日本リウマチ学会とメディカルノートによる第9回連携ウェビナーが、2025年12月11日に開催されました。今回は「シェーグレン症候群からシェーグレン病へ:その変遷と疾患負荷」をテーマに、日本シェーグレン病学会(前・日本シェーグレン症候群学会)理事長の中村 英樹先生(日本大学医学部 内科学系 血液膠原病(こうげんびょう)内科学分野 主任教授)が登壇されました。長年“症候群”とされてきた疾患がなぜ“病”へと名称変更されたのか、最新の調査から明らかになってきた患者さんの深刻な負担、そして新たな治療薬の開発に向けた新しい患者分類について、講演の内容をダイジェストでお届けします。
現在、シェーグレン病を取り巻く環境は大きな転換期を迎えています。これまでは“シェーグレン症候群”と呼ばれてきましたが、「症候群」という言葉に対する違和感から、名称を変更すべきであるとの議論が国際的に加速しました。
米国のシェーグレン財団をはじめとする国際的なタスクフォースでの議論を経て、2023年に国際的な学術誌Nature Reviews Rheumatologyにおいて“Sjögren’s Disease(SjD、シェーグレン病)”という名称が公式に認められました。また、従来用いられてきた“secondary(二次性)”に代わって“associated(関連)”という言葉を用いることになりました*。
この流れを受けて日本でも、2025年9月の日本シェーグレン症候群学会総会にて学会名を「日本シェーグレン病学会」に変更することが決定し、secondary(二次性)からassociated(関連)への変更に伴い日本語では“関連シェーグレン病”という用語を用いることも採択されました。現在は厚生労働省や日本医学会の最終決定を待っている段階です。
*二次性(関連)シェーグレン病:関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど、ほかの自己免疫疾患に合併して生じるシェーグレン病のこと。これらの疾患の合併がないものは、一次性(原発性)シェーグレン病と呼ばれる。
「シェーグレン白書2020」は、2019年11月に日本シェーグレン症候群患者の会の会員に対して行われたアンケートの結果を同会がまとめた報告書です。この報告書により患者さんが抱える深刻な負担が浮き彫りとなり、日本リウマチ学会により編集された「シェーグレン症候群診療ガイドライン 2025年版」にも引用されました。
アンケートで日常生活に影響があると答えた方は84.4%にのぼり、「家事ができない」「経済的に苦しい」といった声が上がっています。また、59.3%の方が就労にも影響を受けており、退職や廃業を余儀なくされる、身体的な負担から仕事を変更せざるを得ない事態に陥っています。
診断までに要する期間が長いことも大きな課題です。「シェーグレン白書2020」によれば、初診から診断までに平均3年6か月の期間がかかっており、発症から数えると10年以上を要している方も珍しくありません。ドイツの調査によれば、典型的な乾燥症状以外の倦怠感や筋痛などの訴えが多い患者さんほど、診断が遅れやすい傾向があることも分かっています。現在の医療に対する満足度は4割に満たず、患者さんからは他科の医師との連携、病態解明と新薬の開発、専門センターの設立を望む声が強く寄せられています。
シェーグレン病の疾患活動性を評価する指標としては、全身症状を標準化する目的で開発された「ESSDAI(EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index)」が用いられています。日本においてはこの指標が難病申請の基準となっており、定められた12項目の領域について重み付けの係数に活動性点数を掛け合わせて合計点を算出し、5点以上が中・高疾患活動性とされ難病指定の基準となります。ただし、ESSDAIには目や口の乾燥症状(ドライアイ、ドライマウス)に関する評価項目が含まれていない点が、現在の議論の的となっています。
臓器障害の頻度については、スペインのレジストリデータによれば、関節症状が最も多く、次いで唾液腺などの腺(腫脹)症状、肺症状、皮膚症状の順に多くみられます。疾患活動性には人種差や地域差があることも分かっています。アジア人では関節症状が少なく、黒人・アフリカ系アメリカ人では疾患活動性が高い傾向にあります。重症の患者さんでの臓器障害の頻度では、悪性リンパ腫の発生頻度が37%と高く、中枢神経や肺、腎臓への影響も無視できないことに注意が必要です。また、長期予後の観点からは、男性であること、疾患活動性が高いこと、クリオグロブリンが陽性であることなどが、リスクが高い因子として明らかになっています。
最近の研究では、主観的な症状を含む患者報告アウトカムに加え、客観的な指標や生物学的パラメータを統合した新しい患者分類が提案されています。
フランスのグループが提唱した分類では、若年層に多くB細胞活性は高いが症状は軽い“BALS群”、全身の疾患活動性が高い“HSA群”、そして疾患活動性は低いものの主観的な症状が強い“LSAHS群”の3つに分けられます。この分類では、症状の少なさはBALS群で目立ち、倦怠感を伴う疼痛(とうつう)はLSAHS群で多いことが分かりました。重要な点として、リンパ腫の発生リスクはBALS群とHSA群で高く、LSAHS群では高くないことが判明しました。
さらに、バイオマーカーに関する研究からは、主にBALS群において高いインターフェロンシグネチャー*が認められることも明らかになっています。これまで臓器障害が少ないために臨床試験の対象とされることが少なかったBALS群の患者さんに関して、インターフェロンシグネチャーの重要性が示されたことは大きな成果といえるでしょう。
これらの新しい知見が、今後の治療薬の開発や日常診療の向上に大きく寄与することが期待されています。
*インターフェロンシグネチャー:自己免疫疾患でみられる特徴的な遺伝子の反応パターン
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。