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追加接種に「オミクロン株ワクチン」を待つべきか

公開日

2022年08月17日

更新日

2022年08月17日

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2022年08月17日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年08月17日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

2022年8月8日、厚生労働省の予防接種分科会は、オミクロン株に対応する新型コロナワクチンの接種を10月中旬から開始することを決めました。現在、国内ではオミクロン株による第7波の爆発的流行が起きており、政府は初回接種を終了した人への3回目の接種、さらには高齢者などへの4回目の接種を強く推奨しています。この接種に使用している現行のワクチンは、従来株のウイルスを用いており、オミクロン株への効果が弱くなっています。それならば、「3回目、4回目の接種はオミクロン株ワクチンの流通後にしよう」と考える人も多いと思いますが、「まずは現行のワクチンで早めに追加接種を受けておく」というのが正しい対応です。今回はオミクロン株ワクチンと追加接種の関係について解説します。

第7波から秋以降の流行へ

日本では22年7月からオミクロン株BA.5による第7波の流行が起きています。全国の感染者数は20万人を越える日もあり、当初の想定を大きく上回る爆発的な流行になりました。この第7波の流行も8月中旬にはピークを越えそうですが、感染者数の減少は緩徐になると予想されています。

このような第7波の流行に続いて、秋以降には次の流行の波が発生すると考えられています。これは、新型コロナウイルスが寒い季節に感染しやすいことや、ワクチン接種の効果が減衰することなどに起因するものです。さらにBA.2.75など新たなオミクロン株が海外で発生しており、今後、世界的な流行に発展する可能性もあります。

こうした秋以降の流行による被害を抑えるためには、オミクロン株に対応する新しいワクチンが必要になっており、ファイザー社やモデルナ社では、自社のmRNAワクチンを用いてその開発を行ってきました。

オミクロン株ワクチン

22年6月末、米国の食品医薬品局(FDA)は、両社のオミクロン株ワクチンの審査を行いました。このワクチンはBA.1対応型と呼ばれるもので、オミクロン株のBA.1と従来株(武漢株)の2つの成分が含まれています。この時に提出されたデータによれば、両社のワクチンは現行のワクチンに比べて、BA.1に対する中和抗体を2倍近く産生し、安全性も問題ないとの結果でした。しかし、現在流行しているBA.5に対する中和抗体の上昇が低かったため、FDAはBA.5対応型ワクチンの開発を指示しました。両社はこのワクチンを秋の初めから中頃には完成させる予定です。

それでは、日本はどのオミクロン株ワクチンを用いるのでしょうか。22年8月8日に開催された厚生労働省の予防接種分科会では、すでに開発されているBA.1対応型ワクチンを採用することに決定しました。接種対象者は2回目以上の接種を終えている国民全員になります。

このワクチンを選んだ理由としては、BA.1対応型ワクチンでもオミクロン株全体にある程度の効果がみられる点や、より早く利用できる点が挙げられています。欧州医薬品庁(EMA)も、オミクロン株の種類でワクチン効果に大きな差がないという見解を示しており、日本と同様にBA.1対応型ワクチンを採用する予定です。つまり、米国はBA.5対応型ワクチン、日本と欧州はBA.1対応型ワクチンを使用することになります。

なお、8月15日に英国の医薬品規制庁はモデルナ社のBA.1対応型ワクチンを承認することを発表しました。

追加接種の進行状況

オミクロン株ワクチンの議論が進む中で、3回目と4回目の接種が世界的に進行しています。とくに日本では第7波が大流行しているため、政府はできるだけ多くの対象者に、早めの追加接種を推奨しているところです。

この追加接種で主に使用されているのは、従来株を用いたmRNAワクチンですが、オミクロン株には効果が弱いことが明らかになっています。世界保健機関(WHO)が公表したデータによると、2回接種では半年ほどで感染予防効果がほとんど消失し、重症化予防効果も50%近くまで低下します。ここで3回目の接種を受けると、いずれの効果も回復することができます。この接種率が日本では6割を越えてきましたが、若い世代ではまだまだ低い状況です。

3回目接種による感染予防効果は3~6カ月で減衰しますが、重症化予防効果は長期にわたり保たれます。ただし、高齢者などのハイリスク者は重症化を起こしやすいため、3回目から5カ月以上経過したら、4回目接種を受けることが推奨されています。8月上旬の時点で、日本ではその接種率が対象者の5割ほどに達しています。

現時点で4回目接種は国民全員には行われていません。なぜなら、重症化を抑える効果は持続するものの、感染予防効果はすぐに減衰するためです。ただし、医療従事者については、医療逼迫を起こさないようにするため、7月から4回目接種が開始されました。

このように3回目、4回目と追加接種が頻繁に行われているのは、現行のワクチンに問題があるためです。今後、オミクロン株ワクチンが使用されるようになれば、もっと強い効果が持続すると考えられています。

現行のワクチンを接種すべき3つの理由

そうなると、「オミクロン株ワクチンが流通してから追加接種を受ければよい」と考える人もたくさんいるはずです。政府も一般国民の4回目接種についてはその方針ですが、一般国民への3回目の接種や高齢者などへの4回目接種については、オミクロン株ワクチンを待つべきではありません。それは以下の理由によります。

第1に、現行のワクチンはオミクロン株への効果が弱くなっていますが、ある程度の効果は保たれています。特に重症化予防効果は長期持続します。

第2に、現状として日本国内では第7波が大流行しており、早期に流行を抑える必要があります。このためには、今この時期に、国民全体に3回目の接種を拡大し、高齢者などには重症化を予防するための4回目の接種を行うことが求められています。

第3に、オミクロン株ワクチンの国内への導入は10月中旬とされていますが、それが国民全体に行きわたるには2~3カ月以上はかかると考えられます。このワクチンを待っていては秋以降の流行に間に合わない可能性もあります。

こうした理由から、今のうちに現行のワクチンで追加接種を受け、免疫をある程度高めておくことが推奨されているのです。

ここで問題となるのが、3回目ないしは4回目接種を受けた後に、オミクロン株ワクチンを接種するまでの期間です。8月の予防接種分科会では、5カ月という案が出されましたが、これが適応されると、22年8月に現行のワクチンを受けた人は、23年1月まではオミクロン株ワクチンの接種が受けられなくなります。ただし、この接種間隔はあくまでも目安で、今後の流行状況や欧米諸国からのデータなどによって、さらに検討されることになるでしょう。

いずれにしても、まずは現行のワクチンによる追加接種で早めに免疫を増強し、オミクロン株ワクチンが流通した段階で、それを順次受けていく。これが現状ではベストな対応になると思います。
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。