インタビュー

ナルコレプシーと間違われやすい病気は? 早期診断のために知っておいてほしいこと

ナルコレプシーと間違われやすい病気は? 早期診断のために知っておいてほしいこと
立花 直子 先生

関西電力病院 睡眠関連疾患センター長

立花 直子 先生

目次
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ナルコレプシーは日中の強い眠気を主な症状とする病気です。一般にあまり知られておらず、ほかに症状が似ている病気があるといった背景もあり、発症から診断までに時間がかかる傾向がみられます。10歳代で発症する方が多いため、ご家族や学校の先生方にも病気をご理解いただき、早期受診につなげることが重要です。

今回は、ナルコレプシーの症状や間違われやすい病気、受診の目安などについて、関西電力病院 睡眠関連疾患センター長 立花 直子(たちばな なおこ)先生にお話を伺いました。

ナルコレプシーは、日常的に十分な睡眠を取っていても日中強い眠気に襲われ、通常眠るとは考えられないような状況でも眠ってしまう病気です。

この病気はタイプ1とタイプ2に分けられ、タイプ1は情動脱力発作(カタプレキシー)といって感情の動きをきっかけとした筋の緊張低下を伴います。当院の患者さんに限っていえば、情動脱力発作を伴わないタイプ2の方のほうが多く受診されているという印象があります。

また、ナルコレプシーには10歳代ぐらいの比較的若い世代で発症する方が多いという特徴があり、日本人は世界的に見て有病率が高いと考えられています。

ナルコレプシーの主な症状は、日中の強い眠気と、タイプ1にみられる情動脱力発作です。そのほか、多くの患者さんでは、入眠時幻覚、睡眠麻痺、不眠症状などを伴います。

写真:PIXTA

日中の強い眠気

十分な睡眠を取っていても日中に強い眠気があり、試験中や商談中など、通常眠るとは考えられないような状況でも眠ってしまいます。

情動脱力発作

大笑いしたときや冗談を言おうとしたとき、驚いたときなど、感情が動いたときに筋緊張が低下します。軽い発作で顔面筋の緊張が低下し、笑おうとしても笑えなくなったりまぶたが下がってきたりする例もあれば、四肢の筋緊張が低下した場合は操り人形の紐が切れて崩れ落ちるかのように倒れてしまう例もあります。ナルコレプシーに特徴的な症状で周囲の方が異変に気付きやすく、受診のきっかけにもなります。一方で、ご本人も周囲の方も単なる癖だと思い込んでいる場合もあるようです。

入眠時幻覚

入眠時に、“部屋の中にいるはずのない人の気配を感じる”“人やものが体にのしかかっているように感じる”“音を出すものがないのに音が聞こえる”といった幻覚です。ただし、入眠時幻覚は健康な方にも起こり得ます。

睡眠麻痺

入眠時や起床時、意識はあるのに体を動かせないという症状です。いわゆる“金縛り”で健康な方にも起こり得ます。

不眠症状(睡眠維持の困難)

夜中に何度も目が覚めてぐっすり眠れなくなります。ストレスなどがあると健康な方にも起こる症状です。

特にナルコレプシーのタイプ1では、脳脊髄液(のうせきずいえき)中のオレキシン(ハイポクレチン、ヒポクレチンという呼び名もありますが、同じものです)という神経伝達物質の量が非常に少ないことが知られています。そのため、少なくともタイプ1はオレキシンを産生するオレキシン神経系に何らかの問題が生じて発症する自己免疫疾患*という仮説が有力になっています。オレキシン神経は脳内のほかの神経に対して、覚醒を維持させる方向にはたらきかけています。その機能にダメージがあることによって覚醒を維持しにくくなり、ナルコレプシーを発症するといわれています。

*自己免疫疾患:本来ウイルスや細菌などの外敵から自分の体を守るためにはたらく免疫が、自分の体の組織を攻撃してしまって起こる病気。

イラスト:PIXTA/加工:メディカルノート
イラスト:PIXTA/加工:メディカルノート

ナルコレプシーの認知度はまだ低く、似たような症状がある別の病気と間違われることも少なくありません。それぞれの病気の特徴とナルコレプシーとの違いを説明します。

その方にとって必要な睡眠時間が確保できていない状態が長く続くと日中に強い眠気が現れることがあり、これを睡眠不足症候群といいます。睡眠時間が足りていないと自覚していない方も多く、診断にあたっては睡眠日記をつけていただき、日頃の睡眠時間を見直す必要があります。また、一定期間、夜間の睡眠時間を延ばしたときでも眠気が持続するかどうかを確認するのがナルコレプシーと見分ける際のポイントになります。

