「∞ Infinity ―原点から未来へ―」をテーマに、第70回日本口腔外科学会総会・学術大会が11月14~16日、福岡市の福岡国際会議場と福岡サンパレスで開催されます。口腔外科領域の「原点」である臨床解剖から「未来」を見据えたAI技術など、幅広いテーマを取り上げ、最終日には身近な病気について専門の医師が解説する市民公開講座も行われる予定です。大会長の楠川 仁悟先生(久留米大学医学部歯科口腔医療センター教授)に、テーマに込められた思いや注目のプログラムなどを伺いました。

楠川 仁悟先生
日本口腔外科学会は、毎年の総会・学術大会の開催に併せて、一般向けの市民公開講座を実施しています。今回は、最終日の11月16日に「エキスパートが語る~アゴと口の病気を知ろう!」を開催予定です。多くの市民の皆さんに口の病気について知っていただくことを狙いとしており、どなたでもご参加いただけます。参加費は無料で、事前申込は不要です。口腔外科を専門とする先生方に、次の4つの身近なテーマについてお話しいただきます。
1つ目のテーマは、近年増えている口腔がんです。口内炎と見た目が似ているため発見が遅れやすく、命に関わるような進行した状態で見つかることも少なくない病気です。口腔がんについて多くの方に知ってもらえるよう、川野 真太郎先生(九州大学)にご講演をいただきます。
2つ目は顎変形症です。顎変形症とは、顎の骨の問題により噛み合わせなどが悪くなった状態の総称です。横尾 嘉宣先生(福岡歯科大学)に治療法などを紹介していただきます。
3つ目は、顎の違和感や痛みが特徴的な顎関節症です。よくある病気ですが正しく理解されていない面も多いため、土生 学先生(九州歯科大学)に分かりやすく解説していただきます。
4つ目はインプラントについてです。テレビCMなどでよく耳にしますが、不安や疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。どのような治療なのか、インプラントを専門とする佐々木 匡理先生(九州中央病院)にお話しいただきます。
口からおいしく食べられることが当たり前のように感じていると、「いつか口の病気になったら」と考えることはあまりないかもしれません。この機会にぜひ、アゴと口の病気に関心を持っていただき、口腔外科について知っていただけたらと思います。
本大会は、1956年の第1回から数えて、ちょうど70回目の開催という大きな節目を迎えました。今回のテーマは「∞ Infinity ―原点から未来へ―」です。口腔外科領域は将来に向けて無限の可能性を秘めているという意味で「∞ Infinity」、そして、口腔外科の原点をしっかりと見直すことが大切だという思いを込めました。このテーマに沿ったプログラムを多数企画しています。
「原点」といえば、たとえば口腔外科は外科であることから臨床解剖が基本となります。そこで、臨床解剖の権威であるシェーン・タブス先生(米・テュレーン大学)による海外招聘講演をはじめ、骨のことに関する教育講演や、口腔細菌と腸内細菌の関係についてのシンポジウムなど、基本的かつ重要なテーマを取り上げることにしました。
「未来」に向けては、AIやバーチャルリアリティ技術を応用した口腔外科手術に関する教育講演などを企画しています。そのほか、少子高齢化の進展や女性の活躍推進における課題などを含めて、現在抱えている問題を見直し、将来を見据えてディスカッションできるような場も準備しています。
本大会において特に注目していただきたいプログラムをいくつかご紹介します。
第70回記念講演として、睡眠学者として広く知られる柳沢 正史先生(筑波大学/株式会社S'UIMIN)をお招きし、「睡眠の謎に挑む:原理の追求から社会実装まで」というテーマでご講演いただきます。睡眠は私たちにとって基本的なことでありながら、まだ分からないことも多い分野です。私が在籍する久留米大学は、全国でいち早く睡眠時無呼吸症候群に対する専門外来を開設し、口腔外科も初期からチームに入り関わってきました。口腔外科領域においても睡眠は重要なテーマです。
特別講演では、廣橋 伸之先生(広島大学)に「もし明日、放射線事故・災害が起きたら―歯科医療者として求められる知識と医療体制―」をテーマにご講演いただきます。未来といっても明るいことばかりではありません。備えなければならないこと、知っておかなければならないことについて、学会として取り組んでいきたいという思いから企画しました。
若手の医師を主な対象とした企画では、関連医学のベーシックレクチャーを6つ予定しています。口腔外科は歯科の一分野でありながら医科との関連が多いことから、臨床解剖、放射線治療、漢方薬を用いた治療、皮膚疾患と口腔粘膜疾患の関連、糖尿病との関連、栄養管理といったさまざまなテーマでのレクチャーを準備しています。
さらに、手術をメインとする口腔外科にとって非常に重要なテーマである、医療の安全の確保に関するシンポジウムも組んでいます。
本大会のプログラムで扱うのは、口腔外科の学会とはいえアゴと口だけでない幅広いテーマです。口腔外科の医師にとって興味深い内容であるとともに、関連する医療に携わる方々にも有意義なものが多いかと思います。
また、口腔外科の病気は体のほかの部位と関連していることもよくあるため、歯科だけでなく、複数の診療科がチームとして連携すべき場面が多々あります。本大会が、口腔外科に関わる皆さんがよりよい関係を構築し、連携を進めていくうえでのよい機会になればと期待しています。
ぜひ、多くの方に現地の会場へ足を運んでいただけたらと思います。
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