シェーグレン症候群は膠原病(こうげんびょう)の1つで、目や口の乾燥のほか強い倦怠感などが生じる全身疾患です。しかし、全身に影響を及ぼす病気であるという認識はまだ一般に広く浸透しておらず、それが患者さんの悩みや不安の一因になっています。診断されても治療法が確立していないため、医療から見放されているように感じる患者さんも少なくないといいます。高知大学医学部の特任助教で、ご自身もシェーグレン症候群の患者である日本シェーグレン症候群患者の会(以下、患者会)会長の小森 香(こもり かおり)さんは、「この病気について正しい理解が進み、患者に寄り添ってもらえたら」と話します。小森さんに、ご自身が患者として苦しんできた症状や抱いてきた思い、患者会の活動や今後の展望について伺いました。
振り返ってみると、シェーグレン症候群によるドライマウスや体のだるさといった症状は中学生、高校生の頃に始まっていたのだと思います。昼食の時間には私だけ何杯もお茶を飲みながら食べ、学校から帰宅すると疲れ果てて寝てしまう毎日でした。ドライアイを意識したのは20歳の頃です。ソフトコンタクトレンズを購入しようと眼科を受診し、装着したところ、目の乾燥から大量の目やにが出て視界がかすんでしまったのです。医学生だった当時の交際相手(現在の夫)から「シェーグレン症候群だと思うけど、病院で診断されても治療法はないよ」と言われ、病気なのだろうなと思いながらも「仕方がない」と受診せずにいました。
シェーグレン症候群と診断されたのは36歳のときです。1か月ほど微熱が続いて関節が痛み、母と同じ関節リウマチではないかと心配になり受診しました。勤務先の病院の内科で血液検査を受けると、すぐにリウマチの専門医を紹介され「関節リウマチではなくシェーグレン症候群ですね」と診断されました。続けて、驚いたことに「何もできないからもう来なくていいですよ」と言われたのです。本当にただ診断されただけで、「一体これからどうすればよいのだろう」と途方に暮れました。それ以降も、強い倦怠感を覚えて引っ越し先で別のリウマチ科を受診した際も「しんどくて大変ですよね」と言われて、血液検査だけで診察が終わることが続きました。
症状に対して初めて薬が出たのは48歳のときでした。手足のしびれがなかなか治まらず大学病院を受診した際に、乾燥症状への対症療法として唾液分泌促進薬を処方されました。診断を受けてから10年以上たって、ようやく薬を使い始めたのです。
こうした状況は私に限ったことではなく、患者会でも「受診しても血液検査だけ」という声をよく聞きます。腺外症状(乾燥以外の臓器障害などの症状)は生命予後に影響を及ぼす可能性があるため、医学的にはそちらが重視され、定期的に検査が行われます。一方で、患者がつらさを強く感じる症状に対しては根本的な治療法がないため、患者としては「何もしてもらえない」という思いを抱きやすい病気といえるでしょう。
私は現在、ドライアイについては涙点プラグ*と複数の目薬で何とか症状が落ち着いています。ドライマウスについては、食べ物を飲み込みにくいため食事の際に水分を多く取ることで対応しています。唾液を出す薬も服用していますが、唾液腺が破壊されているため大きな効果は感じられません。唾液が出にくいので虫歯になりやすく、治療していない歯がないくらいです。歯ブラシ2種類とフロス、フッ素ジェルで毎日丁寧にケアしています。また、手のしびれには対処法がないとのことでビタミンB12を服用していますが、しびれは続いています。さらに先日、転居に伴うストレスからか足に紫斑が出て、ステロイドと免疫抑制薬の投与が始まりました。
仕事はフルタイム勤務が難しく、40歳頃から非常勤にシフトしました。疲れやすいため度々休憩しないと長く活動できず、少し無理をして過ごすとその後何日もぐったりしてしまいます。仕事以外でも長時間活動することは不安で、遠出や運動をしない、旅行中も観光は短めにして早めに休むなど、行動を制限しながら疲れないように生活するのが習慣になっています。
このようにシェーグレン症候群にはさまざまな全身症状があります。しかし、一般的には「目と口が乾く(だけの)病気」と認識され、全身疾患であるとの理解が進んでいないことが患者たちの苦しさにつながっています。
*涙点プラグ:涙が鼻の奥へ抜けていく涙点という穴をふさぐための栓。