日本人は世界的に見ても睡眠時間が短い傾向にあり、睡眠不足症候群の方は平日の睡眠時間の不足を休日に長く眠って取り戻すという特徴があります。睡眠が足りていない可能性が考えられる患者さんに、少しでも睡眠時間を延ばせるように目標を設定して取り組んでいただくと、日中の眠気が軽減されたという方もよくいらっしゃいます。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に無呼吸を繰り返す病気で、“日中の眠気があると睡眠時無呼吸症候群である”というイメージを持っている方も多いかもしれません。睡眠時無呼吸症候群のほとんどが上気道(鼻腔(びくう)から喉頭(こうとう)までの気道)の閉塞(へいそく)によって起こる閉塞性睡眠時無呼吸症候群というタイプで、日中の眠気などの症状に加えて断続的にいびきが出るのが特徴です。入眠すると舌の緊張が取れ、上気道に舌が落ち込んで邪魔することで空気が通らなくなります。この状態が無呼吸です。無呼吸中には静かになりますが、20~40秒ほどこの状態が続くと、グゥワーッといういびき音とともに呼吸が再開します。ナルコレプシーは覚醒に必要な脳の神経系の異常で眠くなりますが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、呼吸再開のたびに短い目覚めが起こって睡眠が分断され、睡眠の質が悪くなる結果として日中に眠くなるという違いがあります。

なお、ナルコレプシーと閉塞性睡眠時無呼吸症候群が併存している方もいらっしゃいます。

てんかん

ナルコレプシーの情動脱力発作がてんかんの発作と間違われるケースがあります。特に、顔面筋の緊張低下によってうまく笑えないといった軽い情動脱力発作は、側頭葉てんかんの発作の一種(口部自動症と呼ばれる口の周囲の動き)と似ています。ただし、てんかん発作では意識低下がみられますが、ナルコレプシーの情動脱力発作では意識は保たれており、患者さんは“動こうとしたけれど動けなかった”という自覚があるため両者の区別はつきやすいでしょう。“情動”という要素があるかどうかもポイントになります。

日中の眠気や脱力を伴う病気はほかにも

概日リズム睡眠障害も日中の眠気を伴います。これは約25時間の体内時計の周期を、地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調させられず、睡眠のリズムが崩れることで起こります。十分に睡眠が取れていないのに社会生活に合わせて無理に起床するために日中の眠気が生じており、ナルコレプシーと見分けることはそれほど難しくはないでしょう。

そのほか、ご高齢の方ではナルコレプシーの情動脱力発作を、一過性脳虚血発作*によるものと間違われる場合もあります。

*一過性脳虚血発作:一時的に脳への血液供給が不足することで脳梗塞と同じ症状を引き起こすがすぐに正常の状態に復帰する病態。

ナルコレプシーの患者さんには、“受験勉強から解放されて睡眠時間を十分確保できるようになったのに、日中の眠気が治まらない”“上司と一緒に得意先を訪ねた際、大事な商談中にもかかわらず眠ってしまった”といった経験のある方がよくいらっしゃいます。

特に若い世代で夜間に十分眠っているのに日中に眠気がある、通常眠るとは考えられないような状況で眠ってしまった、情動脱力発作があるという方はナルコレプシーの可能性を考えて、早めに受診されるようおすすめします。

ナルコレプシーの診断の際には主に、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)と睡眠潜時反復測定検査(MSLT)の2つの検査を行います。どちらも検査時の痛みなどはなく、お子さんでも受けられる検査です。

体に複数のセンサーを装着し、就寝中の脳と体の状態を記録することで睡眠の質や呼吸の状態などを調べる検査です。日中の眠気を引き起こす原因がないか確認します。1泊2日の入院で行われます。

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日中の眠気の程度や、入眠してすぐにレム睡眠が出現するかどうかを調べる検査です。脳波、眼球運動、筋電図などを記録するセンサーを装着し、暗く静かな部屋で2時間おきに5回、眠りに入るまでの時間を測定します。終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)の後、必要のないセンサーを外した状態で翌日の日中に行います。

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睡眠のリズムが乱れた状態で検査を行うと診断に支障が生じる可能性があるため、標準的な方法は、検査日の約2週間前から夜間に十分な睡眠を取り、睡眠時間帯をなるべく一定に保つようにします。検査を予約された方には記録用紙をお渡しして、ベッドに入っていた時間やぐっすり眠っていた時間、うとうとしていた時間など、睡眠の状況とともに1日の活動を睡眠日記として記録していただき、検査前の睡眠について把握する必要があります。

終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)と睡眠潜時反復測定検査(MSLT)を合わせると1日半程度かかるため、スケジュール調整など患者さんのご負担も決して小さくありません。一度の検査でしっかり診断できるよう、事前に準備して臨んでいただければと思います。

