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連載脱「白い巨塔」―変革続ける医局の“自画像”

ワークライフバランスで女性外科医増を―富山大学学術研究部医学系消化器・腫瘍・総合外科

公開日

2021年07月29日

更新日

2021年07月29日

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2021年07月29日

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脱「白い巨塔」―変革続ける医局の“自画像”【4回】 藤井努先生

全国には国公私立合わせて81大学に医学部があります。一口に「大学医学部」といっても国公立と私立、都市部と地方では期待される役割にも違いがあるようです。時代に合わせて変わる医局の姿をリポートするシリーズ第4回は、“男職場”の外科で女性もキャリアを重ねられるシステムを作ってきた富山大学学術研究部医学系消化器・腫瘍・総合外科教授、藤井努先生のお話です。

自分が10人救うより10人救える医師5人育成

今は手術で前立ち(第1助手:患者をはさんで執刀医の正面に立ち、補助や助言をする)をすることも多いです。それは、教えることによってより多くの患者さんの命を救うことができるからです。例えば僕1人で10人の患者しか救えないとすると、僕と同じレベルの手術ができる医師を5人育てれば、同じ時間で50人を救うことができます。

2017年4月の着任から5年目で実績はこれからですが、すでに医局員の数人は、僕と同じレベルの手術ができるようになってきています。10年後には技術的にも医師としてもとびぬけた外科医が出てくると思います。

休める体制づくり目指し「医局制」に

地方大学の新設医局で、着任した時には人材不足や患者さんが多くないという状況でした。

まず始めたのが「外科医のワークライフバランス」確保です。その前提として「自分がされて嫌だったことはしない、自分がしてほしかったことをしてあげる」ということを教育の基本的なポリシーにしています。

土日も毎日病院に行って、年末年始も休まず実家にも帰れない。外科医の世界ではそういう働き方がある種「当然」という空気がありますが、それを続けていくのはいろいろな意味で疲弊してきます。働くのが嫌いなわけではないですが、それでも365日休まず働くのは身体的にも精神的にもしんどいですよ。

ですから、外科医といえどもきちんと休みを取れるような制度にする。

どうしたかというと、「主治医制」を「医局制」に変えていきました。一般的には「チーム制」が良いとされていますが、当教室はさらに上の段階である「医局制」です。各自に受け持ち患者さんがいつつ、医局全体で全入院患者さんを診る。医局の誰かがいれば患者さんを確実に診ることができる、それが医局制です。

その状態にもって行くために、まずは全入院患者さんのカンファレンスを毎週しっかりとやって、状態を全員が把握できるようにしました。また、TEAMSというアプリを使って情報を共有しました。「Aさん、今日は少し熱がありました」「今日、BさんのCTを撮ります」「今から緊急手術をします」……といったさまざまな状況やデータを、全員がリアルタイムで把握できます。僕と担当医、医局員同士でディスカッションをすることや、質疑応答などがあれば、それも見られるので若い人には勉強になりますし、病棟で起こっていることも分かります。

それを徹底してやっと休んでも安心という状況が作れて、ワークライフバランスがとれるようになりました。患者さんの安全に影響を与えずに休めるシステムができるまで、最初の2、3年を費やしました。

「女性」「外科医」両方の幸せをサポート

もう1つ、女性外科医を増やせるようにしています。外科医は“3K”と言われ、“男の職場”のようなイメージがあるかもしれません。でも僕は、女性は外科医に向いていると思っています。手先の繊細さ、気配りの細やかさは、やはり男性よりは女性が勝っています。女性が外科医を選びにくいのは、身体的にきつい、結婚・出産というライフイベントがキャリアの障害になってしまう可能性があるということが根底にあるのではないでしょうか。

身体面では、僕の手術も10時間かかるものもありますが、僕も執刀医も含めて3-4時間ぐらいで交代します。別のメンバーに受け渡し、休んだらまた戻って手術を続けます。1人で5時間も10時間も集中力は続きません。交代で体力と集中力を高いレベルで保ちながらのほうが、安全な手術ができます。このようなシステムであれば、強靱な体力がなくてもいい手術ができます。

