連載病で描く世界地図

5類移行後の職場でのコロナ対策―職場独自の緩和策を

公開日

2023年02月16日

更新日

2023年02月16日

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2023年02月16日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2023年02月16日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)が2023年5月8日から感染症法上の5類に移行され、法的な扱いが大きく変わることになります。この5類移行に伴って、政府はマスク着用など感染対策全般の方針も変更する予定です。こうした政府の新型コロナ対策の転換により、職場では感染者の欠勤規定や日頃の感染対策などに関して、独自の対応を求められることになります。今回は、5類移行後の職場での新型コロナ対策を解説します。

5類移行は新型コロナ対策の民間への移行

新型コロナが5類感染症に移行されることが決まり、全ての医療機関で診療が受けられることや、医療費が有料化されることなどが話題にのぼっています。こうした感染者の診療面以外にも、政府は感染対策などに関する新たな方針の提示を計画しています。

現在、新型コロナは感染症法上で2類相当になりますが、正確には新型インフルエンザ等感染症に分類されています。この類型では政府が「対策本部」を設置し、そこで決定した「基本的対処方針」に基づいて、さまざまな感染対策が実施されます。しかし、5類に移行すると「対策本部」や「基本的対処方針」はなくなり、国民や職場が自分たちの判断で感染対策を行うことになるのです。

これは新型コロナ対策の民間への移行であり、政府としてはその前に方針を提示することで今後の感染対策の方向性を示すというわけです。

職場対策の立て方

民間への移行の中で、新型コロナ対策の中心になってくるのが職場での対策です。今まで職場では、政府の方針に従って、感染者への対応、マスク着用や密の回避などの対策を行ってきましたが、今後は職場が独自の判断で実施することになります。別の言い方をすれば、職場の方針で感染対策を緩和していくことも可能になるのです。

では、具体的に職場でどのような対策が必要になるかを考えてみましょう。

まずは、これから先の新型コロナの流行状況を予測してみます。現在の第8波は春までに収束するとして、その後も一定数の感染者の発生は続くとみられます。このような流行収束期を経て、冬には再び感染者数が増加し、流行拡大期になると考えられます。また、過去3年間の経験からすると、流行拡大は夏にも起こる可能性があります。

このような流行の拡大期と収束期に応じた対策をとっていくことが、今後の新型コロナ対策としては大切です。

新型コロナ感染者の欠勤規定

職場の新型コロナ対策で最初に決めなくてはならないのが、感染者の欠勤規定です。現在は政府の療養規程に従って、症状のある人は7日間休ませている職場が多いと思います。今後は、こうした日数を職場が独自に決めて、就業規則などに記載しておく必要があります。

インフルエンザには政府が定めた欠勤規定がありませんが、学校保健安全法施行規則で学童が罹患(りかん)したときに休ませる期間が記載されており(発症後5日+解熱後2日)、これを流用する職場が多いようです。新型コロナの場合、その感染力はインフルエンザよりも強いため、現行の7日間を採用するのが安全と考えます。少なくとも症状のある間は休ませないと、職場でクラスターの発生を起こす危険性があります。

なお、職場からの指示で従業員が欠勤する場合、労務管理上は有給休暇ではなく、特別休暇の扱いにすることが必要です。

職場でのマスク着用

マスクの着用は基本的に個人の自由意思に任せるのがよいと考えますが、「着用したほうがよい人や場所」は明確にする必要があります。一方、着用したい人がそれを続けることには、介入すべきではないと思います。

流行が拡大期の場合、屋内の職場では原則としてマスクを着用するのがよいでしょう。収束期には屋内でもマスクをはずせますが、マスクを着用すべき人がいます。それは新型コロナ感染者(疑いも含む)や、感染すると重症化しやすい人(ハイリスク者)です。後者には妊娠中の女性も含まれます。また、マスクを着用すべき場所として、混雑し換気が悪い場所、医療機関や高齢者施設などが挙げられます。

なお、マスク着用の指針は2月10日に政府が発表していますので、それを参考にしてください(マスク着用の考え方の見直し等について|内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室)。

社員食堂での感染対策

新型コロナ流行に伴って、社員食堂の座席配置を密にならないように変えたり、食卓にアクリル板の仕切りを置いたりした職場も多いと思います。こうした感染対策も、流行の収束期になれば解除できるでしょう。ただし、収束期でも注意すべきは、症状のある人を入場させないことや、食事中は大きな声での会話を控えてもらうという点です。また、ハイリスク者向けに、座席を離したエリアを食堂内に確保するとよいでしょう。

写真:PIXTA

流行拡大期になれば感染対策を強化することになりますが、座席配置を頻繁に変えるのは大変なので、黙食や利用時間を短くするといった対応でもよいと考えます。

社内行事と感染対策

入社式やスタッフ教育などの社内行事についても、新型コロナが流行してからはオンラインにしたり中止したりする職場も多いようですが、流行が収束期になれば、リアルな開催もできると思います。ただし、入場前に症状がないことを確認することや、屋内で混雑するならマスクの着用を促すことも必要です。歓送迎会など飲食を伴う行事については、参加者に症状がないことを確認し、長時間にならず、大声を発しないなどの注意を払うならば、収束期での開催は可能です。

職場にも対策本部の設置を

5類移行後の職場での新型コロナ対策について紹介してきましたが、大事なのは各職場の判断で対策を実施していくという点です。政府に「対策本部」があったように、これからは職場ごとに「対策本部」を設け、そこには経営者も参加していただきたいと思います。また、流行の拡大期と収束期によって対策が変化するので、政府や自治体の発する流行情報を定期的に入手し、産業医など医療専門職からのアドバイスを適宜受けてください。

新型コロナの流行対策も政府主導から、民間に移行できる段階になってきました。流行の出口まであともう少しです。
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。