連載病で描く世界地図

コロナ流行下のオリンピックで絶対に起きてはならないこと

公開日

2021年04月23日

更新日

2021年04月23日

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2021年04月23日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月23日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

東京オリンピック開催まであと3カ月になりました。新型コロナウイルス感染症の流行対策として、外国人の観客を入れないことは既に決まっていますが、無観客にするかなど詳細は発表されていません。そもそも、変異株による第4波の流行やワクチン接種の遅れがある中、「オリンピックの開催が本当にできるのか?」という声は日増しに多くなっています。そこで、もしコロナ流行下にオリンピックを開催するとして、起きてはならない事態と、その対策について考えてみましょう。

香港カゼ最中のメキシコオリンピック開催

1964年のオリンピック東京大会の次は、1968年10月に開催されたメキシコ大会でした。この大会では男子マラソンで君原健二選手が銀メダルを獲得、男子サッカーで日本代表が銅メダルに輝くなど、日本選手の大活躍がみられました。その一方で、この大会が始まる直前の7月、香港で新型インフルエンザ(香港カゼ)の流行が発生していたのです。その流行の波は9月には日本にも及んでおり、開催中止も考えられる状況でした。

幸いにも開催国のメキシコには流行が波及していなかったため、大会は予定どおりに行われました。大会期間中も会場などで患者の発生はなかったようです。しかし、大会が終了した10月末から、隣接する米国で香港カゼの大流行が始まりました。この流行にオリンピックの開催が影響したかは不明ですが、大会参加者の間で拡大した流行が、終了後に米国などに飛び火した可能性はあります。

今回の新型コロナ流行下でもオリンピックを開催すると、同様の事態やそれ以上の流行拡大が起こることが考えられます。

感染者が日本にウイルスを持ち込む事態

今回の大会では外国人の観客を入れませんが、政府は選手や役員、報道関係者など最大9万人の外国人が日本に入国すると推定しています。現在、日本では変異ウイルス対策の一環として外国人の入国を原則的に禁止しているため、それを特例として認めるわけです。

現在、日本人が入国する際には、海外出国前72時間以内にコロナ検査を受け、その陰性証明書の提出が必要です。これに加えて入国時に再検査を行い、さらに入国後14日間は自宅などに留まり、健康監視を受けなければなりません。これが変異ウイルスの流行国(政府は4月中旬までに29カ国を指定)からの入国者だと、入国後3日間は空港近くのホテルに収容され、3日後に再検査、そして健康監視に入ります。

これだけの検査や健康監視ができるのは、入国者を日本人に絞っているからであり、大会に関係する外国人入国者が増えてくると、入国後の健康監視まで行うのは難しくなるでしょう。その結果、日本国内に変異ウイルスが持ち込まれるリスクは高くなってきます。

政府は、海外から入国する選手や役員には入国後の健康監視を行わない代わりに、入国後も頻回にコロナ検査を行う予定にしています。これが報道関係者を含めた入国者全員に行われるのであれば、感染者の早期発見により、国内へのウイルス持ち込みを防ぐことは可能になるでしょう。ただ、入国時の検査などで空港の検疫業務は極度にひっ迫することが予想されます。

競技会場などでクラスターが発生する事態

競技会場や選手村でクラスターが発生することは最も避けなければならない事態です。

今回の大会期間中は、海外から入国した選手や役員だけでなく日本人の選手も、居住スペースと競技会場からなる「バブル」という閉鎖空間で過ごすことが計画されています。このバブルの中で定期的なコロナ検査を行い、検査が陽性になった者は、バブルの外に出なければなりません。もちろん競技への出場は停止です。陽性者との濃厚接触者も一定期間、隔離されて健康監視を受けることになります。このため、有力選手の欠場や試合の不成立といった事態も頻回に生じるでしょう。

もし、観客を競技会場に入れるとすれば、その中に感染者が紛れている可能性があり、会場内でクラスターが発生する確率も高くなります。こうした事態になると、その競技全体が中止に追い込まれることも考えなければなりません。

写真:PIXTA

現在でもイベントの開催時には観客の人数を減らすことや、大声を出さないなどの予防対策をとっていますが、今後の流行状況によっては、入場時にコロナ検査陰性証明書の提出を求めるかもしれません。さもなければ、無観客試合を選ぶしかありません。

日本から海外に流行が拡大する事態

大会開催後も気がぬけません。大会に参加した外国人の選手や役員などが、大会期間中に感染し、その感染を帰国後に母国で拡大させるというリスクがあります。実は、このリスクが大会のイメージを最も悪くすることになるでしょう。流行が収束している国に波及した場合は、外交問題にまで発展する可能性もあります。

こうした事態を避けるため、日本から母国に帰国する直前にコロナ検査を行い、陰性を確認してから出国させるという対応も検討すべきです。また、日本に来る前に新型コロナのワクチン接種を受けることを推奨する必要もあると思います。外国人参加者にワクチン接種を義務付けるものではありませんが、国際的な流行拡大を防ぐためにはワクチン接種が有効な方法になります。

医療関係者や医療機関がひっ迫する事態

このようにコロナ流行下でオリンピックを開催するには、多くの医療対策を実施しなければなりません。これにあたっては、従事する医療関係者も相当数を要します。4月初旬の組織委員会の発表では、1日最大で医療従事者700人が必要で、このうち医師は300人との予測を出しています。これに加えて、コロナの感染者が発生した場合は、首都圏の医療機関に感染者が多数入院することも予想されます。

もし、大会期間中に国内の流行が拡大していれば、オリンピックのために医療従事者を集めるだけでも大変です。また、国内流行への対応だけで医療機関がひっ迫している可能性もあります。さらに、大会期間中はコロナワクチンの接種が一般国民にも拡大されている時期にあたり、このためにも、かなりの医療従事者が必要になります。

こうした大会期間中の医療資源の分配については、「コロナ感染者への医療」「コロナワクチン接種の推進」「オリンピック開催に伴う医療」という3つの観点から総合的に考えていく必要があります。この3つの観点に優先順位をつけるとすれば、国民の多くは前二者を選ぶと思います。

その結果、「オリンピックに伴う医療」への分配が難しいのなら、そのときは開催中止という英断も必要ではないでしょうか。

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。