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「日頃から階段利用」で心房細動リスクが3割低下―国循「吹田研究」で明らかに

公開日

2022年04月11日

更新日

2022年04月11日

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2022年04月11日

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日頃、階段で3階以上の階まで上る機会が多いと、心房細動にかかるリスクが約3割低下することを、国立循環器病研究センター検診部の小久保喜弘氏らの研究チームが明らかにした。死亡や寝たきりに直結する脳梗塞の原因にもなり得る心房細動を予防することができれば、脳梗塞のリスク低減にもつながる。研究は日本衛生学会の英文誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に2022年3月4日、公開された。

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「激しい運動」でも心房細動リスク上昇

心房細動は、心臓にある「心房」に起こる不整脈の一種だ。心房が細かく震えることで血液が滞留して心房内に血栓(血の塊)ができ、それが血流に乗って脳の血管に飛ぶと脳梗塞を引き起こす恐れがある。こうしたタイプの脳梗塞は「心原性脳塞栓症」と呼ばれ、その死亡率は約12%といわれている。また、約40%に重い後遺症が残るともいわれており、注意が必要だ。

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提供:PIXTA

心房細動の予防には、健康障害を引き起こさない程度の「適度な」運動が有効だ。身体活動量が増えると、心房細動など循環器病の罹患・死亡リスクが低下する。ところが、激しい運動はかえって健康障害を引き起こすことが研究で示されている。アスリートと非アスリートで心房細動の罹患率を比較した6つの論文を解析した報告では、アスリートのほうが非アスリートに比べて5.29倍、心房細動にかかるリスクが高いことが分かっている。

日常的に体を動かす

それでは、どの程度であれば「適度な」運動といえるだろうか。小久保氏らの研究チームは、日常生活における簡単な身体活動の指標として、階段の利用率に着目。階段の利用が多いと心房細動の予防につながるかを検討した。研究には1989年から同センターが実施しているコホート研究「吹田研究」を用いた。

*コホート研究:対象集団を、仮説として考えられる要因を持つ集団(曝露<ばくろ>群)と持たない集団(非曝露群)に分け、一定期間の観察後に両群の病気の有無を調べるもの。どのような要因を持つ人が病気を発症しやすいのかも検討する。

調査の対象は、吹田研究の参加者である都市部に住む30〜84歳の一般市民で調査開始時に心房細動の既往がなかった6575人のうち、追跡期間(平均14.7年)中に新規で心房細動を発症した295人。対象者に「3階まで上るときに階段をどのくらい利用しているか」質問し▽2割未満▽2〜3割▽4〜5割▽6〜7割▽8割以上――の5択で回答を求めた。

すると、利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用する群では心房細動の発症リスクが約3割低下。性別、年齢、運動習慣の有無を考慮しても結果はほぼ変わらなかった。

この研究の結果、「日頃どのくらい階段を利用しているか」という簡単な指標で心房細動のリスクが予測できることが示された。運動習慣の有無で調整しても心房細動リスクは変わらないことから、運動習慣とは別に階段利用を心がけることで心房細動の予防につながることも分かった。なお、日頃よく階段を利用する人は、それ以外のシーンでも積極的に運動している可能性がある。そのため、階段に限らず日常的に体を動かすことが心房細動の予防につながることも考えられるという。

予防のための生活習慣改善、より具体的になる可能性

心房細動の予防には運動のほか、睡眠習慣の改善も有効であることが分かっており、同じく吹田研究を用いた別の論文で、規則正しく適切な長さの睡眠を取ることが心房細動の予防に肝要であることが報告されている。

小久保氏らの研究チームは2017年に健診の結果を入力することで10年後の心房細動の予測確率が分かる「心房細動のリスクスコア」を開発している。将来的にはここに運動、睡眠、食事といった生活習慣の要因も加えることで、心房細動予防のためにどのような生活習慣改善を試みればよいのかが、より具体的になる可能性があるという。

【参考】

・国立研究開発法人 国立循環器病研究センター プレスリリース 2022/03/04

https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31844/

・Arafa A, KokuboY, Shimamoto K, Kashima R, Watanabe E, Sakai Y, Li J, Teramoto M, Sheerah H, Kusano K.Stair climbing and incident atrial fibrillation: A prospective cohort study. Environmental Health and Preventive Medicine (2022) 

https://doi.org/10.1265/ehpm.21-00021

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