概要
過眠症とは、しっかりと睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中など本来起きている時間帯に強い眠気が生じ、時に居眠りしてしまったり、夜間の睡眠時間が通常より長くなってしまったりする病気の総称です。健康な人でも日中に眠気が強まることはありますが「寝てはいけない」という意志がはたらくため、たいていの場合は居眠りを防ぐことができます。しかし、過眠症の人は通常では考えられないような場面で居眠りをしてしまったり、居眠りを繰り返してしまったりすることがあります。
種類
過眠症には、中枢神経系(脳)の障害に伴って生じる“中枢性過眠症”と、睡眠障害などにより睡眠の質が落ちることによって生じる“二次性過眠症”があります。
中枢性過眠症
主な中枢性過眠症は以下のとおりです。
ナルコレプシー
通常は眠ることがない状態で、強い眠気や突発的な居眠り(睡眠発作)が生じる病気です。居眠りは数分から十数分程度で、目覚めはすっきりとしています。そのほか、喜怒哀楽などの強い感情が芽生えた際に急に四肢・体幹が脱力したり(情動脱力発作)、寝付くときに金縛りにあったり、現実と夢の区別がつかないような感覚を覚えたりすることもあります。
思春期頃に発症し、症状が持続することが一般的です。
特発性過眠症
症状はナルコレプシーと似ていますが、眠気はより持続的で、居眠りの時間が1時間以上と長く、目覚めた後もすっきりしない傾向にあります。情動脱力発作や、金縛りは原則として生じません。寝起きが悪い、頭痛、起立性調節障害、失神など、自律神経症状が生じる人もいるほか、睡眠時間が10時間以上必要となるタイプの人もいます。
発症時期を特定することが難しい病気で、通常は症状が持続しますが、時に自然に治る例もみられます。ナルコレプシーよりはまれな病気です。
クライネーレビン症候群
“反復性過眠症”“周期性傾眠症”などと呼ばれることもあります。強い眠気や夜間の睡眠時間の延長が生じる時期(傾眠期)が年に数回~時に10回以上現れますが、それ以外の時期には症状がありません。傾眠期は数日から数週間続くことが一般的で、その時期は食事や排便以外はほぼ眠り続け、食欲や性欲が強くなったり、抑うつ状態を示したりする人もいます。
比較的まれな病気で、10歳代に発症する傾向にあります。男女比では、男性に多くみられます。
二次性過眠症
何らかの原因で睡眠の質が低下してしまうことによって、日中の眠気や居眠りなどが生じたり、長時間の睡眠時間が必要になってしまったりすることを指します。二次性過眠症の原因となる主な病気は、以下のとおりです。
閉塞性睡眠時無呼吸
眠っている間に呼吸が止まったり、止まりかけたりすることを繰り返す病気です。呼吸が止まる(止まりかける)度に無意識の覚醒が生じるため、睡眠の質が下がります。また、呼吸量が少なくなることによって血液中の酸素が減る分、より多くの血液を循環させるため心臓の負担が増加します。その結果、高血圧が生じ、心筋梗塞や脳梗塞、突然死のリスクが高まります。多くはいびきを伴い、同居家族が病気に気付きますが、寝ている間の無意識の出来事なので、本人に自覚がないことがほとんどです。
レストレスレッグス症候群
“むずむず脚症候群”とも呼ばれ、足がむずむずし、安静を保てなくなる病気です。特に夕方から夜に症状が強くなり、特に眠るために床に入ったときにもっとも強まることから、うまく寝付けなくなるほか、途中で目覚めた際に再度寝付きづらくなるため、睡眠の質が下がります。
周期性四肢運動障害
睡眠中に四肢の片側もしくは両側が無意識にピクピクと動く病気です。四肢のピクつきに伴い、無意識の覚醒が生じることにより、睡眠の質が落ち、二次性の過眠が生じます。寝ている間の無意識の出来事なので、たいてい本人に自覚はありません。レストレスレッグス症候群と合併する傾向があります。
原因
前述のとおり、過眠症にはさまざまな種類があり発症原因はそれぞれ異なります。ナルコレプシーは覚醒維持を担うオレキシン神経伝達の障害が原因であることが分かっています。しかし、特発性過眠症やクライネ―レビン症候群は原因が分かっていません。ナルコレプシーや特発性過眠症は遺伝的要素との関連が指摘されています。
また二次性過眠症は、上記の病気や、かゆみや痛みなどで睡眠を妨げる病気などによって生じます。
症状
過眠症の症状は病気の種類によっても異なります。共通しているのは、日中など元来活動している時間帯に強い眠気が生じ、居眠りを繰り返してしまうことです。また、睡眠時間がより長く必要になる人もいます。
これらの症状が悪化すると、体のだるさや精神的な焦り、不安、集中力の低下などによって日常生活が困難になることもあるほか、交通事故や仕事中の事故などが生じる可能性が高まります。
検査・診断
過眠症を疑う症状がある場合、問診では症状を自覚した時期や睡眠の状況、服用している治療薬などについて細かく確認します。睡眠不足やストレス、精神疾患などによっても過眠症に似た症状が現れるため、見分けられるようにさまざまな質問が行われます。睡眠に関する記録が分かるように、2~4週間程度の“睡眠日誌”をつける必要がある場合もあります。
そのほか確定診断には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)や反復睡眠潜時検査などが用いられます。
PSG
寝ている間の脳波や眼球運動、心電図、筋電図、呼吸曲線、いびき、動脈血酸素飽和度などを一晩中測定する検査です。検査には入院が必要となります。
反復睡眠潜時検査
日中に2時間ごとに4~5回、ベッドに横になり眠るまでの様子を記録します。1回の睡眠は20~30分程度です。日中の眠気や入眠の状態を評価します。
治療
過眠症の治療の基本は、睡眠時間をしっかり取って睡眠を妨げる物質(カフェイン・アルコール・ニコチンなど)の摂取を控えることです。
中枢性過眠症の場合
中枢性過眠症の場合には、薬物療法が検討されます。ナルコレプシーや特発性過眠症では、日中の眠気対策として覚醒維持薬の使用が検討されます。またクライネ―レビン症候群では、傾眠期の出現を少なくするために、炭酸リチウムの使用などが検討されます。
二次性過眠症の場合
二次性過眠症の場合、原因となる病気の治療を行うことで次第に改善することが一般的です。
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予防
過眠症や不眠症など睡眠に関する病気は、ある程度予防が可能なものとそうでないものがあります。予防可能な病気を防ぐために、以下のような点に注意しましょう。
- 自分の体に適した睡眠時間を把握し、日ごろから睡眠不足にならないようにする
- 就寝前のカフェイン、喫煙を避け、リラックスできる方法を見つける
- 寝酒をしない
- 眠ることに意気込みすぎず、寝たいと感じたときに寝る
- なるべく毎日同じ時間に起きる
- 目が覚めたら日光を浴び、夜寝る前は明るい照明を浴びない
- 食事を3食とり、運動習慣を身につける
- 昼寝は15時より前に20~30分程度とする
- 眠りが浅いときでも早起きを心がける
- いびきや足のむずむず感など気になる症状があれば医療機関を受診する
- 十分な睡眠を取っても日中の眠気が気になるときは医療機関を受診する
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