連載生きるを彩る 生きるを支える 診療科

目・耳だけじゃない、味覚にも現れる加齢の影響―予防・治療のカギは?

公開日

2022年08月29日

更新日

2022年08月29日

更新履歴
閉じる

2022年08月29日

掲載しました。
79d5944494

「味覚は加齢の影響を受けない」は思い込み?

甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の基本5味からなる味覚は、それをコントロールできる神経が複数あることで、加齢による影響が生じにくいと考えられており、大規模なアンケート調査でも、加齢による機能低下はあまり自覚されていないという報告があります。

しかし実際には、味覚の異常を訴えて医療機関を受診する人は年々増えていて、味覚障害と診断される患者さんの数は高齢になるほど増える傾向があります。視覚や聴覚ほど顕著ではないとしても、やはり、加齢が味覚機能低下のリスクとなることは間違いありません。

図:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

なお味覚異常は、味を薄く感じたり、全く感じなくなったりする量的味覚異常と、本来とは違う嫌な味がする、口の中がいつも苦い、といった質的味覚異常に分類されます。また、加齢、感冒、頭部外傷などでは味覚だけではなく、嗅覚の機能低下によって風味を感じなくなっているケースもあります。

高齢者が味覚障害になりやすい理由

食べ物の味をキャッチするのは、舌の表面にある味蕾(みらい)の中に多く存在する「味細胞(みさいぼう)」です。この味細胞がうまく再生されなくなったり、働きが悪くなったりすると、味覚障害が起こります。またキャッチした味の情報を処理する脳の機能が弱くなると味覚に歪みがでます。

図:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

味細胞自体が老化したり、傷ついたりすることや、またドライマウスや厚い舌苔などの影響で、味物質が味細胞まで届かなくなることも味覚障害の原因になり得ますが、味細胞の生まれ変わり(再生)には亜鉛が欠かせないため、血液中の亜鉛が不足することが味覚障害の最も大きな原因になることがわかっています。

亜鉛は、健康維持に欠かせない必須ミネラルの一つですが、加齢によって吸収や消化機能が衰えると、せっかく摂取しても体外に排出されてしまい、必要な量が確保できません。特に高齢者は、高血圧や糖尿病などの慢性疾患を患い、降圧薬や血糖降下などの多種類の薬を長期に渡って服用している方が多く、それらの薬も体内の亜鉛欠乏の原因になることがあります。

そもそも日本人の食生活は、亜鉛が不足しがちですが、それに加え加齢による体の変化や薬剤の服用、他の全身疾患などで亜鉛の吸収が阻害、また排泄が促進されやすいことが背景にあると考えられます。

味覚障害の予防と治療のカギは亜鉛

味覚障害によって、食事の楽しみを奪われれば、QOL(生活の質)は著しく低下します。症状がひどくなれば、食べること自体が苦痛になる可能性もあり、それは健康を維持する上でも深刻な事態をもたらしますから、適切な対処やその予防は非常に重要です。

味覚障害の原因の一つは亜鉛不足ですので、普段から亜鉛を多く含む食事を心がけることは、味覚障害の予防や治療に役立ちます。亜鉛は、魚介類のカキやうなぎをはじめ、ごま・海藻・大豆・卵黄・アーモンドなどに多く含まれています。また、牛肉や鶏肉など動物性タンパク質と一緒に食べると、亜鉛がより吸収されやすくなります。一方、果物や野菜に含まれるビタミンCには、摂取した亜鉛の働きを高める効果があります。

厚生労働省が定める1日に必要な亜鉛摂取量は、成人男性では12mg、成人女性では9mgですが、すでにお話ししたように高齢者はうまく吸収することができないので、この量より多く摂取する必要があります。また、薬剤の服用などによって亜鉛の欠乏が顕著な場合は、サプリメントなどによる亜鉛内服療法が勧められます。食事から摂取する場合は心配は要りませんが、サプリメントの場合は過剰摂取に注意が必要です。他の薬剤の服用の状況によって必要量も変わってくるので、医師の指導を仰ぐことが重要です。

その他、貧血や末梢神経障害、消化器疾患、甲状腺疾患、腎疾患(特に透析)、脳疾患、精神疾患、膠原病、内分泌疾患などの全身疾患が原因で味覚障害が起こ っている場合もあり、味覚障害の診断には全身の医学的知識が必要です。味覚がおかしいと感じた時、あるいは味のついたおかずにたくさんのしょうゆをかけて食べるなど嗜好の異常が見られる高齢の家族がいる場合には、味覚障害の診療医であり、全身の医学的知識も有する耳鼻咽喉科医に相談しましょう。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「健康寿命への挑戦」より引用
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

生きるを彩る 生きるを支える 診療科の連載一覧