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妊娠中の葉酸摂取で出生後の川崎病発症リスクが3割低減―横浜市大などの研究チーム分析

公開日

2024年01月09日

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2024年01月09日

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2024年01月09日

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川崎病は乳幼児の血管に炎症を起こす原因不明の疾患であり、後遺症の冠動脈障害による心筋梗塞や突然死の可能性もある。現在、100人に1人以上の乳幼児が川崎病に罹患する。妊娠中の葉酸サプリメントの服用により、血液中の葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは、生後12カ月までの川崎病の発症リスクが約30%低くなるとする分析結果を、エコチル調査神奈川ユニットセンター(横浜市立大学小児科 福田清香医師、伊藤秀一主任教授/兼センター長)の研究チームが2024年1月9日に発表した。成果は米国医師会の医学誌「JAMA Network Open」に2023年12月28日付で掲載された。これまでのさまざまな研究によって、妊婦の葉酸摂取が神経管閉鎖障害を予防する効果が証明されていた。今回の研究により、葉酸摂取が川崎病のリスク低減につながる新たな可能性が示された。研究チームは今後、解析年齢を5歳まで拡大し、出生後の影響も含め川崎病の発症に関連する因子を探求する。また、母親の妊娠中の血液中葉酸濃度の高さが、生まれた子どもが何歳になるまで川崎病の発症を減らす可能性があるかについても解析を進める予定という。

血液中葉酸濃度高めるサプリ―食事は影響せず

環境省が2010年度から開始した「子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」)の一環として分析された。エコチル調査に登録された妊婦から生まれた約10万人の子どものうち、母親の妊娠中の葉酸摂取に関する情報が得られていないなどで対象外になったケースを除いた8万7702人を対象に調査。うち336人が1歳までに川崎病を発症した。

対象の母親を妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取頻度によって

  • 毎日
  • 週1回以上
  • 月1回以上
  • 摂取なし

――の4群に分け、さらに妊娠中の母親の血液中葉酸濃度の分布を検討した。子どもの背景因子のばらつきを「プロペンシティスコア解析」という手法でバイアス補正して解析した結果、妊娠中期から後期の血液中葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは、生後12カ月までの川崎病発症頻度が約30%低かった。また、妊娠中期から後期にかけて葉酸サプリメントの摂取頻度が週1回以上の母親から生まれた子どもでも同様の傾向があった一方で、母親の食事からの葉酸摂取量による子どもへの影響はみられなかった。このことから、頻回な葉酸サプリメントの摂取が血液中葉酸濃度を高めていることが分かったとしている。また、妊娠初期の葉酸サプリメント摂取も、有意ではないが同様に川崎病の発症が減少する傾向であることも分かったという。

伊藤主任教授は「葉酸の新たな効能の可能性は、妊娠中の葉酸摂取を推進するうえで貴重な材料と考えます。今回の調査でも妊婦さんの半分しか葉酸サプリメントを服用しておらず、海外と比較すると大きく遅れています。川崎病のリスクを減らすという今回の結果が、葉酸摂取促進の一助になることを期待します」とコメントした。

乳幼児突然死の原因にも―川崎病とは

川崎病は主に乳幼児に発症する急性熱性疾患。全身の血管に炎症が生じ、後遺症として心臓の筋肉に栄養と酸素を供給する冠動脈に瘤(こぶ)が発生。最悪の場合には心筋梗塞を起こして突然死することがある。日赤中央病院(現・日本赤十字社医療センター)小児科に勤務していた川崎富作氏が1967年に報告した。現時点で原因は明らかになっていない。

エコチル調査は、全国約10万組の親子を対象に、胎児期から小児期における化学物質やその他の環境因子への曝露(ばくろ)が子どもの健康に及ぼす影響を調べる大規模な疫学調査。2010年度に始まり、定期的に健康状態を確認しながら現在も調査が続いている。

国立環境研究所が研究の中心機関である「コアセンター」を務め、国立成育医療研究センターに医学的支援のための「メディカルサポートセンター」を設置。各地で調査を行う、15の大学などを中心とした地域調査拠点「ユニットセンター」が実務を担当している。

今回の研究は、横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学、福田清香 医師、伊藤秀一 主任教授▽国立成育医療研究センター データサイエンス部門、小林徹 部門長▽京都大学大学院医学研究科 臨床統計学 田中司朗 特定教授――により行われた。
 

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