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学会の取り組みで10年のドラッグ・ラグをゼロに――連携ウェビナーを初開催

公開日

2024年12月09日

更新日

2024年12月09日

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2024年12月09日

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医療情報の発信における連携協定を締結している一般社団法人日本リウマチ学会(以下、日本リウマチ学会)と株式会社メディカルノートの第1回連携ウェビナー「JCR Modern Webinar いま、リウマチ学が面白い!全身を診ながら分子標的治療で挑む」が、2024年9月4日に開催されました。当日は日本リウマチ学会理事長 田中良哉先生より、学会が力を入れるドラッグ・ラグ*解消に向けた取り組みなどについてお話がありました。当日の講演内容をダイジェストでお送りします。

ドラッグ・ラグ:海外で使用されている薬が日本で承認されて使えるようになるまでの時間差

病態の解明、治療薬の開発が著しく進む膠原病リウマチ学

膠原病(こうげんびょう)リウマチ学では、 “自己免疫疾患”と呼ばれる病気を多く扱います。代表的なのは、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)といった病気です。いずれも本来異物を排除するための免疫が自分自身を攻撃するため、全身のあらゆる臓器に症状が起こる可能性があります。

しかし、これらの病気は、ここ数十年の間に著しく病態の解明が進みました。それに伴って、高い効果が期待できる薬剤も数多く開発され、実際に患者さんの治療に使えるようになったのです。1999年に抗リウマチ薬であるメトトレキサートが、2003年に生物学的製剤であるインフリキシマブが国内で承認されると、関節リウマチの治療は劇的に変化しました。寛解に到達できれば、関節破壊を起こさず機能障害も進行させず過ごせるようになったのです。

非常に喜ばしい出来事でしたが、手放しでは喜べない現状もありました。なぜなら、実はこれらの薬剤はアメリカでは日本より5~10年も前から患者さんに使用されるようになっていたからです(メトトレキサートは1988年から、インフリキシマブは1998年から)。

国際化でドラッグ・ラグをゼロに

つまり、この間ドラッグ・ラグのために、日本の患者さんは世界標準の治療を受けられない状態にありました。私は2000年に産業医科大学の教授となり、「この10年のドラッグ・ラグをゼロにしよう」と決心しました。

そのために私は積極的に海外に出向き、国際学会での発表や質疑応答での発言、多くの論文執筆など地道な活動に加え、膠原病疾患に関わる欧州の診断基準作成委員会や、治験のグローバル・ステアリングコミッティー(運営委員会)のメンバーとしても活動を続けました。世界のトップリーダーとのコミュニティに仲間入りする必要があったためです。

その努力が実を結んだのが、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬であるトファシチニブの開発・承認です。トファシチニブは初の「経口関節リウマチ薬」としてアメリカのファイザー社が開発を主導していました。その開発に際し「一緒にやりませんか」と声をかけていただき、日本とアメリカを中心に治験がスタートしました。そして、2012年にアメリカでトファシチニブが発売されたのに続き、日本でも2013年に発売に至ったのです。その後、2剤目のJAK阻害薬であるバリシチニブも日本を含む世界各国で同時に治験が開始され、欧米とほぼ同時期に承認されました。こうしてついに「ドラッグ・ラグ」を解消することができたのです。

このように日本の膠原病リウマチ学は、世界各国の専門家と対等なパートナーシップを形成し、共に研究や薬剤開発を進めていることが特徴です。日本リウマチ学会では国際委員会を設けて、アジアパシフィックリウマチ学会(APLAR)、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)との密な連携に取り組んでいます。研究や薬剤開発は日本だけでできるものではありません。むしろ国際化なしには日本は生き残れないでしょう。

これからも世界をリードしていくために

日本の膠原病リウマチ学は世界から非常に高く評価されています。

その理由の1つが、インターロイキン6(IL-6)を標的とする生物学的製剤トシリズマブの開発・承認です。関節リウマチなど膠原病を形成する病態において重要な役割を果たすIL-6は大阪大学の岸本忠三特任教授(元大阪大学総長)によって発見されました。その後、中外製薬と共同でIL-6を標的とした抗体製剤トシリズマブが開発され、世界に先駆けて2005年にキャッスルマン病に対して初承認、続いて2008年に関節はリウマチにも適応が拡大されました。その後も多数の病気に応用され、多くの患者さんに高い治療効果をもたらしています。このように薬剤の開発ができる国は世界でも多くはありません。

また、こうして発売された薬剤については、市販後6か月間に投与された全ての患者さんのデータを収集し、日本人の患者に生じた有害事象やその頻度、それらに関連する危険因子を明らかにしてきました。それによって、さまざまな有害事象が生じるリスクを最小限に抑えることが可能となっています。

このような生物学的薬剤は非常に有効であるものの、長期間に渡って使用することにはリスクもあります。1つが強く免疫を抑制することによって感染症が起こるリスク、そしてもう1つが高い薬価による経済的な負担です。そのため、日本では世界に先駆けて生物学的製剤の休薬が可能か検討するための臨床研究を実施しました。その結果、休薬したあとに症状が再燃するリスクを予測できる臨床指標の組み合わせが明らかとなり、休薬のタイミングを検討するにあたっての判断材料にできると期待されています。

日本リウマチ学会とメディカルノートの連携ウェビナー第2回は「リウマチ分野がちょっと気になるみなさんへ!」をテーマに、12月17日に開催予定です。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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