ナルコレプシーの治療には主に、日中の眠気を抑えるメチルフェニデート塩酸塩やモダフィニルなどの薬が用いられ、効果の持続時間や価格の違いなど患者さんのご希望も踏まえて選択します。治療薬を上手に使用して症状を軽減するとともに、健康維持を心がけることにより、病気のない方とほぼ変わらない生活が送れるようになることが期待できます。

メチルフェニデート塩酸塩は効果の持続時間が短いため、朝と昼の1日1~2回に分けて服用します。モダフィニルは効果の持続時間が長いため、1日1回朝に服用します。なお、モダフィニルはメチルフェニデート塩酸塩と比較すると高価です。どちらの薬も、処方できる医師が登録制になっているため、登録されている医師が診療を行っている医療機関を受診する必要があります。

現在では、新たな治療薬の研究開発が進んでいます。将来的に治療の選択肢が増え、患者さんがより治療を受けやすくなるよう期待しています。

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日常生活では、次のようなことに気を付けることも大切です。

睡眠時間が不足しないよう心がける、可能な範囲で昼寝の時間を確保するといった工夫をするとよいでしょう。そのためには周囲の方がナルコレプシーを理解し、協力することが患者さんの助けになります。

日中の眠気を抑える薬については、眠気が出ても問題ない休日には服用を休むなど、休薬日を設けるようおすすめしています。なるべくご家族など周囲の方の理解を得て、眠くなったら寝て疲れをためないようにするとよいでしょう。

ただし、情動脱力発作を抑える薬を服用している方は、休薬すると症状が悪化する恐れがあるため、自己判断で服用をやめないようにしてください。

運動習慣をつける、過度の飲酒を控えるなど、健康に気を遣って生活することはとても大切です。特に、肥満になると睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなり、ナルコレプシーと合併すると治療の負担もさらに大きくなるため、太らないような生活を心がけていただきたいと思います。

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ナルコレプシーは発症から診断まで10年程度かかることもよくあり、日中の眠気が強くても、中学生や高校生のうちに医療機関を受診される方が少ないのが現状です。当院でも、社会人になり職場で指摘を受けたことなどをきっかけに受診される20歳代以降の患者さんは珍しくありません。

受診や診断が遅れる原因の1つとして、ナルコレプシーという病気の認知度の低さが挙げられます。中学生や高校生は勉強が忙しくなり、また興味の対象が増えて活動範囲が広がる時期で、睡眠不足に陥りがちです。授業中に寝ている生徒がいても、学校の先生も周囲の方も病気の可能性があるとは考えにくいのではないでしょうか。社会人になってから受診された方の中には「眠気は中学生の頃からあったが、そんなものだと思って気にしていなかった」とおっしゃる方もいます。

また、睡眠に関する病気を総合的に診療している専門の医師が少ないことは、現在の課題だと考えています。さらに、国内では睡眠潜時反復測定検査(MSLT)を実施できる医療施設が限られていることや、ナルコレプシーと関連が深いオレキシンの量を調べる脳脊髄液中のオレキシン濃度測定が保険適用外で一般に広まっていないといった事情も、診断が遅れる原因といえるでしょう。

社会に出てからナルコレプシーであることが分かるよりは、なるべく中学生や高校生のうちに診断を受けて病気の特性を知っておくことができたら、ご自身の希望や適性を考慮しつつ安心して長く働ける職業を見つけやすくなるでしょう。たとえば、日中に昼寝の時間を確保できればすっきり目覚める方が多いので、そのような働き方が許容される職業を選ばれることも手段の1つです。また、規則正しい睡眠を取りにくい職業や、危険度の高い作業を行う職業、車の運転が必須となる職業、ミスが人命に直結する職業を避けるなど、職業選択を早めに検討できるでしょう。

なるべく早くナルコレプシーだと気が付けるように、養護教諭を含む学校の先生、ご家族など周囲の方々にこの病気を知っていただき、ナルコレプシーを疑う症状が現れていないかお子さんの様子をよく見ていただきたいと思います。特に情動脱力発作はほかの病気ではほとんどみられない症状ですので、10歳代で日中の眠気と情動脱力発作があれば早めに受診されたほうがよいでしょう。

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ナルコレプシーという病気を多くの方に知っていただき、「もしかしたらこの症状はナルコレプシーかもしれない」と疑って受診される方が増えればよいと考えています。日中に眠気を感じる方は、まずは睡眠時間をしっかり確保できるようにして、それでも眠気が治まらないようならナルコレプシーの疑いがありますので受診を検討しましょう。また、ナルコレプシーは10歳代で発症する方が多いため、周囲の方にもこの病気をよく知っていただき、早期受診につなげていただければと願っています。

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