休日・夜間診療や乳幼児健診など私たちの身近に当たり前にある医療を支えているのは、実は医師会の活動です。いつもの日常を守る、そして災害時にはそれを取り戻せるように被災地に駆けつける――神奈川県医師会は「命をつなぐ これまでも これからも」のコンセプトを掲げ、県民や医療者に向けて3つの約束を提示しています。前編となる本稿では、神奈川県医師会理事の磯崎哲男先生(小磯診療所院長<横須賀市>)と小松幹一郎先生(小松会病院名誉院長<相模原市>)に医師会の役割や能登半島地震での活動についてお聞きしました。
磯崎先生:医師会とはいったいどのような組織なのか、何を目的にどのような活動をしているのか、一般の方だけでなく医師の先生方にもまだまだ知られていないと感じています。
病院やクリニックなどでの診療以外にも、実は社会(地域)の中で医師が必要とされる場面は数多くあります。たとえば、学校での健診や乳幼児健診、予防接種、休日・夜間診療所の運営、介護保険の認定審査など――これらは全て「郡市区等医師会(以下、地域医師会)」が担っています。地域医師会は、このような地域での医療事業を継続していくための人材確保に重要な役割を果たしているのです。
小松先生:地域で医療活動を行う医師を取りまとめるのが「地域医師会」、その声を吸い上げ都道府県と共に医療政策を考えるのが「都道府県医師会」です。さらに国(官公庁)に対して働きかけを行い、国レベルでの課題解決を目指すのが「日本医師会」です。医師会は「地域医師会」、「都道府県医師会」、「日本医師会」の三層構造で成り立っており、それぞれが市区町村、都道府県、国との太いパイプを持っています。
磯崎先生:私たちが所属する神奈川県医師会は「都道府県医師会」の1つです。
最近の大きな成果としては、神奈川県医師会が長年行政に働きかけてきた「拡大新生児マススクリーニング検査の公費化」が2024年10月からスタートしたことがあげられます。従来の新生児マススクリーニング検査*の20疾患に加えて、重症複合免疫不全症(SCID)と脊髄性筋萎縮症(SMA)の検査も公費で負担することで、保護者の方の自己負担なく検査が受けられるようになりました。早期発見によって適切な治療が受けられる可能性が広がったことをうれしく思っています。
*新生児マススクリーニング検査:生後間もない赤ちゃんの先天性代謝異常などの病気をみつけるための検査。赤ちゃんのかかとからわずかな血液を採取して行う。検査で陽性となった赤ちゃんは専門医を受診し、必要に応じて治療や生活の指導を受けることで障害の発生を予防することができる。
小松先生:医師会は災害時にも大きな役割を果たしています。大きな地震などの災害が起こると、その直後は基本的に厚生労働省や各都道府県の災害派遣医療チームである「DMAT(Disaster Medical Assistance Team)」が急性期の医療を担います。日本医師会の災害医療チーム「JMAT(Japan Medical Association Team)」はDMATと並行して、あるいはDMATが活動を終了した後、長期間にわたって被災地の医療体制が回復するまでの間、被災者の健康管理を含む医療支援を行って地域医療を支えます。
磯崎先生:2024年1月の能登半島地震の際には、神奈川県医師会からも1隊3~4人の編成で計26隊がJMATに参加し、それぞれ3泊4日程度被災地に滞在して支援活動を行いました。電気や水道などのライフラインが壊滅的な被害を受けた地域もあり、水や食料、宿泊場所などがなくても活動できるように、かなりの重装備で向かった隊もありました。多くの医師やスタッフが参加してくれたのは、「プロとしての矜持」以外のなにものでもありません。
小松先生:緊急時に手を挙げてくれた医師が安心して被災地で活動できるようにバックアップするのも、医師会の大切な役割の1つです。現地の状況を的確に把握し、必要な準備を整えてくれる事務スタッフの力も大きいと感じています。
また、開業医であればこうした活動に参加するためには診療を休まなければならず、経営には少なからず影響が生じます。なんとかやりくりして「困っている人を助けたい」という熱い使命感をもって力を貸してくれる医師がいるのは本当にありがたいですね。私自身、阪神淡路大震災(1995年1月)のときに活躍されていた先輩医師の姿は今でも鮮明に覚えており、こうした災害時の活動を記憶にとどめて次世代に引き継いでいくことも重要だと思っています。
磯崎先生:神奈川県医師会では「命をつなぐ これまでも これからも」というコンセプトを掲げ、県民のみなさんに対して「医療を受ける権利を社会の当たり前のシステムとして持続させ、県民に安心安全な医療を提供する」との大命題のもと、以下の3つの約束をお示ししています。
提供:公益社団法人 神奈川県医師会
小松先生:医師会は、全ての医師が力を発揮できる環境を整えることにより、全ての国民に必要な医療を提供できるように活動していることを広く知っていただきたいと思っています。
「『フロントライン』はずっと神奈川にあった」―映画後援の医師会理事2氏、当時の思いを語る<後編>は6月9日配信予定です。
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