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“感染”していないのに高体温―新生活様式定着の影響で起こる発熱、その要因と対策は

公開日

2022年11月22日

更新日

2022年11月22日

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2022年11月22日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年11月22日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

熱っぽさや倦怠(けんたい)感を覚えて体温を測ったら普段よりも高く、コロナに感染したかと思ったが検査結果は陰性だった――。新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の拡大以降、このような方が増えてきているといいます。ウイルスや細菌ではなくストレスなどが原因となって起こる発熱(と同程度の、炎症反応を伴わない高体温)は元来「機能性高体温症」と呼ばれます。新しい生活様式が定着しつつある昨今の日本ではその病態に変化が生じてきていると、国際医療福祉大学成田病院心療内科教授の岡孝和先生は解説します。コロナ拡大以後の機能性高体温症の特徴や予防・対策について、岡先生に聞きました。【田中理子】

New Normalの時代、人々の体に現れている変化

コロナ以前は、機能性高体温症はほぼイコール心因性発熱、すなわち心理社会的なストレスが関係する体温上昇で、微熱程度の高体温の原因のほとんどは慢性ストレスと考えて間違いありませんでした。ところが、コロナの時代になり、ストレスだけではなく、生活の変化に伴う複数の要因の総和として理解する必要が出てきています。

パンデミック直後は、コロナで有名人が亡くなったニュースが多々報道されました。「自分もコロナにかかったら死んでしまうのではないか」「誰かにコロナをうつしてしまったらどうしよう」という不安や恐怖といった心理的な要因からくる高体温は、従来の心因性発熱の理解と同じでよいでしょう。

それに加えて、コロナの拡大後、大きく変化した日本人の生活習慣も要因の1つになっていると考えられます。マスクの着用、リモートワークの浸透、オンライン会議の導入、入店前の体温測定と消毒――。こうした変化に私たちは少しずつ適応し、今は「New normal」として定着しつつあるように見えます。

しかし、こうした新しい生活様式の普及に伴い外出の機会が減少した結果、心身の健康に変化が生じ、感染症法で発熱と判断する37.5℃以上の高体温として現れている方がいるのも事実です。この要因は「deconditioning」と「体温の概日リズム障害」の2つに分けて考えることができます。

deconditioningを簡潔に要約すると「活動不足による自律神経系や身体調節機能の異常」です。行動制限がほとんど撤廃された2022年11月現在でも、リモートワークやオンラインツールの活用が当たり前になって、外出する機会が減ったままという方もいるでしょう。家にこもって日光を浴びない生活が続くと、運動量が減少して全身の筋力が低下し、自律神経機能も乱れてきます。自律神経の乱れによって体温を一定に保つ調節機能も失調し、高体温(体温の概日リズム障害を伴うことが多い)として現れやすくなります。その1つの例は、いったん治っていた起立性調節障害のお子さんで、長期間に及ぶ自宅待機の後、学校が再開されたとき、倦怠感、めまい、動悸を訴え登校できなくなり、病院で再度、治療を受けなければならなくなったというエピソードです。起立性調節障害のうち、特に起立試験で体位性頻脈症候群を呈する子どもは機能性高体温症を合併しやすいことが知られています。また長期間外出せず、汗をかかない生活が続くと、汗腺の発達が遅れ、放熱反応が生じにくくなるため、夏場では熱がこもりがちになり、高体温を呈しやすくなってしまいます。

また体温の概日リズム障害とは、体温の周期が適切なリズムから外れてしまっている状態を指します。通常、昼間に活動する人の体温は起床時がもっとも低く、昼~夕方にかけて段々とピークを迎えて就寝前に低下します。しかし、日に当たらない生活や夜遅くに作業をする生活を送っているとこのリズムが崩れ、

  • 体温が低いはずの深夜に高体温になる
  • ピークを迎えるべき日中に体温が上がらない、むしろ低下する
  • 日内変動自体が消失して高体温状態が続く

――などの状態が生じるのです。

深夜に体温が高い状態が続くと入眠が困難になるため、朝すっきりと起きられません。対して、本来活動する時間帯である日中の体温が低いと、倦怠感や意欲の低下、集中力の低下などの不調も現れるようになります。この状態が慢性化して睡眠・覚醒のリズムが崩れると、不眠に至ることもあります。体温のリズム、睡眠・覚醒のリズムはともに視床下部の視交叉上核(哺乳類の体内時計の中枢となっている脳内の小さい領域)のはたらきによって調節されているため、体温のリズム失調は、しばしば睡眠にも影響を及ぼします。

