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新型コロナ水際対策の世界地図~世界一厳しい日本の対策

公開日

2022年02月24日

更新日

2022年02月24日

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2022年02月24日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年02月24日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

今年(2022年)3月から日本の水際対策が緩和されます。それまでは「鎖国」と呼ばれるほどの厳しい水際対策がとられてきましたが、世界的にも対策が緩和される中、日本もようやくその方向に進むことになりました。ただ、日本の対策はまだ厳しすぎるという声も国内外から聞かれます。今回は日本の水際対策と世界の対策を比較しながら、これからの日本が進むべき道を検討してみます。

日本の水際対策の変化

日本で新型コロナウイルスの水際対策が最初に実施されたのは2020年1月末のことで、中国・湖北省からの渡航者の入国を拒否した時でした。その後、同年3月初旬には中国全土からの入国を拒否し、3月末にはヨーロッパのほとんどの国が入国拒否地域に指定されました。

20年4月以降も日本が入国を拒否する国は増加を続け、6月ごろまでに世界のほとんどの国に及んでいきました。これらの国々の多くは外務省の発する感染症危険情報のレベル3(渡航禁止勧告)に該当するため、日本からの渡航も、強制的ではないにしろ止められています。まさに鎖国という言葉がピッタリの状況になりました。

その後、20年7月には日本で第1波流行が収束したこともあり、日本政府は少しずつ水際対策の緩和に入ります。これがビジネストラックと呼ばれる制度で、流行が落ち着いている国と協定を結び、新型コロナ検査の陰性が証明されたビジネス関係者の往来を再開するというものでした。この方式はアジア諸国との間で実施されましたが、依然として多くの国からの入国拒否は続きました。そして20年12月から日本で第3波の流行が起こるとともに、政府はビジネストラックを中止します。

2021年になると世界的にアルファ株やデルタ株の流行が拡大し、水際対策は厳しい状態が維持されていきました。やがて、同年9月に東京2020オリンピック・パラリンピックが無事終了してから、政府は水際対策の緩和措置を発表します。これは11月から外国人の入国を認めるとともに、入国後の健康監視措置を緩和するというものでした。しかし、この緩和が開始された直後の11月末、アフリカ南部からオミクロン株の流行が拡大したため、政府はこの緩和措置の中止を決定します。

そして2022年に入り、日本では第6波の流行が起こり現在に至っています。この流行がピークを越えた2月18日、政府は基本的対処方針を変更し、3月から水際対策を緩和することを発表しました。新型コロナの流行が始まってから通算で3回目の緩和措置になります。

世界の国々の対策状況

世界的には22年になり多くの国々が水際対策を緩和しています。これはオミクロン株の重症度が低いこともありますが、ワクチン接種が進んだことが大きく影響しています。

現在、日本は全ての国の外国人の入国を拒否しており、こうした国は日本以外ではニュージーランドなど大変に少なくなっています。また、日本人が入国(帰国)する際の措置としては、入国前検査による陰性証明書の提示、入国時の検査、入国後7日間の健康監視が基本で、一部の流行国からの入国者については3~10日の施設収容による健康監視を求めています。

写真:PIXTA

世界各国の入国時の措置は、欧米式とアジア式の2つに分けられます。欧米式は陰性証明書やワクチン接種証明書を提示すれば、入国後の健康監視を免除するものです。米国はいずれの証明書も必要ですが、英国はワクチン接種証明書、フランスは検査陰性証明書の提示を求めます。

アジア式というのはタイやシンガポールなどが実施している措置で、検査陰性証明書とワクチン接種証明書を提示すれば、入国後の健康監視期間が短縮されるというものです。入国後の検査が併用されることも多く、欧米式より慎重な対応といえるでしょう。

入国する際の措置として注目したいのは、入国時の検査です。日本では空港などで抗原検査が全員に行われますが、こうした全員検査が行われている国はアジアやアフリカなどに少数あるだけです。全員検査は手間がかかるだけでなく、空港の混雑を招くリスクもあるため、全員に実施するとしても、入国後の健康監視期間中に行う国が多くなっています。

日本での新たな水際対策

では、今回、日本の水際対策はどのように緩和されるのでしょうか。

まず、外国人の入国を認め、入国者数の上限も現行の1日3500人から5000人に増加させます。

入国時の措置としては、検査陰性証明書の提示、入国時の検査、入国後の健康監視の流れはそのままですが、入国後の自宅待機などによる健康監視期間を原則7日とし、3日目の検査で陰性ならば監視を終了することができます。もしワクチンを3回接種していれば、自宅待機は免除です。オミクロン株が拡大している指定国からの入国者の場合は、施設収容による健康監視を3日間行い、ワクチンを3回接種していれば、これを自宅などでの健康監視にすることができます。

なかなか複雑ですが、入国後の健康監視についてはかなり緩和されていると思います。たとえば、海外出張から帰国した人の滞在国が指定国でなく、ワクチン接種を3回受けていれば、入国後の自宅待機は不要になるわけです。先に紹介した欧米式とアジア式でいえば、その中間になるでしょう。

今後の課題は

このように、今回の水際対策には厳しい鎖国状態からの緩和がみられますが、指定国を感染者数やオミクロン株の発生状況など具体的な数値をもとに決めていくことが必要です。また、ワクチン接種3回というのは、日本国内の3回接種率が10%台であることを考えると、当面は厳しい対応ともいえます。

今回、入国者数の上限が5000人とわずかな増加だったのは、段階的に緩和していきたいという政府の意向によるものです。また、入国時の検査を引き続き全員に行うことから、空港の検疫所などでの業務量を考えての数になっているのでしょう。世界的にオミクロン株の流行が収束してきていることや、日本入国時に陰性証明書の提示を義務付けていることなどを考慮すれば、私は入国時の検査を縮小するのが可能ではないかと思います。そうすれば入国者数の上限をさらに増やすことができます。

水際対策の緩和は新型コロナからの出口戦略として不可欠な対応です。その一方、それを拙速に進めると新たな国内流行拡大を引き起こす可能性もあります。世界や国内の流行状況を見ながら慎重に進めていくことが求められています。
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。