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連載特集

東北大学病院、最新放射線治療機を導入―今秋稼働へ

公開日

2021年02月09日

更新日

2021年02月09日

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2021年02月09日

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東北大学病院に導入されるMRIリニアック(エレクタ提供)

東北大学病院(仙台市)は、磁気共鳴画像化装置(MRI)とリニアック(放射線治療装置)を融合した最新のがん治療装置(MRIリニアック)の導入を決めた。2021年10月ごろの治療開始を予定している。この装置の従来機との違い、患者にとってのメリットなどについて、同院放射線治療科の神宮啓一教授に聞いた。

従来の装置とどう違う?

導入されるのは、放射線治療装置の製造やシステム開発を手掛けるスウェーデンのエレクタ社製「エレクタ・ユニティ」。この装置は高画質のMRIと、高精度の放射線照射装置が一体化したもので、東北地方では初、国内でも今春以降数台が動き出すのみで、今のところ限られた施設でしか導入されていない。

従来のがん放射線治療は、放射線の一種のX線を使って体の内部を映し出すCTの画像を基に狙いを定め、腫瘍(しゅよう)に放射線を照射していた。ただ、CTでは軟部組織の中にある腫瘍を描出するのが難しい、放射線照射中の画像が得にくいなどの理由から、照射位置に多少の誤差が生じていた。腫瘍全体に放射線を当てられなければ、生き残ったがん細胞から再び腫瘍が大きくなる恐れがある。そのため、誤差の範囲もカバーできる程度の「のりしろ(マージン)」を含めて照射する必要があった。画像の読み取り精度は医療者の経験などによっても変わり、それが施設ごとの治療成績の差につながる一因にもなっていたという。

その一方で、マージンの中にある正常な組織に障害が起こらないように、照射する放射線の強さを絞らなければならないというジレンマがあった。また、治療のたびにCT撮影が必要となるため、治療とは直接関係のない放射線被ばくが避けられなかった。

MRIは強い磁気によって画像を得るため、撮影による放射線被ばくが起こらない。CTが苦手な軟部組織でも鮮明な画像が得られるため、より高精度にピンポイントでがん組織を“狙い撃ち”することができる。のりしろを最小限にして腫瘍以外への影響を極力抑えられるので、より高出力の放射線照射が可能になる。さらに、リアルタイムで体内の状態を見ながら治療ができるため、呼吸などによって目的外の臓器が照射範囲内に入ったときなどには照射を一時中断するといった安全策をとることもできるという。

最新装置のメリットは

こうした特徴は、患者にとってどんなメリットがあるだろうか。神宮教授が解説する。

「1番のメリットは治療期間が短くなるということです。たとえば前立腺がんは、従来の装置だと35~40回に分けて治療が必要で、7~8週間かかっていました。海外で行われた比較試験では、MRIリニアックのような高精度放射線治療装置だと5回、1週間で同じ効果が得られるという結果が出ています。また、高出力で照射できるのでがんを破壊する能力が高くなり、これまでは制御が難しかった腺がんや肉腫などにも効果が期待できます。膵臓(すいぞう)がんが好例で、放射線が効きにくいうえに十二指腸など放射線に強くない臓器が周囲に密集しているため、従来の装置では治療が非常に難しかったのです。海外でも膵臓がんに対する臨床試験が行われつつあり、我々も期待しています」

病院・医療者にもメリットがある。患者1人あたりの照射回数が減るため同じ期間で比べると治療可能な患者数が増え、より多くのがん患者を救うことができる。その副次的効果として、医師の“働き方改革”にも寄与できる可能性もある。

ただし、1回あたりの治療時間は、従来の装置に比べて長くなる。

「治療直前にMRIを撮り、照射範囲の輪郭をあらためて調整します。毎回そうしないと誤差を減らすことができません。治療時間短縮のため、AIによる自動化の研究もしていますが、今の段階では医師が最終的な微調整をします。それらもあって従来よりも時間がかかるのです」と神宮教授は説明する。

日本からのエビデンス発信も

前述のように、今回導入されるMRIリニアックでは治療期間の短縮が望める。

「従来2カ月程度かかっていた治療が1週間で済むようになり、働きながらがん治療を受けたいという患者さんの期待に沿えるかもしれません。また、この新型コロナ禍にあって、病院に行く回数をできるだけ減らしたいという患者さんの要望をかなえられる可能性もあります。東北はとても広くて、病院と自宅の距離が遠いという患者さんも少なくありません。何度も繰り返し通院するのが難しい患者さんのために、できるだけ少ない回数で治療できるよう、これからも研究を続けていきます。世界的にもこの装置による治療実績は蓄積されていないので、日本発のエビデンスを発信もしていきたい」と、神宮教授は展望を話した。

冨永病院長(右)と神宮教授=東北大学病院提供

「患者にやさしい医療提供可能に」―冨永悌二病院長

「東北大学病院は日本のがん医療をリードする大学の1つ、という自負をもって治療・研究にあたっています。我が国のがん医療の先端を走り、神宮教授が中心となって『信頼できる医療』を展開してもらえるのではないかという2つの点から、導入を決めました」

東北大学病院の冨永悌二病院長は、MRIリニアック導入の目的をそう説明する。

「精度が高いということは、放射線による副作用が抑えられるなど患者さんにやさしいということで、東北大学病院のモットーにも合致します」

「東北地方には最新の放射線治療施設がそろい、患者さんにとっては選択枝が増えて有益だと思います。これを機に、関東圏の人にも東北大学病院が提供している医療を知ってもらいたい。少なくとも、宮城県に限らず東北6県のがん患者さんにはMRIリニアック治療の恩恵を受けていただきたいと思っています」と冨永病院長は期待する。

AI人材育成に先手も

神宮教授がMRIリニアックの照射範囲調整にAIを活用する考えを示したように、医療分野では今後AIの活用が広がるとみられている。その人材育成でも東北大学病院はすでに手を打っている、と冨永病院長は説明する。

保健医療分野でAI研究開発を推進する人材を養成する拠点形成の取り組みを支援する文部科学省の「保健医療分野におけるAI研究開発加速に向けた人材養成産学協働プロジェクト」に2020年11月、東北大学が採択された。全国2拠点のうちの1つ(もう1拠点は名古屋大学)で、北海道大学、岡山大学を連携校とし、民間企業・団体などの協力を得ながら、医療現場のニーズ・知見を用いて人材を育成する。東北大学には協力校として山形大学や福島県立医科大学がつく。北海道大学、岡山大学でも同様に近隣の協力校が集まる。さらに地域の中核病院や企業なども加わってコンソーシアムを作り、Web配信を中心とした大学院教育や、社会人などを対象としたインテンシブ(短期)コースを通じて人材を育成する構想だ。

「地方の大学は、医療におけるAI教育が必要との意見は一致しますが、教育システムを作ろうにも教える人材が不足しています。いくつかの大学が連携することで教える人に厚みが出て、多くの学生にレベルの高い教育ができます。このプロジェクトを通じて、医療課題の中でどういったことがAIで解決でき、そのためにはどうすべきかをデザインできる人材を育成していきます」と言う。

冨永病院長の言葉には「常に1歩も2歩も先を見据えて走り続ける」という気概が感じられた。

*東北大学病院のMRIリニアック特設サイトはこちら

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