インタビュー

ナルコレプシーの症状

ナルコレプシーの症状
本多 真 先生

東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野・睡眠プロジェクト プロジェクトリーダー

本多 真 先生

この記事の最終更新は2016年02月23日です。

ナルコレプシーは、別称「居眠り病」ともいわれ、眠いと感じる時に抵抗できず、多くの場合はそのまま眠ってしまう病気です。脳の覚醒中枢(目覚めつづけるためのシグナル)がきちんと働かないために起きると考えられています。このナルコレプシーには特徴的な症状があります。東京都医学総合研究所睡眠プロジェクトリーダーの本多真先生にお話をうかがいます。

「眠い」と「眠ってしまう」の間には、実はかなり大きな違いがあります。私たちは、眠ってはいけない場面では眠くても我慢して起きているように努めます。しかし、眠気に抵抗できずに居眠りしてしまうのがナルコレプシーの特徴です。寝不足や特発性過眠症など、ほかの眠気をきたす病気は、ある程度我慢ができるので、何とか居眠りをせずに済む場合もあります。ところが、ナルコレプシーだけは眠い=居眠りにつながってしまいます。もちろん、徹夜など寝不足が続けば誰でも居眠りすることはあるでしょう。しかし、睡眠をしっかりとっても毎日居眠りをしてしまうのがナルコレプシーに特異的な症状です。

また、ナルコレプシーの症状が重い人では「睡眠発作」がみられる場合もあります。これは「眠い」と思う前に眠ってしまい「気がついたら寝ていた」という症状です。必ずしもナルコレプシーの患者さん全員に見られるわけではありませんが、ナルコレプシーに多くみられる特徴です。

さらに、ナルコレプシーの患者さんには目覚めた後の状態にも特徴があります。1回の居眠り昼寝であまり長く眠らなくても、目が覚めたあとさっぱりする感覚があります。朝の目覚めについても、健常者の方よりも目覚めがよい傾向があります。ナルコレプシーでは、昼寝でも夜の睡眠でも、眠りと目覚めの移りかわりが容易に生じるという特徴をもっているからかもしれません。

ナルコレプシーの患者さんの1日あたりの睡眠量は、ナルコレプシーでない方の睡眠時間と変わりません。ですから、ナルコレプシーは「たくさん寝てしまう病気」ではありません。睡眠過剰発現ではなく、覚醒維持障害なのです。

情動脱力発作とは、気持ちが高ぶったり、びっくりしたりする瞬間に、体の一部が脱力してしまう症状です。もっとも多いのは、大笑いした時にひざがカクンと抜けたり、舌や頬の力が抜けてろれつが回らなくなるという症状です。座っていたりすると周囲からはわかりにくい場合もありますが、本人自身は、筋肉の緊張が抜ける感覚をはっきり感じるので、兆候があればすぐに何かにつかまったり、意識的に力をいれて抵抗し、脱力発作による怪我を防ぐことができる場合が多いです。また、情動脱力発作は睡眠ではなく覚醒中に起きることが特徴で、発作中のできごとはしっかり記憶しています。

ナルコレプシーは発達にともなって発症する特徴があるため、多くは思春期に起こります。中国では発症年齢でもっとも多いのが8歳前後、4~5歳での発症例も多く報告されています。日本はアメリカやヨーロッパとほぼ同じでだいたい13~14歳が発症のピークです。ただ頻度は低いですが40代で発症するケースもみられます。

情動脱力発作に加え、最近イタリアで発症期の非定型な症状が、新しい情動脱力発作の形であると報告※されました。特に若年小児の半数程度に見られる症状とされ、発作ではなく脱力状態が持続します。具体的には、ふらふらしてうまく歩けない、首や顔の力がずっと抜け続けゆるんだ状態になっている、舌が常に出た状態になってしまうなどです。脱力だけでなく、顔に歪みがでる、体が意図しない動きをしてしまう、眉をしかめるなど不随意の運動症状もあります。面白いアニメをみると誘発されるなど、きっかけとなる情動があるとこの非定型な症状はさらに多く出現します。これが半年~1年程度続いたあと、治療の有無に関わらず、経過に従って通常の情動脱力発作に移行していくとされます。

Brain誌に掲載。supplementary dataよりVTRを視聴可能。

Windows media playerでは視聴不可。quick timecodecなどmp4形式の動画が見られる環境があればwindows でも視聴可能。)

一見すると、別の病気にも見えるような症状です。不随意運動に関しては、「パンダス」 (Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorders Associated with Streptococcal infections)という子どもで溶連菌感染症のあとに生じる異常行動と似ていると報告されています。症状は発作のように短時間で終わるわけではないのですが、基本的には情動脱力発作と同じように、笑うなどの情動がきっかけになって脱力症状や不随意運動が起こります。

睡眠麻痺(金縛り)と入眠時幻覚は、どちらも眠りについたタイミングで起きるのが特徴です。睡眠麻痺は、「頭が起きているのに体が眠っている」ために「体が動かない」と感じる症状です。入眠時幻覚は、「お化けや泥棒が部屋に入ってくる」「お化けや泥棒に体を押さえつけられる」「大きな虫が体を這っている」といった症状で、「幻視」や「体感幻覚」を中心とするものです。通常、私たちはこういった現象を「夢」として経験します。しかしナルコレプシーの患者さんの場合、起きた状態で実際に起こっているように生々しい実在感をもって体験します。「非常にリアルな悪夢体験」とイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。

また、夢は本来目覚める前に見るものなのですが、ナルコレプシーの方の場合「眠りに入ったタイミング」で見ることが多くあります。さらに、この時見る夢はほとんどが「怖い」ものであることも特徴です。中には、霊に取り憑かれたと思ってお祓いを受けたという方もいらっしゃいます。幻覚症状は、リアルな夢体験を反映して「体感幻覚」や「幻視」が多く、精神病に多い幻聴は少ないという特徴があります。

なぜ悪夢や怖い幻覚ばかりになるのか、理由はわかっていません。「お化けや泥棒が(寝ている)部屋に入ってくる」「(寝ている姿勢のまま)お化けや泥棒に体を押さえつけられる」という訴えからもわかるように、自分の寝ている部屋の状況が背景にあって、そこで起こっているように感じることが多いようです。

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    本多 真 先生

    精神科臨床医よりキャリアをスタート。スタンフォード大学睡眠研究所への留学後、睡眠研究の世界に。2018年5月現在、月6日で神経研究所附属晴和病院にて睡眠専門外来をしながら、東京都医学総合研究所にてナルコレプシー/過眠症に焦点をあてた研究をすすめている。

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