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より高い治療ゴールを目指す関節リウマチの診療・研究――第7回連携ウェビナー開催

公開日

2025年11月20日

更新日

2025年11月20日

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2025年11月20日

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一般社団法人日本リウマチ学会(以下、日本リウマチ学会)と株式会社メディカルノートによる第7回連携ウェビナーが2025年8月28日に開催されました。第一部では、医療法人社団博恵会 理事長の桃原茂樹先生から運動器機能を守る関節リウマチ診療について、第二部では、三重大学医学部附属病院 リウマチ・膠原病(こうげんびょう)センター 教授の中島亜矢子先生から関節リウマチにおけるコホート研究の重要性についてお話がありました。日本リウマチ学会で理事を務めるお二人による当日の講演内容をダイジェストでお届けします。

第一部――運動器機能を守る関節リウマチ診療

桃原先生:関節リウマチは、以前は治療の選択肢が限られる病気でした。しかし近年、抗リウマチ薬のメトトレキサートや、生物学的製剤、JAK阻害薬が登場したことで、早期診断・早期治療により症状をコントロールすることが期待できるようになりました。最近では、職業やライフスタイル、生活習慣などの環境因子を回避することで、発症や重症化の予防につながる可能性も示唆されています。

一方、難治性の関節リウマチに対する治療は大きな課題となっています。1つの要因として、関節リウマチはほかの病気を合併しやすく、その合併症が治療を難しくすることがあります。特に多くみられるのは骨粗鬆症と骨折の問題です。関節リウマチの患者さんで骨折が増加しているとの報告が国内外から挙がってきており、動向を注視する必要があると考えています。

最近では高齢の患者さんの増加もあって、フレイル*の問題も注目されています。フレイルが進むと重篤な感染症などのリスクが高まることから、診療において予防・改善するための取り組みが求められるでしょう。薬物療法に加え、適度な運動、装具療法、生活習慣や食事の指導を組み合わせたり、適切なタイミングで手術の実施を検討したりすることが重要です。

*フレイル:加齢とともに運動機能や認知機能などの低下がみられ、健康な状態と介護が必要な状態の中間の状態。

患者さんが求める治療のゴールがより高く

薬物療法の進歩に伴って重度の関節変形に至る患者さんは減っており、手術による治療が必要となるケースも大幅に減少しています。一方で、以前は大きな関節の手術や疾患活動性(炎症の度合い)の高い患者さんへの手術がメインでしたが、近年は疾患活動性の低い患者さんや寛解の状態(症状がほぼ治まっている状態)にある方にも手術を行っています。患者さんが目指す治療のゴールがより高くなってきており、運動器機能の回復とともに整容面(外見)の改善も求められていると感じます。

また、患者さんと医師が互いに情報共有しながら話し合い、合意したうえで治療を行う共同意思決定(Shared decision making:SDM)も重視されるようになってきています。私たちが実施した調査では、症状を抑えるという治療の目的については両者の意思が合致しているものの、患者さんは「治療のゴールについて話したいのにその機会が少ない」と感じていることが分かりました。私たち医師は、こうした患者さんの思いを念頭に置いて診療に臨む必要があると考えます。

このように、関節リウマチに対する薬物療法は進歩しましたが、いまだ満たされないさまざまな医療ニーズが残されています。長期的な治療戦略を立てるとともに、薬物療法を補うように非薬物療法を組み合わせることによって、さらに質の高い医療を提供できるのではないかと考えています。

第二部――コホート研究の重要性

中島先生:関節リウマチの病態解明が進むにつれ、新薬が数多く開発されるようになりました。それに伴って診療ガイドラインが整備され、診療の標準化に寄与しています。こうした診療体系の礎となっているのが、新薬開発時のランダム化比較試験*や、コホート研究**などで得られたエビデンスです。ランダム化比較試験とコホート研究は補完関係にあり、どちらも大事な研究ですが、関節リウマチ診療においては特にコホート研究が必要不可欠です。

新薬の治験で行われるランダム化比較試験は、実施期間が限られ、長期評価は不明です。また対象となるのは疾患活動性が高く安全性も高いごく一部の患者さんで、国際共同治験も多く、その結果が日本の関節リウマチ患者さん全体に当てはまるとは言い切れません。そこで、個々の患者さんの状況を反映し、長期的な治療の経過などを評価する、コホート研究を日本で行うことが重要になってきます。関節リウマチのコホート研究は2000年以降IORRA研究を皮切りに盛んに行われるようになり、国内のエビデンス創出において非常に大きな役割を担ってきました。

*ランダム化比較試験:介入研究(臨床試験)の手法の1つで、対象となる薬を投与するグループと、その薬を投与しない治療を行うグループに患者を無作為に分け、治療効果の違いなどを検証する試験。

**コホート研究:観察研究の手法の1つで、特定の要因に曝露された集団とそうでない集団を追跡し、病気の発生状況などを比較検討する研究。

薬の適切な使用に関わるエビデンスを明示

日本で行われた重要なコホート研究を1つ紹介します。ある関節リウマチ治療薬は、先だって使用されていた他国で結核の大幅な増加を引き起こしており、日本でも同じ状況に陥る懸念がありました。そのため、5,000例の市販後全例調査が日本で実施され、安全性や有効性が検証されることになりました。最初の1,000例のデータをもとに、日本リウマチ学会が結核スクリーニング検査と予防薬の投与をさらに強く進めたところ、予防投与例が増加し結核発症例が減少しました。結果的に、コホート研究によって「結核の既往がある方も予防投与を受ければ安全にこの薬を使える可能性がある」という確実なエビデンスを示せたのです。

このほかにもコホート研究では、薬の用量増量を申請する際の根拠となる研究など、より適切な医療に資する確実なデータが提供されてきました。

時代とともにレジストリ(医療情報収集用のデータベース)が充実し、またコホート研究の解析方法や研究手法が進歩してきて、さまざまな事象を具体的な数値や経時的変化をもって明らかにできるようになっています。今後さらにコホート研究が発展し、多様な側面から患者さんを支える成果を上げることが望まれます。

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