概要
ナルコレプシーは、過眠症の1つです。通常ならば寝てはいけない重要な場面でも我慢できないほどの強い眠気に襲われたり、突然眠ったりすることが特徴です。病気であるにもかかわらず、大事な場面でも眠ってしまうことについて「だらしない」「意欲が足りない」「真面目にやっていない」などと思われ、本人や周囲が病気と認識しない場合が多く見られます。
日本では、600人に1人がナルコレプシーであるといわれており、10歳代~20歳代前半に多いです。治療が遅れると社会生活に支障をきたす恐れがあるため、早期に治療を開始することが重要です。
原因
起き続けられずに眠り込んでしまうのは、脳の覚醒中枢のはたらきが悪くなっているためだと考えられています。脳内物質のオレキシンを産生する神経細胞の障害がその一因であることが報告されています。メカニズムについては現在も研究が進められています。
また、白血球の血液型であるHLA型と発症の関連性も指摘されています。ナルコレプシーの患者さんは、HLA-DQB1*06:02という遺伝子型をもつ方が有意に多いことが分かっており、発症リスクに関係すると考えられています。
症状
ナルコレプシーの症状としては、居眠りの反復、情動脱力発作、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚などが挙げられます。
居眠りの反復
ナルコレプシーは、夜間の睡眠の質や量にかかわらず、眠気に抵抗できずに居眠りを繰り返すという特徴があります。重症の場合には、睡眠発作と呼ばれる、眠いと思う前に眠ってしまい「気がついたら寝ていた」という症状が認められることもあります。居眠りをした場合、眠りの持続は10~30分と短いことが多く、目覚めがよい傾向が見られます。
情動脱力発作
情動脱力発作は、気持ちが高ぶったり、びっくりしたりする瞬間に、体の一部が脱力してしまう症状です。睡眠中ではなく、覚醒中に起きることが特徴です。
睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚、その他
眠りについた直後に、睡眠麻痺(金縛り)や入眠時幻覚などの症状が認められることがあります。また、合併症として、うつ病などの気分障害、不安症(不安障害)、肥満が起こることがあります。
検査・診断
ナルコレプシーかどうかを診断するための検査には、睡眠ポリグラフ(Polysomnography:PSG)検査と反復睡眠潜時検査(Multiple Sleep Latency Test:MSLT)、HLA遺伝子型検査、脳脊髄液検査があります。
睡眠ポリグラフ検査
睡眠ポリグラフ検査は、脳波、筋電図、心電図、眼電図、呼吸センサー、酸素飽和度、胸・腹部の動きなどを同時に記録し、睡眠の質や量を評価する検査です。一般的には、検査は一晩かけて実施し、夜に起こるさまざまな睡眠障害について確認されます。
ナルコレプシーは、眠りについた直後(15分以内)にレム睡眠(脳活動が活発な状態で、夢を見ることがある)が認められるといわれています。また、終夜のポリグラフ検査に続けて、昼間の眠気の重症度を調べる反復睡眠潜時検査(MSLT)を行います。
HLA遺伝子型検査
ナルコレプシーの90%以上の方は、白血球の血液型であるHLAが特定の型を持つことが知られています。日本のナルコレプシー患者さんの場合、HLA- DQB1*06:02という遺伝子型の組み合わせを持っていることが特徴です。
ただし、健常者も12~38%が同様の遺伝子型を持つため、診断基準には組み込まれていません。
脳脊髄液検査
脳脊髄液検査では、オレキシン(視床下部から出る覚醒性の神経伝達物質)の濃度を測定します。ナルコレプシーの場合、特に典型的な情動脱力発作をもつ患者さんの約90%は、脳脊髄液中のオレキシン濃度が異常低値を示すことが報告されています。
治療
多くの場合、薬物療法が有効です。しかし、まずは生活サイクルを規則的に整えることが大切です。病気の特徴に合わせた計画的な休憩・仮眠と夜間睡眠の確保を行うことができれば、薬の効果を最大限に保ったり、薬の服用を減らしたりすることにつながり治療に役立ちます。
過眠症状に対しては、モダフィニル、メチルフェニデート、ぺモリンなど、中枢神経刺激薬といわれる目を醒ます薬が用いられます。情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、抗うつ薬の一種であるクロミプラミンなど、レム睡眠抑制作用のある薬が用いられます。
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