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連載病で描く世界地図

なぜ「北風がとても冷たいと、風邪をひいてしまう」?…新型コロナにも通じるその訳は

公開日

2020年12月23日

更新日

2020年12月23日

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2020年12月23日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年12月23日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

森高千里さんの代表曲に「渡良瀬橋」(1993年)があります。若い女性が冬の渡良瀬川の河原で別れた男性のことを回想するという内容で、作詞は森高さんご自身だそうです。愛する人への思いを情感こめて歌う彼女の姿には、それまでのアイドル路線から脱皮した歌手・森高千里の誕生が感じられました。この歌詞の中に、川の流れを見ていたら、「北風がとても冷たくて、風邪をひいちゃいました」というくだりがあります。この一節は私の耳に強く残っていますが、なぜ体が冷えると風邪をひいてしまうのでしょうか。現在流行中の新型コロナウイルス感染症も、寒くなると流行が拡大するといわれています。そこで、今回は気温の低下と風邪や新型コロナの関係を解説します。

風邪症候群風邪とは

上気道炎を起こすウイルス感染症のことで、医学的には風邪症候群と呼ばれます。症状は咽頭(いんとう)痛や鼻水など軽度なもので、通常は数日で改善します。原因はライノウイルスが半分ほどを占めており、1割がコロナウイルスで起こります。このコロナウイルスとは現在流行している新型コロナウイルスではなく、以前から知られていた風邪を起こすコロナウイルスです。ライノウイルスは秋に流行が多いのに比べて、コロナウイルスは冬に流行しやすいとされています。風邪の患者から飛沫感染や接触感染でこうしたウイルスが拡大するので、新型コロナウイルスと感染経路は同じです。

気温低下と体の変化

では、体が冷えるとなぜ風邪をひくのでしょうか。

気温の低下で体が冷えてくると、体内ではさまざまな変化が起こります。血管が収縮して体温を下げないようにする反応は代表的なもので、この結果として血圧が上がったり、狭心症の発作を起こしたりします。気道の粘膜が過敏になり、ぜんそくを起こすこともあります。

風邪についても、体が冷えると気道周囲の血管が収縮したり、気道粘膜が障害されたりして、ウイルスが侵入しやすくなると考えられています。このため、マフラーを巻いて首の周囲を温めることや、加湿して気道粘膜の障害を少なくすることが、風邪の予防には効果があるとされます。こうした対応が、新型コロナの予防にも、ある程度は有効なのでしょう。

写真:Pixta

気温低下でウイルスは長く生きる

気温低下によるウイルス側の変化も考える必要があります。新型コロナウイルスについては、香港大学の研究者が調査を行っており、温度の低下によりウイルスの生存期間が長くなるという結果が出ています(Lancet4月2日、2020)。インフルエンザウイルスでも同様な結果があり、風邪を起こすウイルス全般にもあてはまると考えられています。

このような特徴からすれば、患者の飛沫の中のウイルスが机の上などに付着すると、冬場はそこで長い時間生きていることになります。それだけウイルスに接触して感染するリスクも高くなるのです。これも、気温が低下すると風邪をひきやすい原因の1つなのでしょう。

なお、冬は気温の低下とともに湿度も低下して乾燥します。湿度低下が飛沫感染するウイルスの生存に影響するか否かについては、さまざまな研究結果がありますが、低い湿度の方がウイルスは長く生きるという結果が多いようです。

一番の原因はヒトの行動変容

気温が下がると風邪をひきやすくなる原因として、私はヒトの行動変容が最も大きいと思います。

気温が下がると屋外は寒いので、屋内で過ごす時間が長くなります。そこに多くの人が集まると密集状態が作られます。また、外気が寒いので換気をあまりしなくなり、密閉状態になります。こうした空間で大声を出したり歌ったりすれば、いわゆる3密が形成されることになるのです。そこは飛沫感染が起こりやすい環境で、その中に風邪や新型コロナの患者がいれば、周囲の人に感染を起こすリスクは高くなります。

さらに、寒くなると水が冷たくなり、手をあまり洗わなくなります。風邪にしても新型コロナにしても、手洗いは最も基本的な予防法ですが、それもおろそかになってしまうのです。これも寒さによる行動変容で、風邪や新型コロナが流行しやすい原因の1つです。

「薄着で風邪はひく」は換気をしないため?

このように考えてみると、寒い時期に風邪をひかないようにするためには、換気や手洗いを積極的に行うことが大切です。手洗いについては冷たい水ではなく、温水を使って洗うのがよいでしょう。温水がなければアルコール消毒でも代用できます。

一方、寒い時期に換気をするのは、なかなか大変です。厚生労働省は新型コロナの予防法として、連続的な窓開け換気を推奨していますが、寒い地域で窓を連続的に開けておくというのは、とても耐えられるものではありません。30分ごとに窓を開けるような、間欠的な換気でも仕方ないでしょう。また、換気が不十分な場合はHEPAフィルター付きの空気清浄機の併用を、厚労省は勧めています。さらに、室内の温度を暖房で18℃以上にすることや、湿度は40%以上を保つことも大切です。

これに加えて室内でも厚着をすることは、換気を促進するために必要なことです。昔から「薄着をすると風邪をひく」といわれていますが、屋内で薄着をすると、寒いので換気をしなくなり、それが原因で風邪をひくという解釈もあるように思います。

冬に河原で夕日をながめるのなら

冬の季節は空気が澄んでいて、渡良瀬川にかぎらず河原から見る夕日はとても美しいことでしょう。コロナ疲れの中、そんな景色を見ると心はきっと安らぎます。ただ、その時にはマフラーを巻くなど、防寒に気を付けてください。また、あまり長い時間河原にいるのは避けたほうがよいでしょう。

そして大切なのは帰宅してから。衣服にウイルスが付いているかもしれないので、コートやマフラーは玄関で脱ぐのがよいでしょう。そして温水で手をよく洗うこと。家の換気も心がけてください。こうした注意が風邪や新型コロナの予防に有効なのです。

参考文献:厚生労働省~冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。