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「酒は百薬の長」の意外な落とし穴とは?

公開日

2021年06月30日

更新日

2021年06月30日

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2021年06月30日

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日本には昔から「酒は百薬の長」ということわざがあり、お酒は適量なら健康にいいものと信じられてきました。しかし近年では、少量の飲酒でも「頭頸部(とうけいぶ)がん」のリスクを高めるという衝撃的な報告がなされています。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会HPより引用

 

「頭頸部」といっても多くの人にとっては聞きなれない言葉で、わかりにくいでしょう。簡単にいえば、顔面から頸部までの部分のことです。また、「頭頸部がん」とは、鼻、口、のどなど顔から首の範囲(頭頸部)に発生した悪性腫瘍をいいます。

お酒を大量に飲む人の口腔・咽頭がんのリスクは、飲まない人の5倍!

2017年、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2017年、アルコールは口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)がん、喉頭がん、食道がんなど複数のがんと因果関係があると声明を出しました。がんの最も大きな要因は、大量、長期間の飲酒ですが、収集したエビデンスから、適度な飲酒でも発がんリスクが上昇する可能性があると結論づけています。また、アルコールの種類(ビール、ワイン、スピリッツ・蒸留酒)にかかわらず、飲酒は一貫して危険因子になるとしています。

では、飲酒によってどの程度リスクが上がるのでしょうか? 同声明によると、まったく飲酒しない人を1とした場合、大量飲酒者の喉頭がんの発生リスクは2.65倍。口腔・咽頭がんに至っては、発生リスクがなんと5.13倍という結果が出たのです。(表)

日本人の40%はアルコールの分解スピードが遅い!

そもそも、飲酒がなぜがんの原因になるのでしょうか? アルコールが体内で分解される流れから説明しましょう。アルコールは体内に入ると、二日酔いの原因となる「アセトアルデヒド」という物質に代謝されますが、アルコールそのものに加え、このアセトアルデヒドにも発がん性があると考えられています。

アセトアルデヒドは肝臓の酵素などによって「酢酸」に分解され、最終的に炭酸ガスや水になって体外に排出されます。日本人の約40%はこの分解スピードが遅く、少量の飲酒でも顔が赤くなったり吐き気がしたりする“お酒に弱い”体質なのです。アセトアルデヒドの分解酵素の働きが弱いと、アセトアルデヒドがなかなか分解されず、発がん物質であるアセトアルデヒドが口腔、咽喉頭、食道に長時間滞留して発がんのリスクが高まる、というわけです。口腔・咽頭、喉頭、食道のがんは一1人に複数発生する傾向があり、お酒を飲むと多発がんリスクがさらに高まるといわれています。

お酒を飲んでも、1日にビール小瓶1本以下を目安に!

頭頸部のがん予防という観点からすると、お酒は極力控えたほうがよさそうです。そうはいっても完全な禁酒は厳しいという人は、少量に抑えたほうがいいでしょう。目安としては、アメリカがん学会、アメリカ保健福祉省では、男性なら1日に1~2ドリンク*以下、女性は1日に1ドリンク以下を推奨しています。

長年、飲酒の習慣があり、不安を感じた方はお近くの耳鼻咽喉科専門医にご相談ください。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は7月を頭頸部外科月間として頭頸部がんに関する啓発を重点的に行っています。頭頸部がんについて興味を持たれた方は頭頸部外科情報サイトへ。

*1ドリンク=約14gの純アルコール、ビール小瓶1本に相当します

 

参考文献

  • Alcohol and Cancer: A Statement of the American Society of Clinical
  • Oncology. J Clin Oncol. 2017 Nov 7. [Epub ahead of print]

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