脳の疲労回復 電子書籍やスマホ、ネット利用は逆効果にも

まずは自分の体温の概日リズムを知るために、起床後・昼・夕方・就寝前の合計4回体温を測り、どの時間帯が一番高体温だったかを確認しましょう。就寝前の体温が一番高い場合やほとんど日内変動がない場合は、概日リズム障害の可能性があります。

概日リズム障害があると思われる場合、まずは以下の2点を2週間続けてみてください。

  • 朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びる。
  • 窓の付近で朝食を食べる。時間はおよそ20分程度、直射日光でなくてもよい。

これだけでも概日リズムが元に戻り、不眠や日中の倦怠感、イライラ、集中力低下などの症状が改善することがあります。

写真:Pixta

さらに、日頃から「疲れる前に休む(休憩を入れる)」ことを意識するようにしましょう。「疲れたら」ではありません。「疲れる前に」が大切です。脳の疲労は気付きにくいものですが、たとえば集中力が途切れてきたときは脳が疲れているサインです。パソコンの画面の前でぼーっとする、眠くなる、頭痛がするなどの症状を自覚した場合、脳は限界が近づいていますから、早めに、できればそうなる前に休憩を取ってください。

ただし、休憩と言いながら疲労している神経回路を別の用途で使い続けるようなことはおすすめしません。たとえば、デスクワークで日常的にパソコンと向き合う仕事の人が休憩時間に電子書籍での読書やスマホいじり、インターネットサーフィンなどをすることは、同じ神経回路を使っていますから余計に脳が疲労してしまいます。気分的なストレス解消にはなるかもしれませんが、仕事で使った脳の神経回路をさらに酷使するため、疲労回復を阻害する恐れがあります。運動する、外の景色を眺めるなどの別の神経回路を使った休憩を取り入れることが大事です。

また、疲れる前にきちんと休憩を取れるようになるためには、自分自身の体の声を聴く練習をすることも有用です。たとえば、普段食事を短時間で済ませがちであればご飯をゆっくり味わって食べる時間を設けることも体の声を聴く練習になり、継続することで体が発するサインに気付きやすくなります。このほか、1日のスケジュールに「この時間(これをした後)は絶対に休む」という時間(事柄)を決めてアラームをセットし、休憩を規則的に取るようにするのも1つの方法です。自律神経機能は条件付けが可能です。条件付けが成立すると、意識していなくても体はその時間帯になると休憩モードになります。ですから「リラックスできるルーティーンを持つ」ことはとても大切です。自分が無理なくできるスタイルで体温のリズムを元に戻す工夫を取り入れてみましょう。

写真:Pixta

発熱の原因 コロナとは限らず―自身の体温リズム理解を

コロナ拡大を機に、病院やお店の入口で体温測定を行うことが標準的になりつつある昨今において、我々は「発熱」に対して敏感に反応するようになりました。この結果、コロナ前から機能性高体温症である患者さんの日常生活にも影響が及んでいます。私の診ている患者さんの中にも、病院外来を訪れるたびに受付で引き止められる、無症状であるにもかかわらず登校や出社を拒否されるなどといった経験をした方がいらっしゃいます。従来の患者さんにとっては受難の時代になっていると言わざるを得ません。

人が高体温になる原因は、ここまで述べてきた自律神経や概日リズムの乱れ、さらには日頃のストレスや心理的不安など非常に複雑であり、ウイルスや細菌だけではありません。まずは、このことを理解していただきたいと思います。さらに、日本人の日中の平均腋窩(えきか)温(標準偏差)は36.9±0.3℃です。健康な人の腋窩温の日内変動は0.5~1.0℃あるため、早朝の体温が36℃台であっても、昼間の体温が37.0℃以上になる方も決して珍しくないということも知っておいてほしいと思います。

さらに、体の不調を自覚する体温は人によって差があります。37.5℃でも元気に活動できる方がいれば、36℃台後半でつらいと感じる方もいますので、健康なときの自分の体温リズムを知っておきましょう。そして普段よりも体温が高く倦怠感や集中力低下を覚える場合、健康なときと体温のリズムが違ってきた場合は、体温の数字だけにとらわれすぎず、最近の生活を見直し、しっかりと休息を取ることが大事です。もし体調不良が続く場合は、病院を受診し医師に相談してください。
 

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