インタビュー

保護者に知ってほしいお子さんのナルコレプシーを疑う症状、治療

保護者に知ってほしいお子さんのナルコレプシーを疑う症状、治療
神林 崇 先生

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 教授、茨城県こころの医療センター 睡眠・覚醒障害外来 

神林 崇 先生

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ナルコレプシーを発症すると日中耐え難い眠気に襲われ、通常眠るとは考えられない状況でも眠ってしまいます。特に小児期から思春期にかけて発症することが多く、大切な場面で能力を発揮できなかったり、周囲からやる気がないと思われたりして、学業に悪影響を及ぼす可能性がある病気といえます。こうした症状は適切に治療すれば改善が見込めるため、保護者や周囲の方が早めに気付いて受診につなげることが重要です。

今回は、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 教授の神林 崇(かんばやし たかし)先生に、お子さんのナルコレプシーを疑うべき症状や治療法などについてお話を伺いました。

ナルコレプシーとは中枢性過眠症(睡眠・覚醒の中枢神経の機能不全によって生じる睡眠障害)の1つで、日中何度も強い眠気に襲われる病気です。10~15分程度の短時間でも昼寝をすればいったんはすっきりと目が覚めるものの、時間がたつとまた強い眠気によって眠ってしまうのを繰り返すという特徴があります。

中枢性過眠症の1つである特発性過眠症でも日中に強い眠気に襲われますが、特発性過眠症の場合はナルコレプシーと比べて昼寝の時間が長く、目覚めた後にすっきりとした感覚があまりないという違いがあります。

イラスト:PIXTA/加工:メディカルノート
オレキシン神経の模式図(イラスト:PIXTA/加工:メディカルノート)

ナルコレプシーは脳の視床下部にあるオレキシン神経の脱落、あるいは機能障害によって生じると考えられています。オレキシン神経は睡眠・覚醒の維持などに関わるオレキシンという神経伝達物質を産生する役割があります。そのため、オレキシン神経の脱落および機能障害が起こるとオレキシンが欠乏し、睡眠・覚醒を維持しにくくなるとされています。

ナルコレプシーには情動脱力発作(感情の激しい動きによって引き起こされる脱力)を伴うタイプ1と情動脱力発作を伴わないタイプ2があり、タイプ1ではオレキシンの欠乏が認められます。なお、現時点ではオレキシン神経の脱落あるいは機能障害がナルコレプシーの原因であることは分かっているものの、なぜそれらが起こるかは明らかになっておらず研究が進められている段階です(2024年1月時点)。

多くの場合10~20歳代前半で発症し、14~16歳が発症のピークといわれています。ただし、近年はより若年で発症する例が増えているように感じます。また、30歳代で発症することもありますが、それ以降での発症はまれです。

なお、ほかの国と比較すると日本はナルコレプシーの有病率(特定の時点で病気を有している人の頻度)が高く、600人に1人といわれています。

ナルコレプシーの代表的な症状は以下になります。睡眠発作以外は必ずしも現れる症状ではありませんので、その点に留意してチェックしてください。

睡眠発作

ナルコレプシーでは睡眠発作と呼ばれる非常に強い眠気が日中に起こり、眠ってしまうということを繰り返します。授業中や入試など、眠ってはいけない状況でも眠ってしまうのが特徴です。

10~15分ほどの短時間でも仮眠を取れば少しの間はすっきりとしますが、しばらくすると再び眠気に襲われます。

情動脱力発作

オレキシン神経が脱落しているタイプ1では、情動脱力発作という特徴的な症状が現れます。大笑いしたときや喜んだときなどの感情の激しい動きをきっかけに膝や腕、顔の筋肉などが脱力する状態を情動脱力発作といい、その多くは数秒~1分程度で治まります。

脱力の仕方には個人差があり、地面に座り込んでしまうほど体中の力が抜けてしまう場合もあれば、手に力が入らなくなって文字が書けなくなる、顎が脱力して呂律が回らなくなるなどの部分的な脱力にとどまる場合もあります。なお、情動脱力発作によって会話ができなくなることもありますが、発作の最中も意識は保たれています。