もう1つのライフイベントに関しては、定期的な休日だけでなく、産休・育休も取れるようにし、休んでいる間も病院や医局の情報がきちんと入って“取り残されない”ようにすれば、ライフイベントと外科医としてキャリアの両立が可能です。女性としても外科医としても幸せになることをサポートする、もちろん男性も同じように幸せになれる――それを目指しています。

理念や教育は言語化が必須

着任してから次のような「TOYAMA Surgery」という医局のモットーを作りました。

T:ていねいな手術
O:教える手術
Y:休みを取る手術
A:明るい雰囲気の手術
M:みんなで行う手術
A:明日につながる手術

一部補足すると、教えるというのは、見て覚えさせるのではなくきちんと言語化して若い人に教える。明るいは、ぎすぎすした雰囲気にしない。僕は「今日はどんな話題で話そうか」ということを考えながら手術室に入ります。

若い人の教育はもちろんですが、新しい試みを未来の医療につなげるためには、やりっぱなしにするのではなく臨床試験や臨床研究に登録するなどして明日につなげていくことが大切です。

理念や教育は感覚で教えるのではなく言語化し、なぜこうすべきか、どういう方向に進もうとしているか、相手に伝わるよう説明すべきだと思っています。

「雇われる医師」の条件とは

新しく来た医局員には必ず、「雇ってもらえる医者になってほしい」とレクチャーしています。

具体的に必要なことは「決定できる」「医療経済を考えられる」「難しい治療に挑戦する」――ことの3つです。

暗記だけで医療はできません。国家試験に合格した直後の医学部6年生は、知識量だけはたくさんあります。でも、目の前にいる風邪の人を治せるかというと、何1つできません。治療に必要なことは、「この人にはこの薬を出そう」「この人は手術をしてはいけない」……といった、ディシジョンメイキングです。決定する力こそが医療の本質だと思っています。「どうしたらいいでしょうか」ではなく、まずは自分の結論を出して、それでいいかを聞くということを若いころからやっていれば、ディシジョンメイキングが早くできるいい医者になれるはずです。

もう1つ、医療経済は本当に大事です。病院経営も厳しい時代、きちんと収益が上がらなければ、病院もやっていけません。患者さんのためになる医療をし、その中でもコストを削る。糸1本、機材1つにもコスト意識を持つ。もちろん「安かろう悪かろう」ではいけません。そういう医師がこれからは重用されるのではないでしょうか。

最後に、やはり大学病院にいる以上は、ほかの病院ではできないような難しい手術、治療をやらなければなりません。「ほかの病院で治せなかったからうちでもできない」ではいけない。だからといって患者さんを死なせてしまっては意味がありませんから、治療のメリットとデメリットのバランスをいつも考えることが大事です。

地方の医師はジェネラリストの部分も必要

都会にはいろいろな分野のスペシャリストがいますが、地方はそうではありません。ですから、救急も1次治療も、重症患者のICU管理もできるといったジェネラリストの部分も育てる必要があります。

普通の大学は消化器外科でも、「上部消化管」「下部消化管」「肝胆膵」とチームが分かれています。でも、ここでは全部をやらせています。「○○しかできません」という医師は、地方の病院では必要とされません。一通りの手術をできる医師を育てるというのは、地方大学の使命だと思います。

日本特有の地域医療を支えるうえで、医局制度のメリットは多分にあったと考えます。個人の選択に任せると、都会の病院、人気のある病院に医師が集中してしまい、地方の病院で働く人がいなくなってしまう。そうならないように医師を分配し、采配してきたのが医局でした。

もう1つ、医師免許を取ったらあとはそのままでいいわけではなく、知識や技術のアップデートが定年まで必要です。僕が医師になったばかりのころに“常識”だったものが、今は禁忌になっているということもあります。医局が責任をもって中堅、壮年期の医師にも教育をすることも、医局に課せられた役割です。医局に入っていない外科医が、ロボット手術を覚えられるチャンスはありません。新しい手術を開発することもできません。

医師の「質の担保」という意味でも、大学の医局は意味があるものだと思います。