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欧米で拡大 サル痘流行の実態と対策

公開日

2022年06月16日

更新日

2022年06月16日

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2022年06月16日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

サル痘の患者が2022年5月から世界各地で発生しています。もともとはアフリカのげっ歯類の感染症でしたが、それが本来の流行地域でない欧米諸国などで、ヒトからヒトに感染を拡大させているようです。この感染症も新型コロナのように世界的な流行を起こすのでしょうか。そんな不安を抱いている人も多いと思います。今回は、次第に明らかになってきたサル痘流行の実態を紹介しながら、この感染症の対策を検証してみます。

欧米への輸入例が増加

2022年5月6日、イギリスでアフリカのナイジェリアから帰国した旅行者がサル痘を発病しました。

サル痘はその名前とは裏腹にネズミなどげっ歯類の感染症で、ヒトの天然痘(すでに根絶)と近縁のウイルスによって起こります。アフリカの中央部や西部が流行地域で、こうした地域でヒトが感染動物に接触したり、その肉を食べたりして感染することがあります。サルも偶発的に感染し、1958年にカニクイザルで最初に病原体が発見されたため、サル痘という名前が付きました。

命名の発端となったとなったカニクイザル(PIXTA)

ヒトがサル痘に感染すると発熱や皮膚の発疹が出現します。アフリカ中央部で流行しているコンゴ盆地型は致死率が10%近くになりますが、それ以外の患者は軽症のまま回復します。今回、イギリスでナイジェリアから帰国後に発病した患者も、間もなく回復しました。

ナイジェリアでは2017年以降、サル痘の患者数が増加傾向にあります。欧米からの旅行者がナイジェリア滞在中に感染し、帰国後に発病するケースも増えており、2021年前半だけでイギリスで3人、米国で1人の輸入例が報告されています。しかし、いずれも軽症で、輸入例からの感染拡大はみられませんでした。

アフリカ以外で初の流行

ところが、今回は事情が違いました。

2022年5月13日以降、イギリス国内でアフリカへ渡航歴のない人々が、次々とサル痘を発病していったのです。さらに患者発生はヨーロッパだけでなく、北米、南米、中東、オーストラリアなどでも報告され、世界保健機関(WHO)の集計では6月8日までに患者数は世界28カ国から1300人近くにのぼっています。なお、現時点(6月16日)で日本での患者発生はありません。

患者数はイギリス、スペイン、ポルトガルで多く、ヒトからヒトに感染が拡大していることは明らかです。ただし、患者の症状は軽く、入院を要した人は一部で、死亡者は出ていません。

このように、今回はアフリカ以外で初めて発生した流行であり、短期間で世界的に拡大していることから、感染力の面では健康上の脅威になるでしょう。その一方で、患者の多くは軽症で、今のところ死亡者もおらず、重症度の面では大きな脅威ではないと考えます。

分かってきた患者の背景

欧米諸国などで患者数が増えるにつれて、その背景も次第に明らかになってきました。

イギリスの健康安全庁(HealthSecurityAgency)の6月10日の報告によれば、同国で確認された366人の患者のうち男性は99%で、質問用紙に回答のあった患者152人のうち151人(99.3%)は、ゲイ、バイセクシャル、男性間性交渉者(MenwhohaveSexwithMen:MSM)でした。

米疾病対策センター(CDC)の調査でも、同国で5月末までに確認された17人の患者のうち、16人がゲイ、バイセクシャル、MSMだったと報告されています。

このように、今回のサル痘の流行にあたっては、患者の大多数が男性で、同性間の性交渉者であるという実態が明らかになってきました。

可能性のある感染経路

サル痘はヒトからヒトに感染しにくい感染症とされてきました。感染経路としては、患者の飛沫や発疹から出る滲出(しんしゅつ)液に濃厚接触した場合とされています。また、今まで性行為感染は起こらないとされており、精液や腟分泌物からのウイルス検出もありませんでした。

しかし、今回、欧米諸国で拡大している流行の実態をみると、男性間の性行為などで比較的容易に感染が起きているようです。WHOは今回の患者の特徴として、発疹が本来の顔や手足よりも、生殖器や肛門周囲に多いことを指摘しています。また、発熱などの症状が出る前に、発疹が出現するケースが多いことも挙げています。こうした今までの症状との違いが、性行為による感染を起こしているのかもしれません。

なお、イギリスの健康安全庁は、検出されたウイルスの遺伝子解析を行い、今までのサル痘ウイルスに比べて、21カ所のタンパクに変異が起きていることを発表しています。この中には宿主からの免疫回避や、ウイルスの重症度に関与する変異も含まれているようです。

予防対策は

このように、今回のサル痘の流行については、感染経路を含め不明な点が多いようですが、そんな中で感染対策をどのように進めたらいいでしょうか。

まず、サル痘を疑う症状、すなわち皮膚に発疹が多発するような症状があれば、早めに皮膚科医の診察を受けることが大切です。また、そんな症状があれば、他人と密に接することはできるだけ控えてください。寝具を介して感染することもあるので、寝具の共用は避けるようにしましょう。

あなたが健康であっても、皮膚が触れ合うようなパーティーへの参加は注意してください。性行為をする際には、相手の皮膚に症状がないことを確認してからにしましょう。また、不特定多数との性行為は避けるべきです。

エイズ流行当初を思い返そう

現時点までのサル痘の情報からすれば、患者の大多数はMSMなどで、普通の生活をしていれば、あまりリスクが高くないと思う人が多いかもしれません。

しかし、ここで私たちは後天性免疫不全症候群(エイズ)が流行した当初を思い返す必要があります。1980年代前半にエイズが流行し始めた時、多くの人々はこの感染症がMSMなどの間で起こる特殊な病気であると思い込んでいました。そして、こうした考え方が、この病気の感染が多い集団への差別につながっていきます。

その後、エイズはMSMの間だけでなく、一般の人も感染し得る病気であることが明らかになっていきました。今回のサル痘の流行にあたっても、一般の人々が恐れすぎる必要はありませんが、自分自身も感染し得る病気として考えていく必要があるでしょう。

さらには、MSMの人々が感染しないように、社会全体が偏見なく、この集団の感染予防をサポートしていくことが大切だと思います。
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。