睡眠麻痺

睡眠麻痺とは入眠直後や就寝中に起こる金縛りです。健康な方でも経験することがありますが、ナルコレプシーの方では頻繁に症状が現れるといわれています。そのメカニズムは以下のように説明できます。

睡眠中はレム睡眠(脳の活動が活発になり、全身の筋肉が脱力している状態)とノンレム睡眠(脳の活動が低下し、覚醒時に比べると全身の筋肉が緩んでいる状態)を繰り返します。通常であれば入眠直後はノンレム睡眠に入りますが、ナルコレプシーの方は眠りにつくとすぐにレム睡眠に入ります。覚醒から急速にレム睡眠に移行するので、脳は覚醒しているにもかかわらず体が思うように動かせない状態になり、金縛りが起こりやすくなります。

入眠時幻覚

入眠時幻覚とは睡眠麻痺と同様に、覚醒から急速にレム睡眠に移行することで起こる非常に現実感のある夢を指します。たとえば、部屋の中にいるはずのない人や動物などの気配を感じたり、体を押さえ付けられているように感じたりして強い恐怖を覚えるのが特徴です。小さなお子さんでは「眠ろうとするとお化けが出てくる」などと表現することもあります。

中途覚醒

ナルコレプシーでは覚醒の維持だけでなく、睡眠を安定的に維持することも難しくなります。そのため、夜間の就寝中に何度も目が覚めてしまう(中途覚醒)傾向があります。寝たり起きたりを繰り返し、熟眠感を得にくくなります。

はじめは日中に強い眠気が現れることがほとんどです。ナルコレプシーのタイプ1では、睡眠発作とほぼ同時期から数年の間に脱力発作が現れるので、それをきっかけに病気を疑って受診されるケースが多いでしょう。

PIXTA
写真:PIXTA

そのほか、学校の先生からお子さんが授業中に頻繁に居眠りをしていると指摘されて、症状に気付かれる場合もあります。特に発症直後は睡眠発作の症状が強く出ることが多いため授業中ほとんど眠ってしまう、全ての授業で寝てしまうという方は、ナルコレプシーを疑って病院を受診することをおすすめします。

好発年齢である中学・高校時代はナルコレプシーなどの病気によって眠ってしまっているのか、部活動で疲れているなどの別の理由で居眠りをしてしまうのか判別するのは難しいでしょう。患者さん自身は居眠りをしている自覚がないことも少なくないため、学校の先生やご家族など周囲の方が変化に気付き、早期受診・早期治療につなげることが重要です。

注意欠如・多動症(ADHD)はドーパミンやノルアドレナリンの機能障害などによって症状が出る可能性が指摘されており、オレキシン神経の脱落や機能障害などによって起こるナルコレプシーと同様に過眠症状や注意力の欠如などの症状が現れます。特にナルコレプシーのタイプ2とADHDの症状とは重なる部分が多いので、いずれかを併存していないか確認したうえで適切な治療を行う必要があると考えられています。

特に小学生から高校生にかけては学業への影響が懸念されます。授業中の居眠りをはじめ、高校・大学入試などの試験の際にも眠ってしまい、肝心な場面で自分の力を発揮できないことにつながります。それによって、希望の進路を諦めなければならなかったという患者さんもいるでしょう。社会人になると、それまでは気付かれていなかったとしても仕事中の居眠りを周囲の方に指摘されたのをきっかけに、病気が発見されるケースも少なくありません。

ナルコレプシーの治療を早期に開始できれば自分の力を発揮できるようになり、進路選択の幅が広がると思います。家族や学校の先生などはお子さんの様子の変化に気を配り、ナルコレプシーを疑う症状がみられた場合にはなるべく早く病院を受診して医療に結びつけましょう。

