新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)が2023年5月から5類に移行するのに伴い、国内ではさまざまな感染対策が緩和されます。これより一足早く水際対策が緩和されたことにより、外国人旅行者が国内で急増していますが、日本からの海外旅行者数はあまり増えていません。「今年の夏あたりは海外旅行に行きたい」と思っている人も多いことでしょう。今回は、ウイズコロナ時代に安全な海外旅行をするコツについて紹介します。
日本では2022年秋から水際対策が大幅に緩和された影響で、外国人旅行者数が増加してきました。特に2023年に入るとその数は急増しています。新型コロナ流行前の2019年1月の訪日外国人数は約269万人で、2022年1月は約1万7000人に落ち込みましたが、2023年1月は約149万人まで復活しています(日本政府観光局)。
その一方で、日本からの海外旅行者数は増加しているものの、その伸びは今一つといった状況です。出入国管理統計によれば、2019年1月の日本人出国者数は約145万人で、2023年1月は約44万人になりました。2022年1月の約7万4000人に比べれば増えていますが、訪日外国人に比べると増加率に大きな差があります。
これは、円安で海外旅行の費用が高騰していることや、旅行中のコロナ感染への不安があるためだと思います。しかし、現在の世界的な流行状況を見ると、ある程度の予防対策をとっていれば、新型コロナ感染のリスクを避けながら海外旅行を楽しめる状況になっています。
ウイズコロナ時代に安全な海外旅行をするために重要なのは、第1に世界の最新の流行情報を入手し、流行が拡大していない地域を目的地に選ぶことです。
新型コロナの世界的流行状況は世界保健機関(WHO)が毎週報告しており、厚生労働省検疫所のホームページにもその和訳が掲載されています(FORTH「海外感染症発生情報」)。この情報によれば、2022年はオミクロン株の流行で新規感染者数がかなり増えましたが、2023年に入ってからは世界的に減少傾向にあります。
ただし、流行が再燃している地域もあり、2023年4月時点ではインドや中東で感染者数の再増加がみられています。特にインドではオミクロン株の新しい亜型(XBB.1.16)が発生しており、警戒が必要な状況です。また、南半球はこれから冬になるため、新型コロナの流行再燃が起こると予想されています。
こうした新型コロナの流行状況を確認したうえで、海外旅行先を決めていくとよいでしょう。
旅先が決まったら、次にその国の入国制限の状況を調べてください。
新型コロナの流行が始まった当初は世界各国が厳しい水際対策をとり、外国人の入国を制限してきました。しかし、最近は多くの国が対策を緩和しており、ヨーロッパの国々では制限がほとんどなくなっています。
その一方で、米国は入国時に新型コロナワクチンの接種証明書の提示を求めます。アジアにも接種証明か新型コロナ検査の陰性証明を求める国があります。こうした入国制限の状況は、外務省の海外安全センターのホームページに国ごとに記載されていますので、ご確認ください(外務省 海外安全ホームページ「新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国に際しての条件・行動制限措置」)。
もし旅先の国が新型コロナワクチン接種証明書の提示を求める場合は、規定回数を出国前に受けておくようにしましょう。規定回数は2回としている国が多いようです。また、こうした証明書は文書だけでなく、スマートフォンに電子データとして保存するようにしてください。この方法はデジタル庁のホームページに記載されています(デジタル庁「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」)
旅行中は滞在国の状況に応じた新型コロナの予防対策を実施してください。
一般に海外の国ではマスクを着用しないことが多く、それに合わせることで構いません。ただ、マスクは常に持参し、人混みなど感染するリスクが高い場所では着用するようにしましょう。また、密になるような場所を避けることもご検討ください。
滞在国によっては、流行が拡大した際にマスク着用を再び義務付けることもあります。こうした情報は滞在国の日本大使館のホームページなどに掲載されているので、そちらも事前にチェックしておきましょう。
海外旅行中に新型コロナ感染のリスクが高い場所として、空港が挙げられます。世界中から多くの人々が密集するためで、空港内ではマスクをすることも検討してください。特に感染リスクが高いとされている場所が保安検査所で、持ち物検査のトレイがウイルスに汚染されていたという報告もあります。保安検査所を通過したら手を洗うようにしましょう。
旅先で発熱など新型コロナを疑う症状がでたら、まずはホテルなどで安静にしてください。熱が高い場合は解熱薬を服用して様子を見ましょう。症状が改善しないときは、滞在先の医療機関を受診することになります。
こうした事態に備えて、出国前に海外旅行保険には必ず加入しておきましょう。保険に入るメリットは2つあります。まずは海外でかかった医療費を支払ってくれることで、このためには新型コロナ関連の医療費もカバーされることを契約時に確認しておいてください。もう1つは、滞在先で受診する医療機関を紹介してくれるサービスが受けられることです。このサービスは保険会社により方法が異なりますが、一般的な方法はコールセンターに日本語で電話し、滞在先の契約医療機関の紹介を受けるというものです。保険の契約時に、こうしたサービスが受けられるかどうか、また、どのように利用するかを確認しておきましょう。
日本に再入国する際の手続きは、厚生労働省検疫所の下記ホームページに記載されています(厚生労働省「水際対策」)。2023年4月時点では、再入国時に新型コロナワクチンの接種証明書(3回)か新型コロナ検査の陰性証明書が必要ですが、5類に移行した後は、こうした手続きも撤廃される予定です。
もし再入国時に体調不良があれば空港検疫に申し出てください。必要があれば、新型コロナの検査を実施してくれます。検疫と言えば、今までは足早に通り過ぎる場所でしたが、これからは新型コロナ検査などに活用するようにしましょう。
以上、ウイズコロナ時代の海外旅行についてご紹介してきました。現在、新型コロナ流行の影響で、多くの国で蚊の対策や定期予防接種などの公衆衛生対策が停滞しており、デング熱や麻疹など新型コロナ以外の感染症の流行も拡大しています。新型コロナだけなく感染症全般の予防対策を心がけて、安全な海外旅行をお楽しみください。
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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授
1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。