以前の連載記事で、舌がん・口腔がんの初期症状や口内炎との見分け方などについて解説しました。では「口腔がんかも」と思ったらどこを受診すればいいでしょうか。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、耳鼻咽喉科からの紹介を得て「頭頸部がん専門医による治療」を受けることを勧めています。
頭頸部がん専門医とは、口の中を含む頭部や頸部に存在する臓器(舌、咽頭、喉頭、上顎洞、耳下腺、甲状腺など)にできるがんを治療する専門医です。がんの切除や転移リンパ節の摘出(頸部郭清術<けいぶかくせいじゅつ>)に高い技術を持つとともに、抗がん剤や放射線治療の知識も兼ね備え、がん治療に伴う声や食事の障害の治療にも精通しています。臨床経験と筆記試験、面接により日本頭頸部外科学会から認定され、2024年現在、全国で約500人が活躍しています。
舌がんなどの口腔のがんでは、原則として手術を中心とした治療が行われます。「早期がん」では、患部の切除だけで治療が完了できることもあります。しかし、「早期がん」でも、時に頸部(くび)のリンパ節に転移し、「頸部郭清術」という手術が必要となります。頸部には、脳を養う重要な血管や、食べることや話すことに大切な役割を担っている神経が集まっており、手術にあたっては熟練した技術が求められます。
更に、「進行がん」では病変が咽頭(のど)や副鼻腔など周囲の臓器まで広がっていることがあり、切除にあたっては、口腔に加えて咽頭や喉頭、副鼻腔など隣接した部位の豊富な手術経験が必要となります。また、こうした拡大切除では、機能回復のために大胸筋皮弁や前腕皮弁、腹直筋皮弁、外側大腿皮弁などを使った欠損部の再建が必要となり、術後には、食事や会話のリハビリテーションや義歯の作成が重要な役割を担います。さらに、再発のリスクが高い場合は、再発予防のために、抗がん薬や放射線治療による術後治療が行われます。
以上のように、口腔がんの治療では、頭頸部がん専門医を中心として、耳鼻咽喉科・形成外科・放射線科・腫瘍内科に所属する医師、歯科口腔外科・顎口腔機能再建・予防歯科に所属する歯科医師、言語聴覚士、歯科衛生士、看護師、薬剤師、栄養管理士など多くの医療職種によるチーム医療が必要です。
口腔がんは、頭頸部がん専門医が勤務し、さまざまな診療科や医療職種がそろった病院で治療を受けることをお勧めします。口腔がんや喉頭がん、咽頭がん、唾液腺がん、甲状腺がんなどの治療を専門とする「頭頸部がん専門医」が勤務する施設なら安心です。「口腔がんかも?」と不安に思ったら、決して放置せず、まずは、かかりつけやお近くの耳鼻咽喉科を受診してください。もし、がんの疑いが強い場合は、耳鼻咽喉科の医師が信頼できる頭頸部がん専門医が所属する病院をご紹介いたします。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「舌がん・口腔がん何科を受診すればいいの?」より引用
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