HPVとはヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus)の略称で、日本語ではヒト乳頭腫ウイルスといいます。「子宮頸がん」の原因となるウイルスとしてよく知られていますが、実は私たちの身の回りのどこにでもいて、人の皮膚や粘膜に感染する、ごくありふれたウイルスです。
主に性交渉によって感染することから、性交渉経験がある人ならば女性の80%以上、男性の90%以上が生涯で一度は感染すると考えられています。
HPVには、200種類以上の型(タイプ)があり、その中には悪性化(がん化)する可能性の高い「高リスクHPV」もあれば、良性の腫瘍になる「低リスクHPV」もあります。
たとえ「高リスクHPV」に感染しても、多くの場合は自己の免疫力で数年以内に自然に排除されますが、10人に1人程度の割合で、自然に排除されずHPVに感染した状態が続いてしまいます。そして、その状態が長く続くと、がんを発症するという報告もあります。
また、高リスクHPVの中でも、とくにがんでの検出頻度が高い型(16型と18型)があることもわかってきました。
HPVは子宮がんだけでなく、中咽頭がん、口腔がんなどの原因にもなります。
中でも中咽頭がんは、かつては過度の飲酒や喫煙が主な原因とされていましたが、現在では、日本における中咽頭がんの約半数、米国においては約7割がHPV関連がんであることがわかっており、HPV関連がんの多くがp16タンパクが陽性のため、中咽頭がんは、p16陽性なのか、p16陰性なのか調べるようになりました。
下記のグラフのように中咽頭がん患者の中でp16陽性の割合が年々増加しております。
過度の飲酒や喫煙が原因の中咽頭がんは中高年の男性に多くみられますが、HPV関連の中咽頭がんは、若い人や女性でも増加傾向にあります。もはやHPV関連中咽頭がんは、誰にとっても他人事ではない病気のひとつといえるでしょう。最近では日本人の実に約5%が、咽頭(のど)からHPVが検出されたとの報告もあります。※1
※1:Oral Oncol.2020 Jun;105:104669.
HPV関連中咽頭がんは、抗ガン剤や放射線が効きやすく、早期であれば飲み込む力(嚥下<えんげ>)や発声といった機能を温存して行う低侵襲手術を行うのが一般的です。のどの違和感・痛み、飲み込みにくさ、首のしこりなどが2週間以上続くようであれば、すみやかに耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診しましょう。
※HPVに対して、ワクチンの予防効果も確認されており、詳しくは以下のサイトをご覧ください。
厚生労働省
ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
日本産科婦人科学会
子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
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7月は「頭頸部外科月間」。頭頸部には主要な感覚器が密集し、生活の質(QOL)を支える重要な体の部分です。頭頸部の病気について正しい知識を持つことで、生活の豊かさを保つことができます。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、特設サイトを設置してHPVが原因の中咽頭がんを含めたさまざまな頭頸部の病気について解説します。
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