口の中にできるがんを総称して口腔がんといいます。舌にできる舌がんは代表的な口腔がんで、口腔がんの半数以上を占めています。この他、歯ぐきにできる歯肉(しにく)がん、下あごの歯ぐきと舌に囲まれた部分(口腔底<こうくうてい>)にできる口腔底がん、上あごにできる硬口蓋(こうこうがい)がん、頬粘膜(きょうねんまく)がんなど、口腔がんはさまざまな種類があります(表1)。
口腔がんに罹患する人の数は、年間8000人ほど(2016年)で、がん全体の約1%ですが、日本国内のみならず、世界的に見ても、罹患(りかん)率、死亡率とも上昇傾向にあります。また女性より男性に多い(男性:女性=3:2)という特徴もあります。
舌がんも含め、初期の口腔がんでは、痛みのようなはっきりとした症状はあまり見られません。舌や口の中の粘膜の変化(色が白く変化したり、赤みが強くなる、ただれる、ザラザラしたり、しこりを感じるなど)が表れることもあるのですが、これらは口腔がんだけに特徴的な症状ではないため、がんかどうかを見極めるのは非常に困難です。ただの口内炎だと思って放置していたら、実はがんだった、という患者さんも決して珍しくありません。また、歯肉がんでは、歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきなどをきたす場合がありますが、その症状も歯周病とまぎらわしいため、診断が遅れてしまうこともあります。
見た目に明らかな変化があらわれたり、痛みが出たり、舌の動きが悪くなったりしている場合、また顎の下のリンパ腺が腫れ、硬いしこりを触れる場合は、がんがすでに進行している危険性も。そのような明らかな症状がある場合はもちろん、たとえ症状が軽くても口の中の異常がなかなか良くならない場合、あるいはどんどん悪化する場合には、ためらわず、耳鼻咽喉科の専門医を受診することが大切です。
舌や口の中の粘膜がただれたりすると、多くの人は「口内炎ができた」と考えるでしょう。もちろん実際に口内炎であるケースのほうが圧倒的に多いのですが、それが口腔がんの初期症状である可能性もあるので、注意が必要です。とはいえ実際のところ、それが口内炎か口腔がんかを見た目だけで判断するのは非常に難しいのです。
唯一言えることは、なかなか治らない口内炎は口腔がんの可能性がある、ということです。2週間以上治らない口内炎や口の中の異常がある場合には、必ず耳鼻咽喉科の専門医を受診してください。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「舌がん・口腔がん何科を受診すればいいの?」より引用
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