシステム」を構築したいと考えている。調査で明らかとなった「自分で決めなければならない」負担に対して、2023年1月から「よりそうがん相談サポート」として、悩みや不安を傾聴したうえで適切なサービス・情報を提供しサポートするコンシェルジュ的なサービスを開始した。

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また、アフラックでは、2018年4月から▽相談(ピアサポート)▽両立▽予防(検診)で構成される「がん・傷病 就労支援プログラム」を開始している。

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がんを経験した社員のコミュニティー「All Ribbons」では、自身の体験を社員に伝える取り組みも行っている。制度の整備とともに、実際の活用にあたっては仲間や上司の理解が欠かせない。がんに罹患した社員にどのように接したらよいか、全管理職を対象にロールプレイングを中心とした研修も継続して実施中だ。

社員が持っているナレッジ、スキルは何ものにも代えがたい。がんと仕事を両立することは、会社にも社員にもよいことで、会社全体のエンゲージメントが高まると考えている。仕事は生きがいそのものであることが多い。社会全体で当事者を支えていく「キャンサーエコシステム」を作っていきたい。

対談 「歌ってきた『ヒーロー』に励まされた私」

  • 麻倉未稀さん(歌手)
  • *聞き手:上野創さん(朝日新聞社会部 記者)

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麻倉さん:2017年4月にバラエティー番組の企画で受けた健康診断がきっかけで乳がんが見つかり手術を受けた。気持ちが揺れたが、手術前に訪れた「マギーズ東京」で話を聴いてもらった経験がとても心に残った。

テレビドラマ「スクール・ウォーズ」の主題歌にもなった代表曲「ヒーロー」が背中を押してくれ、手術から3週間後には復帰ライブを開催した。周りの方は手術が終わったらもう大丈夫と思ってしまうけれど、ホルモン療法の副作用もあり体調には波があった。記憶が続かない、手のこわばりなどがつらく泣いてしまったこともあるが、医師に「それは薬の副作用だよ」と指摘され気持ちが楽になった。

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麻倉未稀さん

その後、2018年に「ピンクリボンふじさわ」、2020年に「NPO法人あいおぷらす」を設立し、音楽を通じたがんの啓発に取り組んできた。「湘南にもマギーズ東京のように、がん患者さんやご家族が立ち寄って話ができる場がほしい」との声に応えて、2023年春の拠点開設を目指している。2023年3月30日(木)には藤沢市民会館でチャリティーコンサートを開催する。

トーク&ミニライブ 「がんとともに生きる、寄り添う」~ネクストリボンキャンペーンソング「幸せはここに」歌唱~

・木山裕策さん(歌手)

木山さん:36歳の会社員の時に甲状腺がんと告知され、思考が停止してしまった。確かに仕事と4人の子育てでとても忙しかったが、自分自身についてあまり考えていなかったのではないかと反省した。その後、自分を見つめなおして39歳で歌手になり、新しい人生が始まったと思っている。

一度きりの人生をしっかりと歩むためには、自分はどうなりたいのか、何がしたいのか、世界はどうなってほしいのか――自分の頭でしっかりと考えることが大切。結婚以来、毎日夜はお茶とお菓子を用意して家族でいろいろな考えや思いを話している。皆さんもぜひ考える時間を持ってみて。

先方提供

木山裕策さん

【がんとの共生社会を目指すイベント ネクストリボン2023】

主  催:公益財団法人日本対がん協会、株式会社朝日新聞社

後  援:厚生労働省、経済産業省

特別協賛:アフラック生命保険株式会社

協  力:大鵬薬品工業株式会社、株式会社アデランス

支  援:株式会社メディカルノート

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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