連載生きるを彩る 生きるを支える 診療科

進歩する伝音難聴の治療―聞こえを良くするための「難聴改善手術」とは?

公開日

2024年02月27日

更新日

2024年02月27日

更新履歴
閉じる

2024年02月27日

掲載しました。
513bc747b1

鼓膜で捉えられた空気の振動は、中耳にある3種類の耳小骨の働きで増幅され、その刺激が内耳で電気信号に変えられて脳に伝わると、音として認識されます。ところが、空気の振動を捉える鼓膜や、振動を増幅する中耳の耳小骨に障害が起きると、十分な振動の刺激が内耳に伝わりません。それによって聞こえに問題が起こるのが、伝音難聴です。

【図解】聞こえのしくみ

外耳炎や急性中耳炎による一時的な症状の場合は、薬の服用などで外耳炎や急性中耳炎が治癒すれば、多くの場合聞こえも改善します。ただ、鼓膜に開いた穴(穿孔)が塞がらなかったり、音を伝える耳小骨が壊れていたりすることで難聴をきたしている場合には、外科的な手術が必要になることがあります。

鼓膜や耳小骨の機能を回復させる「鼓室形成術」

慢性中耳炎や外傷などで鼓膜に開いた穿孔を塞ぐ手術が「鼓膜形成術」です。患者さん本人の皮膚の下の組織を組織接着剤(生体のり)で接着させて穴を閉鎖する手術で、多くの場合局所麻酔により行われます。
鼓室の骨を溶かしながら進行する真珠腫性中耳炎の場合は、鼓膜形成だけでは不十分なことが多いので、「鼓室形成術」を合わせて行う必要があります。


「鼓室形成術」は、鼓室にある病変組織を全て取り除いた上で、患者さん本人の軟骨や人工の骨などを使い、破壊された耳小骨の機能を再建する手術です。耳小骨の伝音連鎖(鼓膜でとらえた音の振動が、3つの耳小骨の振動連鎖により内耳の蝸牛に伝わること)が回復することで、聴力の大きな回復が期待できます。鼓室形成術は全身麻酔下で行われることが多く、入院が必要となるケースが多いです。

耳硬化症は「アブミ骨手術」で劇的に回復

3種類ある耳小骨のうち、一番奥にあるアブミ骨が固まって動かなくなることで起こる難聴は耳硬化症とよばれます。原因はよくわかっていませんが、多くは中年以降に発症し、ゆっくりと両耳の難聴が進行していきます。これを改善するのが「アブミ骨手術」です。

アブミ骨の位置(図:PIXTA)

「アブミ骨手術」では、硬くなったアブミ骨の一部を、テフロンなどを原料とする人工耳小骨に取り換えます。アブミ骨の動きが良くなれば、鼓膜でとらえた振動がスムーズに内耳に伝達されるようになるため、劇的な聴力の回復が期待できます。アブミ骨手術も全身麻酔で行われるのが一般的ですが、局所麻酔で行っている施設もあります。

近年、伝音難聴の治療法は確実に進歩しており、鼓膜形成、鼓室形成術、アブミ骨手術により、聴力の改善が期待できるようになりました。一方で加齢性難聴などの感音難聴の場合、治療は困難だと言われていますが、重い難聴の方は人工内耳手術を行うことで聞き取りが改善する可能性もあります。難聴の原因は多岐に渡り、そのすべてに手術が有効というわけではありませんが、専門医とよく相談し、自分にとっての最善の治療法に前向きに取り組みながら「聞こえ」と「生活の質」の向上を目指しましょう。

【参考文献】:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.05、2013年2月1日発行、三井記念病院 広報部)(寄稿者 三井記念病院 特任顧問 奥野妙子)
【参考文献】:新潟大学大学院医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野WEBサイト

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「Hear well, Enjoy life!―快聴で人生を楽しく」より引用

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

生きるを彩る 生きるを支える 診療科の連載一覧