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新型コロナ、麻疹、髄膜炎菌…パリ五輪で注意すべき感染症

公開日

2024年06月24日

更新日

2024年06月24日

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2024年06月24日

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2024年06月24日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

7月26日から17日間にわたり、フランス・パリで第33回オリンピック競技大会が開催されます。前回の東京大会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が急拡大する中、ほとんどの会場が無観客になりましたが、今回は久しぶりに世界中から多くの観客が参加する大会になりそうです。その一方で、現在、世界各地ではさまざまな感染症の流行がくすぶっており、この大会を契機に流行拡大が起きないように注意をする必要があります。オリンピックのように世界中の人々が集う場では、感染症の伝播が発生しやすくなるのです。今回は、パリ大会で注意を要する感染症について解説します。

COVID-19とインフルエンザ

前回(2021年)の東京大会は、新型コロナのデルタ株が世界的に拡大する中、ワクチン接種も始まったばかりの状況で開催されました。競技会場には直前のコロナ検査で陰性が証明された選手や役員のみが入場し、ほとんどの会場を無観客にするなど、厳しい感染対策がとられました。その後も流行は続いていますが、ワクチン接種や感染で免疫を獲得した人が増え、現在では小規模な流行になるとともに、重症化する患者も少なくなりました。このため、今回のパリ大会では、COVID-19の感染対策は大幅に緩和されています。

24年6月現在、日本や欧米などでは、COVID-19の夏の流行が徐々に拡大していますが、今のウイルス株のままであれば、大きな流行にはならないでしょう。ただし、会場などで集団感染が発生したら、主催者側は一定の感染対策をとるはずです。

インフルエンザに関しては、北半球の流行は収束していますが、オーストラリアや南米など南半球での流行がピークにあります。競技会場には、こうした国からの観客も少なからず入場しているため、そこでインフルエンザの流行が拡大する可能性があります。症状のある人には入場を控えてもらうとともに、観客は手洗いなどの感染対策をとることが大切です。

麻疹は世界で流行拡大中

現在、麻疹の流行がアジアやアフリカを中心に拡大しています。この原因の1つには、コロナ対策に追われて子どもの麻疹ワクチン接種が停滞したことがあり、こうした国々からの輸入事例を発端にして、欧米や日本でも少数ですが患者が発生しています。麻疹ウイルスは空気感染するため、観客の中に患者が紛れていると、感染が容易に拡大します。過去にもスポーツの国際大会などで、麻疹患者が多発したケースが幾度となく報告されており、今回のパリ大会でもそのリスクは高まっています。

麻疹の予防にはワクチン接種がもっとも有効な方法ですが、大会の観戦者全員が接種を受ける必要はありません。接種をおすすめするのは、過去に感染していない人やワクチンを2回受けていない人で、日本であれば30~50歳代の人がこれに該当します。この年齢で大会を観戦する人は、事前に麻疹ワクチンの接種を検討しましょう。

高い致死率の髄膜炎菌感染症

最近、スポーツの国際大会などで注目されているのが髄膜炎菌感染症の流行です。この病原体は飛沫感染し、混みあった場所、とりわけ大声を出す環境で感染リスクが増します。患者は脳炎や菌血症など重篤な症状を起こし、致死率は1割にも及びます。日本でも、2015年に山口県で開催された世界スカウトジャンボリーで、外国人参加者の中に患者が4人発生しました。2019年には、ラグビーの第9回ワールドカップ大会で、観戦に来日したオーストラリア人が発病しています。

髄膜炎菌感染症は、イスラム教徒がサウジアラビアのメッカを巡礼する際に感染するケースが数多いことが知られています。今年はフランス、英国、米国で、巡礼後に発病した事例が多数報告されており、オリンピックの会場で感染が拡大することも懸念されています。

この感染症には有効なワクチンがあり、大会の参加者、特に大会スタッフなどに接種が推奨されています。前回の東京大会でも、300人以上の医療ボランティアに髄膜炎菌ワクチンの接種が行われました。

飲食物からかかる食中毒

大会の期間は夏の最中になるため、飲食物から経口感染する食中毒にも注意が必要です。水はミネラルウォーターを飲み、加熱した料理を調理後、早めに食べることなどが感染対策になります。

2023年9月にフランスで第10回ラグビー・ワールドカップが開催されたときは、開催地の1つであるボルドーの飲食店で、外国人客にボツリヌス菌食中毒の集団感染が起こりました。魚料理のサーディンが原因だったようで、15人が感染し1人が亡くなっています。フランスは衛生状態のよい国ですが、夏の時期は病原体が増殖しやすい環境になるため、飲食物に注意することが大切です。

蚊媒介感染症のリスクも

現在、蚊に媒介される感染症が世界的に増加しており、特にデング熱が中南米や東南アジアで爆発的に増えています。これは、気候変動による温暖化や多雨により、蚊の生息数が増えていることが大きな原因と考えられています。

こうした流行国で感染した人が、ヨーロッパで国内感染を起こすケースも増えており、2023年はフランスやイタリアでデング熱の国内感染例が報告されました。フランスでは地中海沿岸での発生が多くなっていますが、パリ近郊でも確認されており、今年も発生する可能性が高くなっています。

また、ヨーロッパでは元々、蚊に媒介されるウエストナイル熱が流行しており、フランスでも2023年は40人以上の患者が確認されました。この感染症は発熱や発疹(ほっしん)を起こし、高齢者などでは脳炎を併発して死亡することもあります。今年は蚊の生息数の増加で、患者数がさらに増えることが予測されています。今夏、フランスに滞在する人は、忌避剤を塗るなどして、蚊に刺されないよう注意する必要があります。

今回のパリ大会は、東京大会のようにCOVID-19の流行が拡大していない分だけ、感染症のリスクは低くなりますが、現在、世界各地で発生している感染症流行の影響で、油断のできない状況にあります。日本から大会を観戦に行かれる方は、十分にご注意ください。
 

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。