連載病で描く世界地図

大型連休中の旅行者は前年比1.6倍―“久しぶりの海外”を健康的に楽しむには

公開日

2024年04月25日

更新日

2024年04月25日

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2024年04月25日

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

COVID-19(新型コロナウイルス感染症、以下「新型コロナ」)の流行が落ち着いてきたことで、今年の大型連休には久しぶりの海外旅行を計画している人も多いことでしょう。しばらく旅行をしていない間に、海外での感染症対策など健康面の注意点を忘れてしまった方も少なくないと思います。そこで、今回は海外旅行を健康的に楽しむ方法を再チェックしてみます。

人気の旅行先はアジア

JTBの発表によると、今年の大型連休中は、海外旅行者数が前年比67.7%増の52万人に上ることが予測されています。新型コロナの流行により、過去4年間は海外旅行に出かける人が大幅に減っていましたが、ようやく復活する気配です。ただし、円安が進んでいる影響で、短期間の旅行が売れ筋になっており、人気の滞在先には韓国、台湾、東南アジアなどがあがっています。

コロナ禍前の2019年までは、毎年1500万~2000万人の日本人が海外に観光や仕事で出国していました。これは日本国民の6~8人に1人が、毎年1回は、海外に出かけていた数になります。海外旅行が日常的な行動になっていたわけで、海外滞在中に健康面でどのような注意をするかも心得ていたと思います。

しかし、新型コロナが流行した4年間で、こうした知識も薄れてきている人が多いのではないでしょうか。特に今回の大型連休で人気のアジア地域は、感染症のリスクが高いため、それに関する十分な予防対策が必要になります。

飲食、蚊、動物に注意

飲食物からかかる下痢症はもっともリスクの高い感染症です。大腸菌が原因になることが多く、トイレから2~3日出られないほどの下痢になることもあります。予防には加熱した料理を選ぶことや、水はミネラルウォーターを飲むなどの注意をしてください。生水から作られた氷も危険です。

海外滞在中に下痢症を起こした場合、まずは水分補給をし、下痢の回数が多いようなら下痢止めを服用しましょう。旅行前に薬局などで下痢止めを購入し、持参することをおすすめします。ただし、血便や高熱を伴う下痢の場合は、下痢止めを服用せずに医療機関を受診してください。

東南アジアでは蚊に媒介されるデング熱にも注意が必要です。この地域では現在、デング熱が大流行しており、都市部やリゾート地でも多くの患者が発生しています。デング熱を媒介するヤブ蚊は昼間に吸血するため、蚊の多い場所に昼間立ち入る際は、虫除けの薬を皮膚に塗るなどして予防します。旅行前に虫除けの薬も購入しておきましょう。

デング熱は感染後1週間ほどで、発熱や発疹などの症状がみられます。旅行中に感染すると、多くは帰国後の発病になるので、症状が出たら早めに国内の医療機関を受診してください。

狂犬病も東南アジアなどで流行しており、前回の本コラムで、発症すると致死率が100%になることを紹介しました。予防対策としてはイヌ、ネコ、サルなどの哺乳動物に近寄らないことです。もし、こうした動物にかまれたりひっかかれたりした場合は、傷を水で洗ってから、至急、医療機関を受診し、発病を抑えるためのワクチン接種を受けてください。

けがや事故の注意

海外のリゾートに滞在する場合は、サーフィンやダイビングなど日頃経験していないスポーツにチャレンジする人もいます。その時に大けがをするケースも少なくないので、国内である程度の経験を積んでから、こうしたスポーツを楽しむようにしましょう。

中高年者の場合は、街を歩いているときに段差などで転んで、けがをすることも多くなります。また、ホテルの浴室で転倒し、頭を強打するといったケースもみられます。海外旅行中は、疲労で足腰の動きが悪くなるため、中高年者は転倒防止を心がけましょう。とくに飲酒をしていると、こうしたけがの危険性がより増すのでご注意ください。

海外旅行中は交通事故にも要注意です。日本のように歩行者優先ではない国で、日本の感覚で道路を横断すると車にはねられてしまいます。また、東南アジアなどに多い三輪タクシーに乗車していて、事故にあったケースもよく耳にします。海外の交通ルールは、日本のように厳格でないことを認識しておきましょう。

持病の悪化に注意

中高年の旅行者の中には、高血圧症や糖尿病などの持病のある人も少なくないと思います。こうした持病が、旅の疲れにより悪化してしまうこともあります。たとえば、高血圧症の人が旅行中に脳出血を起こしたり、糖尿病で治療中の人が旅先で薬を飲み忘れて昏睡状態に陥ったりしたケースが報告されています。

持病のある人が海外旅行に行く際には、ゆったりした旅行日程を組み、治療薬をきっちり服用するなどの注意をしてください。主治医から旅先での生活指導を受けておくと、さらに安心です。また、薬を服用している人は旅行日程よりも多めに薬を持参してください。航空機の遅延などで、旅先での滞在日数が伸びる可能性もあります。

海外旅行保険への加入

このように海外旅行中は、病気やけがをするリスクが高くなるため、出発前に海外旅行保険に加入しておくことをおすすめします。クレジットカードにも海外旅行保険が自動的に付帯されていますが、カバーされる金額が少なく、海外で安心して医療を受けるには不十分なことが多いようです。

海外旅行保険で忘れてはならないなのは、治療中の病気をカバーしてくれないことです。先ほどご紹介したような、高血圧症で脳出血を起こしたり、糖尿病で昏睡状態になったりしても、基本的に医療費は支払われません。このため、こうした病気がある人は、掛け金がやや高くなりますが、治療中の病気もカバーされる海外旅行保険に加入することをおすすめします。なお、ほとんどの海外旅行保険は、加入していれば海外でけがをしたときに、滞在先の医療機関を紹介してくれるサービスも受けられます。海外旅行中に医療機関を受診する際には大変便利な方法なので、これを利用するためにも海外旅行保険への加入をおすすめします。このサービスの詳細についても、各保険会社にお問い合わせください。

以上、海外旅行にあたって健康面での注意点を紹介してきました。すでにご存じの内容も多いでしょうが、久しぶりに海外旅行に行く方は、忘れていた点もあったかと思います。こうした健康面の注意事項を再確認したうえで、海外旅行を楽しんでください。
 

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。