シェーグレン症候群と診断されて「もう(病院に)来なくていい」と言われてからどうすればよいのかさまざまな情報を検索しましたが、当時インターネットで得られたのは教科書的な病気の説明ばかりでした。ほかの患者がどんな日常生活を送っているのか知りたいという思いが募り、「こういう病気には患者会があるはず」と探して患者会にたどり着きました。2010年頃に入会してからは年に1回東京で開かれる総会に毎年参加しています。医師の講演会もあり、また講演会の後に医師が患者の質問に丁寧に答えてくれるのが本当にうれしかったです。会員の誰かが発言するとみんなが自分のことのようにうなずいて共感が広がっていく雰囲気で、「みんな同じなんだ。頑張ろう」と思えました。
次の一歩を踏み出したのは2015年、ノルウェーで開催される第13回国際シェーグレン学会に研究者として参加しようと思い立ったときでした。患者会事務局代表(当時)の武井 正美(たけい まさみ)先生に話したところ、「学会の中で国際患者会が開かれるから、行くなら日本代表として参加してほしい」と言われたのです。国際患者会担当として出席し、その後も継続的に国際学会に参加して各国の患者会代表と情報交換するなどつながりを持つようになりました。
一方、研究者としてシェーグレン症候群に関する論文を片端から読むなかで、「患者が本当に求めている研究は行われていない」と感じるようになりました。それなら自分でやるしかないと思い、データを集め、英語論文を2本発表しました。そのときに実施したアンケートをもとに患者会で作成した「日本シェーグレン白書2020*」の内容は、2025年に発行されたシェーグレン症候群診療ガイドラインにも引用されました。そんな経緯もあり、患者会前会長の退任を受けて私が推薦され、昨年から会長を務めています。
*日本シェーグレン白書2020:日本シェーグレン症候群患者の会が2019年11月に会員を対象に実施したアンケート調査の報告書。シェーグレン症候群の症状や医療の実態などが詳細にまとめられている。
患者会には、熱心に力を貸してくださる医師の先生方のおかげでシェーグレン症候群の最新情報がいち早く届きます。患者と医師が一緒に活動できている点が私たちの患者会のよいところだと思っています。また、近年の「シェーグレン症候群」を「シェーグレン病」へと名称変更する動きも、患者発信で世界の医師たちと連携して進められてきました。日本の患者会もこの活動に参画しており、世界と接点を持つことは非常に意義深いと感じています。
さらに、治療薬の開発が進むなか、シェーグレン症候群への医師の関心は高まってきています。有効な薬が発売されれば、さらに状況が好転するのではないかと期待しています。
一方、患者会の活動には課題もあります。1つは情報発信の手段です。シェーグレン症候群は中年女性に発症しやすい病気で、会員の中には高齢の方も少なくありません。WEBからの情報入手が苦手な人も含め全ての会員に情報が行きわたるよう、会報誌などは印刷物を郵送で届けていますが、送料の高騰に直面し電子媒体への移行を模索しているところです。
シェーグレン症候群は症状が目に見えにくいため、一般には分かりにくい病気だと思います。全身疾患なので目や口の乾燥症状だけでなく倦怠感や疲労感もあり、行動が大きく制限されるといった病気の特徴を正しく知ってもらえたらと思います。何かするにも頻繁に休憩が必要で時間がかかりますが、一緒に過ごすなかで患者の行動のテンポをつかみ、寄り添っていただけたら大変助かります。
また、ご自身に気になる症状があればぜひ病院を受診してください。診断に至るまでに時間を要する場合がありますが、診察時には「目の乾燥だけでなく体のだるさもあります」など全身の症状を伝えると、適切な診断につながりやすいかと思います。
そしてシェーグレン症候群と診断されたら、一人で悩まずぜひ患者会にアクセスしてください。今後治療薬が登場すれば、患者を取り巻く環境は大きく改善されていくでしょう。そして遠い未来の希望ではありますが、症状が出てくる前に診断がつき、早期に治療を受け、寛解できる病気になればと願っています。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。