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コロナの流行はいつまで続くのか?―終息ではなく共存への戦略変更

公開日

2021年08月19日

更新日

2021年08月19日

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2021年08月19日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年08月19日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルスのデルタ型変異株が世界的に猛威をふるっています。今まで感染者数が少なかった東南アジアでも拡大しているとともに、ワクチン接種で流行が制圧されつつあった欧米諸国でも流行の再燃がみられています。日本でも7月から首都圏などで発生したデルタ株の流行は、8月には日本全国に波及し、8月中旬の時点で日に2万人以上の感染者が報告されています。

新型コロナの流行が始まって1年半以上が経過していますが、この流行はいつまで続くのでしょうか。国民の皆さんも先が見えない中、精神的にかなり疲れてきていると思います。そこで今回は、今後のコロナ流行の見通しについて解説します。

想定外のデルタ株流行

今年の3月頃まで、新型コロナの流行は年内に終息すると考えられていました。ワクチン接種が昨年末から多くの国で始まり、その最先端を行くイスラエルでは接種率の増加とともに、新しい感染者がほとんど発生しなくなったのです。これはイギリスや米国でも同様でした。この時点でアルファ型の変異株が世界的に流行していましたが、ワクチンの効果は十分にありました。日本でも今年10月までには接種完了者が6割に達し、流行終息という見通しがされていたのです。

ところが、この予想を崩したのが、4月にインドで大流行を起こしたデルタ株の出現でした。この後、デルタ株は世界各地に拡大し、8月中旬には140カ国以上で流行しています。これ程まで短期間に拡大したのは感染力の強さによるもので、従来のウイルスの2倍以上の感染力があると考えられています。また、ワクチンの効果もデルタ株に対しては減弱しているとするデータが多くみられます。

このように、デルタ株の拡大により、コロナの流行予測が大きく変わり、それとともに、流行終息のための戦略にも変更が必要になってきました。

流行終息のための戦略

新型コロナの流行が始まってから、日本をはじめ多くの国では、マスク着用といった予防対策や人流抑制などで流行を抑えつつ、ワクチン接種という切り札で流行を終息させる戦略をとってきました。

飛沫感染や空気感染する病気は、集団内で一定割合の人が免疫を持てば、流行がそれ以上は広がらなくなります。これを集団免疫と呼び、原因となる病原体の感染力でその割合が決まります。たとえば、麻疹は感染力が大変強いので、集団の9割以上が免疫を持たないと終息しません。インフルエンザはこの割合が6割とされています。新型コロナの場合は、インフルエンザと同様に約6割と考えられていました。

この免疫を持つ人の数は、「感染した人」と「ワクチン接種を受けた人」の合計になります。ただし、ワクチンに感染予防効果がないと、ワクチン接種を受けていても免疫のある人にはカウントできないのです。

実はインフルエンザワクチンには発症予防効果や重症化予防効果がありますが、感染予防効果は証明されていません。コロナワクチンはどうかというと、イスラエルや米国などでの使用経験から、感染予防効果があるとする調査結果が報告されてきました。

このような科学的背景から、流行終息の戦略としては、コロナワクチンの接種率を向上させ、それによって集団免疫の割合を6割以上にする方法がとられてきたのです。

デルタ株登場による戦略変更

しかし、デルタ株の出現によってこの戦略に大きな変更が必要になっています。デルタ株の感染力からすると、集団免疫による流行終息には8割以上の人が免疫を持っている必要があるからです。また、コロナワクチンについても、デルタ株に対しては感染予防効果が低下している可能性もあるのです。つまり、ワクチンだけで集団免疫を達成するのは、かなり難しい状況になっています。

このため接種完了者が6割以上になっているイスラエルや、6割に近いイギリスや米国でも、デルタ株による流行が6月末ごろから起きています。ワクチン接種を受けている人の感染は少ないですが、従来の割合では集団免疫が達成できないことを示す結果になっています。

このように、デルタ株の流行発生により、新たなコロナ戦略を策定しなければならない状況にあります。

流行終息ではなく共存へ

この戦略変更で考えなければならないのは、デルタ株の発生によりコロナ流行の終息はかなり先になる可能性が高いことです。終息に必要な集団免疫率に達するためには、年単位の時間が必要になるでしょう。

そうであるなら、今は終息を期待するよりも新型コロナの流行と共存していくことが大切だと思います。ただし、それは緊急事態宣言を何回も発出したり、マスクなどの予防対策を常時行ったりするような共存ではありません。

そうした煩わしい対策を常時することなく共存するには、新型コロナをインフルエンザと同様な感染症にすることが必要だと思います。インフルエンザは長年流行している感染症のため、私たちは一定の基礎免疫を持っています。だから感染力はそれほど強くありませんし、重症化する人もほんの一部です。

その一方、新型コロナは新しい感染症なので、私たちはほとんど免疫を持っていません。そこで、まずはコロナワクチン接種を拡大させ、多くの国民を一定の免疫レベルにまで到達させるのです。コロナワクチンの発症予防効果はデルタ株に対してやや低下していますが、まだ有効な域にあります。そして今後、新型コロナの流行が再燃してきたら、ワクチンの追加接種やマスクなどの予防対策を加えて対処するのです。

写真:PIXTA

こうした流行との共存はイスラエルやイギリスで現在、行われており、デルタ株による感染者は増加傾向にありますが、重症者や死亡者は少なく抑えられています。

日本での今後の見通し

では、こうした戦略のもと、日本での流行は今後どうなっていくでしょうか。今回の第5波の流行は、8月中は続くと予想されています。この流行を抑えるには人流抑制や各自の予防対策に頼るしかありません。これと並行してワクチン接種を拡大させ、10月頃までには国民の6割以上が接種を完了する必要があります。これは集団免疫のためではなく、新型コロナをインフルエンザと同様の感染症にするためです。

11月以降、冬の季節を迎えると、新型コロナの流行は高い確率で再燃すると考えられます。その時までにワクチン接種を受けておけば、発症はかなり抑えられますし、少なくとも重症にはならないでしょう。ワクチン接種を受けなかった人は、各自の予防対策を強化するようにしてください。

今後、新たな変異株が流行するなど再び想定外の事態が起こることも考えられますが、これからは新型コロナの流行と共存する戦略が必要なのです。

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。