病気やけがの治療、手術などで輸血を必要とする方の救命に寄与する「献血」。医学が進歩した現代でも血液は人工的につくることが難しく長期保存ができないことから、1日におよそ1万4000人の方の献血が必要とされています。しかし、近年では少子化や新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)などの影響により若年層における献血の機会が減少しているという課題があります。献血の必要性、感染対策の観点で変化している献血の流れについて、日本赤十字社にお話を伺いました。
献血で集められた血液は、けがをしたときの輸血に使われるイメージがあるかもしれません。しかし実際は、がんなどの病気の治療に使われることが多いです。また、血液をそのまま輸血に使うのは全体のおよそ半分で、残りは「血漿分画製剤*」という医薬品をつくるために使われています。
医療技術が進歩した今日においても血液は人工的に造ることができず、長期保存もできません。また、献血者の健康を守るために、1人が1年間に献血できる回数や量は法律により上限が定められています。このような事情があり、患者さんに安定的に血液製剤を届けるためには、1年を通じてなるべく多くの方に継続して献血に協力いただく必要があるのです。
*血漿分画製剤:血漿中のいくつかのタンパク質を抽出したもの(たとえば水分を保持するはたらきのあるアルブミン、免疫成分のグロブリン、血液を固める血液凝固因子など)。
写真:PIXTA
日本赤十字社(以下、当社)では、国の需給計画や医療需要に沿って献血のお願いをしています。全国を7つに分けた広域事業運営体制により、現在も不足することなく病院等に輸血用血液を届けることができています。
ただ、COVID-19の収束が見えず、イベントの中止・延期のほか、企業の在宅勤務やテレワーク、時差出勤などの感染防止措置が続いている影響により、集団献血の実施が困難な状況が続いています。各血液センターでは、これまでの献血会場に代わる新たな環境の確保に苦慮しているのです。
特に、学校においてはオンライン授業などの感染防止措置が取られるなか、校内に献血バスを配車して行っていた献血の実施が難しくなりました。たとえば、関東甲信越地域における献血会場の数を2019年と2020年(4~7月の間)で比べると10分の1程度に減少しています。この影響により10歳代~20歳代前半の方の献血が大幅に減少しているのです。
mRNAワクチンを含むRNAワクチン接種後、48時間は献血をご遠慮いただくことになります。1回目・2回目の接種ともに、接種後48時間を経過すれば献血は可能です。なお、この基準はメーカーの違いによるものではなく、ワクチンの種類によるものです。
RNAワクチン以外のワクチン接種後の受入基準については現在国において検討中であり、基準が示されるまでの間は献血をご遠慮いただくこととしています。
当社は、献血ができる施設を全国で137カ所(2021年4月1日時点)運営しています。広い休憩室には漫画や雑誌などが用意され、献血前後に水分補給ができるよう、ジュースやお菓子などが提供されます。ボランティアルームや多目的室、キッズルームなどもあり、献血いただく方が快適に安心して献血ができる環境を整えています。
施設の場所は駅前や商店街が中心です。都市部を中心に交通の便がよい場所にあり、献血者の安全面やプライバシーに配慮した設計になっています。なお、コロナ禍においては感染予防策を実施し、安心して足を運んでいただけるよう取り組んでいます。
当社は、献血される方が一時期に集中することによる密集・密接を避けるため、献血における「事前予約」をお願いしています。献血にお出掛けの際は『献血WEB会員サービスラブラッド』(※会員登録が必要)もしくはお電話で事前予約をお取りください。献血ルームでの予約は献血ルームのページ、献血バス会場での予約は各自治体の血液センターまでご連絡ください。
このような非常事態においても、ほかに代わるもののない輸血用血液を日々安定的に患者さんへお届けする必要があります。献血へのご協力は不要不急の外出にはあたりません。輸血医療が成り立たないことのないよう、そして有効期間の短い輸血用血液を必要としている患者さんの命を守るために、輸血用血液の在庫量を適切な水準で維持していくことが極めて重要です。
献血をご遠慮いただく場合の条件は、▽当日の体調不良・服薬中・発熱がある方▽3日以内に出血を伴う歯科治療(歯石除去を含む)を受けた方▽一定期間内に予防接種を受けた方▽6カ月以内にピアスの穴をあけた方▽6カ月以内に入れ墨を入れた方▽外傷のある方▽動物または人にかまれた方▽心臓病・悪性腫瘍・けいれん性疾患・血液疾患・ぜんそく・脳卒中など特定の病気にかかったことのある方▽海外旅行から帰国して4週間以内、または海外の一部の国で一定期間生活したことがある方▽輸血歴・臓器移植歴のある方▽エイズ、肝炎などのウイルス保有者、またはそれと疑われる方▽クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の方、またはそれと疑われる方▽妊娠中、授乳中の方▽新型コロナウイルスの検査を受けた、診断された方――です。それぞれの内容について、詳しくはこちらをご覧ください。
なお、病気や手術、薬剤の種類は多岐にわたり、1つ1つの基準上は献血可能と判断できる内容でも、個人差を含め複数の条件が重なることで献血をご遠慮いただく場合があります。最終的な判断は当日の問診を行う医師に委ねられていますので、ご理解いただけますようお願いします。
6月14日は、血液という「いのちを救う贈り物」をいただく献血者の皆さんに感謝するとともに、献血活動のボランティアの方々に敬意を表し、血液製剤を必要とする方のために献血が欠かせないことを広く啓発する日です。6月14日は、ABO式血液型を発見し1930年にノーベル賞を受賞したオーストリアの病理学者カール・ラントシュタイナー氏の誕生日でもあります。
2021年のキャンペーンでは、安全な血液供給の確保における若者の役割に特に焦点を当てています。多くの国で、若年層は献血による安全な血液供給の実現を目指す活動の最前線に立っています。私たちは世界中の献血者に感謝するとともに、定期的な献血の必要性について訴え、日本における若年層の献血の機会減少を改善したいと考えています。
例年、世界献血者デーにはさまざまな地域の血液センターでイベントなどが行われています。ぜひお近くの献血ルームのページをご覧ください。
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