日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、7月を「頭頸部外科月間」として頭頸部がんの予防や早期発見を目指し、市民公開講座の開講など啓発活動を行っています。取り組みの一環として、特設サイト上で「見て得する動画」も公開。頭頸部がんの中で耳下腺、鼻腔・副鼻腔、口腔、甲状腺の4つのがんの症状や治療法について、医師による詳しい解説を視聴することができます。どのような症状が現れたら受診すべきか、医師からのメッセージも。動画から内容の一部を紹介します。
耳下腺とは、耳の前から下にある唾液を作り出す臓器で、顔面神経が中を通っています。この耳下腺に発生したできものを耳下腺腫瘍と呼びます。一般的に良性腫瘍が多く、良性対悪性は10対1といわれています。
良性腫瘍では、腫瘤(しゅりゅう:こぶ)以外の症状が出ることは少ないです。一方、悪性腫瘍(耳下腺がん)では、痛み、癒着(周辺の組織にがんが浸潤し腫瘍の動きが悪くなること)、顔面神経麻痺などの症状が現れることがあります。痛みは悪性腫瘍の54%、顔面神経麻痺は18%に認められます。
耳下腺がんには悪性度が高いものから低いものまであり、高悪性では、上述のような症状が現れる頻度が高いことが分かっています。治療は基本的に手術が第一選択です。切除範囲は、腫瘍の大きさや悪性度によって決定しますが、顔面神経を温存するか、あるいはできるかが大きなポイントになります。進行がんや高悪性のがんでは術後に放射線治療を行うことがあります。抗がん剤を用いる化学療法は、現状では有効でない場合が多いとされています。
耳の前や下の辺りに腫瘤が増えた場合、耳下腺腫瘍を疑います。特に痛みを伴う、あるいは徐々に大きくなる場合は悪性腫瘍の可能性があり注意が必要です。早期発見・早期治療がもっとも大切なので、これらの症状がある方は耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
鼻の内部の空間を鼻腔といいます。鼻腔の周囲には副鼻腔と呼ばれる空間が左右に4つずつ、ほぼ左右対称にあります。この鼻腔や副鼻腔に発生する悪性腫瘍を鼻腔・副鼻腔がんと呼びます。
鼻腔・副鼻腔がんは、たばこを吸う方に多い傾向があります。症状には、鼻詰まり、鼻血、頬のしびれ感、流涙などがあり、片側だけに数週間継続的に現れる場合には注意が必要です。進行すると、眼球突出、歯のぐらつき、口蓋(こうがい:口内の天井部分)や頬の腫れ、口が開けづらいなどの症状が現れます。痛みが出ることが少ない点が、受診が遅れる理由の1つです。
治療には、抗がん剤を併用した放射線治療と手術があります。高濃度の抗がん剤を投与しながら放射線治療を行うことで、がんを縮小・消失させることができます。
鼻腔の中に腫瘍が充満し、さらに脳の下の頭蓋底にまでがんが浸潤することも少なくありません。このような症例に対しては、顔面を切開したり開頭して脳を持ち上げたりする手術を行うことで腫瘍を切除してきました。しかし最近は、鼻の穴から内視鏡を挿入して腫瘍を分割切除することで、浸潤している頭蓋底も一緒に切除することができるようになりました。
鼻詰まり、鼻血、頬のしびれ感、流涙などが片側だけ、かつ数週間続く場合には痛みがなくても注意が必要です。これらの症状がある場合には耳鼻咽喉科・頭頸部外科にご相談ください。
舌がんを含む口の中にできる口腔がんは、頭頸部がんの中でもっとも発症頻度が高く近年増加傾向にあります。口腔がんの約半分は進行がんの状態で発見されることが分かっており、2019年の国内の口腔がんの3990例のうち49%の患者さんがステージ3あるいは4で発見されています。
治療は手術が第一選択です。場合によっては、初期のステージを中心に放射線治療が行われることもあります。治療に伴い機能障害が現れることがあり、特に手術によって話すことや食べること、味覚、見た目などに変化が起こる場合があります。中には、機能を温存するために手術を希望しない患者さんもいます。
こうした治療後の障害を少しでも軽くするため、新しい治療法も開発されています。具体的には、切除部分に体のほかの組織を移植する再建手術、副作用を軽減できるIMRT(強度変調放射線治療:腫瘍の形や状態に応じて照射を行う方法)や粒子線治療(粒子を加速させて腫瘍にピンポイントに照射を行う放射線治療)などの放射線治療、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを用いた薬物療法が登場しています。さらに、飲み込み、発声、頸部(首)の運動などのリハビリテーションも開発されています。
口腔がんの治療では、主治医のみならず、患者中心の多職種チーム医療を実施することが重要です。治療方針は、キャンサーボードと呼ばれる治療方針を検討する会議で耳鼻咽喉科・頭頸部外科医、口腔外科医、放射線治療医、腫瘍内科医などが連携しながら決定します。
甲状腺は、頸部中央の下のほうに存在し、代謝を調節するホルモンを分泌する臓器です。甲状腺に腫瘍が発生した場合には基本的に手術を行います。なかでも、最近は内視鏡を用いた手術(内視鏡下甲状腺手術)が行われるようになりました。以前は頸部を切開(外切開)して腫瘍を摘出していたために大きな傷が残りましたが、内視鏡を用いることによって頸部を傷つけずに治療することが可能となったのです。
全ての症例ではありませんが、内視鏡下甲状腺手術では目立たない小さな傷で手術を終えることができます。現在国内で多く行われているのは、鎖骨の下辺りから内視鏡や手術器具を挿入する方法です。
内視鏡下甲状腺手術は、外切開による手術と比べて入院期間が少し短くなりますが、手術時間は長くなります。見た目への影響が少なく、整容面に関しては外切開よりも優れています。安全性は外切開による手術と同程度という報告があります。
どの程度進行したものまで内視鏡下甲状腺手術を行うかは、医療機関によって多少異なります。たとえば金沢医科大学病院では、TMN分類(がんの進行度による分類)のT2までとしています。これは腫瘍の大きさが4cm以下で、画像上で腫瘍が周りの組織を巻き込んでいない状態のものです。さらにリンパ節転移がなく、あったとしても気管周辺でとどまっているものとしています。甲状腺手術を行う場合には、内視鏡下甲状腺手術の適応があるか一度医療機関へご相談ください。
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