ステージ4の下咽頭(かいんとう)がんに罹患(りかん)し、放射線と抗がん薬による治療を受けて仕事に復帰したタレントの見栄晴さん(58)が自身の“がん体験”を語る動画を、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が公開した。7月31日までの頭頸部外科月間に合わせ、同学会広報委員の西尾直樹先生(名古屋大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学 准教授)と、がんが見つかったきっかけ、治療の経過、現在の心境などについて、時にユーモアを交えながら話し合った。
見栄晴さんは2024年1月に「下咽頭がん」と診断されたと公表した。お酒が好きで、20歳以降は休日は昼から飲むことがあり、ゴルフ場では「朝着いたら飲み、昼食時に飲み、ラウンド後にまた飲む」といった生活を繰り返し、紙巻きたばこも吸っていた、と見栄晴さんは“がん以前”の生活習慣を告白した。
あるとき、のどが詰まったような、魚の小骨が奥に引っかかったような違和感を覚えるようになったという。市販ののどスプレーを使うなどしてごまかしながら2年ほどたった2023年末、首の腫れと痛みを感じるようになり、年が明けた2024年1月に地元の耳鼻科クリニックを受診した。
経鼻内視鏡で画像を見ていた医師が「『雲行きが怪しい』ってこういう顔なんだ」という表情になり、紹介状を書くので大きい病院を受診するよう告げたという。クリニックを出ようとしていたとき、走ってきた看護師さんに「多分がんだと思います。進行していると思うので、病院に電話をしたら『がんかもしれないのですぐに予約を取ってください』とおっしゃってください」と言われた。
「今考えると、その看護師さんは命の恩人だと思います」と見栄晴さんは振り返る。
見栄晴さんが受診しようと思ったのは、首の腫れがきっかけだったという。
「それ以前にものどの違和感はありましたが、首が腫れたことで『これは普通ではない』という危機感を持ちました」
これについて西尾先生は、下咽頭がんでは首のリンパ節に転移することが多いが、転移したリンパ節が小さいうちは症状があまりなく、腫れが大きくなるなどして受診するケースが多い、と解説した。
見栄晴さんはクリニックを受診したその日に病院に連絡して看護師に言われたとおり話したところ、翌日の受診が予約できた。
現在も診療を受けている主治医は、初見で「多分がんだと思いますが、病理検査をしなければ確定できません」と言いつつ、がんであることを前提に話を進めたという。
「自分は“昭和の人間”なので、ドラマで見るような告知しか知らなかったのですが、今は構える間もなく『がんだと思います』と言ってしまうのですね」と見栄晴さんはその時の驚きを語る。
治療方法として、「手術」「抗がん薬と放射線治療」の2つを提示され、それぞれの5年生存率やメリット・デメリットについて説明を受けた。手術のデメリットとして、声帯も切除するため声を失うことになると聞いた。その際、若い主治医は見栄晴さんのことを知らず、「がんと言われたことよりもショックを受けた」と見栄晴さんは苦笑いした。
「40年以上、タレントとしてしゃべることをなりわいにしてきたので、自分にとって声を失うことは仕事を失うことです。家族のことを思っても仕事を辞めることはできないと思い、『手術はなしにしてください』とお願いしました」。そう語る見栄晴さんは、初回の診療で抗がん薬と放射線による治療を選択したという。
1週間後の二度目の診療で正式にがんを告げられ、その日のうちに放射線科の医師から治療について詳しい説明を受けた。その際、放射線科の担当医から「放射線科と耳鼻科がチームとして1つになって頑張りますから、藤本さん(見栄晴さんの本名)も頑張ってください」と声をかけられ、背中をたたいて励まされた気がした、と振り返った。
抗がん薬の治療では、吐き気どめの点滴などのおかげで吐き気などのつらさはなかったものの、腎臓へのダメージを和らげるため1日2L以上の水分を排泄するよう指示され、それが大変だったという。
治療を終えて2024年4月から仕事に復帰した見栄晴さんは、現在の心境について次のように語る。
「いい先生に巡り会うことができ、先生方や看護師さんを含む病院の皆さんが大きなチームとして治療してくださった。治療してよかったし、この先も頑張って生きなければと思います」
これを受けて西尾先生は「(下咽頭がんを含む頭頸部がんは)あまり世間に知られているがんではないので、このような形で知ってもらうことは大事です。首の腫れやのどの違和感などがあるとき、早めに耳鼻咽喉科にかかっていただければ早く見つけることができ、治療も楽になることが多いということも知っていただきたいです」とまとめた。
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