連載病で描く世界地図

ゴールデンウイークの海外旅行前にトラベルクリニックを受診するメリット

公開日

2019年04月22日

更新日

2019年04月22日

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2019年04月22日

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東京医科大学 教授/東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

今月から「病で描く世界地図」の連載を始める東京医科大学病院の濱田です。私は「トラベルメディスン(渡航医学)」という分野を専門にしています。まだなじみがないかもしれませんが、これは海外渡航者の健康問題を扱う医学で、日本でも2000年代になり広まってきた分野です。この医学の対象者は日本から海外に渡航する人だけでなく、海外から日本を訪れる外国人も含まれます。こうした国際的に移動する人たちの健康問題を予防したり、病気になった人を治療したりするのがトラベルメディスンの役割なのです。グローバル化が進む日本社会には必須の医学と言ってもいいでしょう。

このコラムではトラベルメディスンのさまざまな話題をご紹介しながら、グローバル化社会を健康に生きるためのコツをお伝えしたいと思います。第1回はこの医学の専門施設であるトラベルクリニックについて紹介します。

10連休で海外旅行者が増加

今年のゴールデンウイークは、皇位継承などがあり10連休になります。これだけ長期の休みがとれることも少ないので、海外旅行に出かける人も増えることが予想されています。大手旅行会社のJTBは、この期間に海外旅行する人の数を昨年の約7%増にあたる66万人と予測しています。しかも、5泊以上の長期滞在、東南アジアやオーストラリアなど中長距離の目的地に滞在する旅行者が増える見込みです。

旅行者

こうした長期の滞在や遠方の国への旅行者は、旅先で病気になる確率も高くなります。楽しみにしていた旅行が、悲しい病気の思い出になってはたまりません。また、旅先でかかった病気を引きずりゴールデンウイーク後も体調不良が続くと、日常の仕事や学業にも影響を及ぼします。このため、旅行前に病気の十分な予防対策をとることをお勧めしています。

では、旅先で病気にならないために、どのような対策を実践したらいいのでしょうか。この対策を効率的に提供してくれる医療施設が、トラベルクリニックなのです。

トラベルクリニックは何をするところ?

トラベルクリニックという言葉を初めて聞く人も多いと思いますが、最近は都市部を中心にその数が増えています。日本渡航医学会のホームページには学会員が診療するクリニックのリストが掲載されており、その数は全国で120カ所近くにのぼっています。

それでは、トラベルクリニックではどんな診療が行われるのでしょうか。このクリニックでは、旅先で懸念される感染症を予防するためのワクチン接種が診療の中心になります。ただ、それにとどまらず旅行中に起こる健康問題全般を予防するための「トラベル・アドバイス」と呼ばれる診療も提供しています。

まずはスケジュールからリスク評価

クリニックを受診すると、まずは旅行日程をもとに健康面でのリスク評価が行われます。

例えば、東南アジアのタイ、マレーシア、シンガポールに7日間滞在するツアーに参加するとしましょう。いずれも経済発展の著しい国ですが、熱帯や亜熱帯に位置しているため、感染症にかかるリスクが高くなります。

こうした感染症の中でも一番頻度が高いのが下痢症やA型肝炎などの経口感染症です。とくに下痢症は要注意で、タイのバンコクに2週間滞在すると、旅行者の3割近くが下痢をおこすというデータもあります。大多数は大腸菌が原因で命にかかわることはありませんが、トイレから出られない程のひどい下痢になることもあります。

もう1つ注意が必要な感染症は、蚊が媒介する「デング熱」です。2000年代になってから東南アジア各地でデング熱の大流行が起きており、とくに今年は例年以上に患者数が増えています。この病気は都市やリゾート地でも患者発生が多く、日本からの旅行者がかかるケースも少なくありません。最近は海外で感染して日本に持ち込まれる「輸入例」のデング熱患者が、年間200~300人にのぼっています。

さらに、感染症以外では、熱射病や日焼けなど熱帯気候ならではの病気のリスクもあります。また、高血圧糖尿病など持病のある人の場合は、旅の疲労などで悪化することも考えなければなりません。

ワクチン接種が感染症対策の切り札

このようなリスク評価をもとに具体的な予防対策を実施します。

感染症についてはワクチン接種が切り札になります。東南アジアの都市部に7日間滞在する旅行であれば、A型肝炎のワクチン接種をお勧めします。A型肝炎ウイルスは食物や飲料などを通じて経口感染するためリスクが高いのですが、ワクチンを接種していればほぼ100%予防することができます。日本製のワクチンは出国前に2回(2~4週間隔)接種する必要があるので、ご希望の場合は早めに受診するようにしましょう。なお、トラベルクリニックでの診療は、病気の治療を除いて自費診療になります。ワクチン接種も同様で、A型肝炎ワクチンは1回の接種で約7000円かかります。

このワクチン以外に、ケガをしやすい旅行者の場合は破傷風ワクチンを、動物に接触するリスクがあれば狂犬病ワクチンをお勧めします。

ただし、「今からでは間に合わない」という方は、次に紹介する生活面の注意で予防することもできます。

トラベル・アドバイスの実際

トラベル・アドバイスは旅行中、病気にかからないにようにするための生活指導です。トラベルクリニックの診療では、このアドバイスを提供することが大切な仕事になっています。

下痢症予防のためには食事や飲み物への注意喚起が行われます。飲料水にはミネラルウオーターや煮沸した水を用いること、食品はできるだけ加熱したものを摂取することなどが重要なポイントです。また、下痢をした場合の対処法もアドバイスし、ご希望に応じて軽い下痢止め薬を処方することもあります。

ミネラルウオーター

デング熱の予防には蚊に刺されない対策を指導します。この病気を媒介する蚊は昼間刺す習性があるため、蚊の多い場所を昼間訪れる際には、虫よけ薬を皮膚に塗るなどの対策をとります。さらに、破傷風予防のためにはケガをしない注意を、狂犬病を予防するためにはイヌやネコなどの動物に近づかないように指導します。

現地医療施設の受診指導も

トラベル・アドバイスでは感染症以外の病気も対象になりますが、特に欠かせないのが携帯医薬品や現地医療施設を受診する方法の説明です。

旅先で病気になってしまったら、まずは携帯する医薬品を服用し、それでも改善しない場合は現地の医療施設を受診することになります。この方法としては、海外旅行保険のアシスタンスサービスの活用をお勧めしています。これは、保険会社の提携病院を紹介してくれるサービスで、一定の医療レベルの病院にかかることができます。このサービスを受けるためには、海外旅行保険に加入していることが条件になりますので、旅行中の医療費を補償してもらうためにも、海外旅行をする際には旅行保険への加入は必須です。

楽しい旅行のための準備として

このようにトラベルクリニックを受診すると、旅先での病気を予防するためのさまざまな対応が受けられます。海外旅行は楽しい時間を過ごすための“雄大な娯楽”です。しかし、一般の娯楽と違って、健康面のリスクも少なくありません。このリスクを回避し、楽しい時間を確実なものとするため、旅行前にトラベルクリニックを受診するようにしてください。

病で描く世界地図の連載一覧

東京医科大学 教授/東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。