ナルコレプシーを発症すると食欲が増し、また体温が低下傾向になり少ないエネルギーでも活動できるようになるため徐々に肥満になり、のちに睡眠時無呼吸症候群2型糖尿病を合併しやすくなります。これらの病気は心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞といった命に関わる重篤な病気につながる恐れがあるため、ナルコレプシーを疑う症状がある場合には早期に病院で相談いただきたいと思います。

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写真:PIXTA

お子さんにナルコレプシーを疑う症状がみられたら、まずは小児科を受診しましょう。小児科の先生に相談のうえ、中枢性過眠症を専門とする医師を紹介いただくことをおすすめします。

ナルコレプシーが疑われる場合には、問診で症状について確認するとともに睡眠時の脳波や睡眠の状態などを検査します。

PSG検査

PSG(終夜睡眠ポリグラフ)検査とは、睡眠中の状態を調べるために1泊2日で行う検査です。就寝中の脳波をはじめ呼吸の状態や酸素濃度などの項目を調べて、睡眠時無呼吸症候群などの併存疾患がないか確認するとともに正常な睡眠が取れているか、また日中の眠気の原因がないかをチェックします。

MSLT検査

MSLT(反復睡眠潜時)検査とは昼間の眠気を調べる検査で、PSG検査の翌日に行います。入眠する様子を日中2時間おきに5回測定し、眠りに入るまでの平均時間や入眠後にレム睡眠が出現するかなどを確認します。

ナルコレプシーの治療では、薬物治療と生活指導(生活習慣の改善)を組み合わせて行います。以下ではそれぞれについて詳しくお話しします。

睡眠発作に対する薬物療法

日中の強い眠気(睡眠発作)に対しては中枢神経刺激薬によって治療を行います。第一選択薬となるのはモダフィニルですが、患者さんからの症状の訴えや検査結果などを考慮して適切な薬を処方しています。

中枢神経刺激薬は頭痛などの副作用が出る可能性があるため、患者さんに症状の改善を確認しながら徐々に量を増やす必要があります。

日中の眠気以外の症状、併存疾患に対する治療

情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚といったレム睡眠関連症状には、レム睡眠を抑制する薬を用いて症状の改善を図ります。

またナルコレプシーの薬物療法は、ADHDが併存している可能性を念頭に置いて治療を進めることが重要です。そのため、必要に応じて神経発達症を専門的に診療している医師と連携して治療にあたります。

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写真:PIXTA

規則正しい生活を心がけ、夜の睡眠時間を十分確保することが大切です。また、10~15分程度の短時間でもよいので昼寝の時間を確保すると午後の眠気の軽減につながります。可能であれば、午前中・お昼過ぎ・夕方など1日の中で複数回仮眠を取ることをおすすめします。

お子さんが学生の場合にはご家族をはじめとする保護者が学校に診断書を提出し、休み時間などに保健室で眠れるようお願いするのもよいでしょう。

ナルコレプシーの原因となるオレキシン神経の脱落や機能障害がなぜ起こるかは分かっていないため、治療の基本は対症療法です。現在、原因の解明とともに治療薬に関する研究が進められており、過眠症状や情動脱力発作に一定程度の効果が期待されるオレキシン受容体作動薬の治験などが実施されています(2024年1月時点)。ナルコレプシーに関する研究が前進すれば、症状に関する悩みも次第に解決されていくでしょう。それまではナルコレプシーの治療を継続いただき、症状の軽減に努めていただきたいと思います。

ナルコレプシーは治療を行うことで症状の改善を図れます。もしお子さんにナルコレプシーを疑う症状がみられたならば、早めに小児科を受診し適切な治療につなげましょう。

病院で検査を受けて適切な治療を継続すれば、日中の眠気などの症状の軽減が期待できます。したがって、学業や仕事などにおいて本来の能力を十分に発揮できるようになるでしょう。だからこそ「日中眠いのは寝不足のせいだ」「成長期だから仕方ない」と決めつけずに検査を受けて、適切な治療にたどり着くことを願っています。

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