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能登半島地震の現場から、泌尿器科医が訴える「トイレ備蓄」の重要性

公開日

2026年06月05日

更新日

2026年06月05日

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2026年06月05日

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一般社団法人 日本泌尿器科学会と株式会社メディカルノートによる第2回連携ウェビナーが2026年2月20日に開催されました。今回は、加藤 佑樹先生(福井県済生会病院 泌尿器科 医長、前 市立輪島病院 泌尿器科 医長)より、能登半島地震における超急性期の現場報告、そして医療の視点からみた“トイレ備蓄”の重要性についてお話がありました。当日の講演内容をダイジェストでお伝えします。

2024年元日、私が経験した能登半島地震

2024年1月1日16時10分、私は当時勤務していた市立輪島病院(石川県輪島市)で被災しました。すぐに机の下に隠れたのですが、すさまじい揺れで目の前を電子カルテやパソコンのディスプレイがボールのように飛び交いました。1分ほどに及んだ揺れに耐えると、部屋にはありとあらゆるものが散乱し、足の踏み場もないような状態になっていました。電気は自家発電に切り替わり供給が継続されていましたが、病棟の天井はひどく水漏れしていました。院内から火災は発生しなかったこと、そして入院中の患者さんにけががなかったことは不幸中の幸いでした。

孤立した総合病院、医師はわずか7名

石川県輪島市は能登半島の先端にある周囲を海と山に囲まれた街です。県庁所在地である金沢市からは112.9km離れています。人口2万3,575人のうち1万1,213人、約48%が65歳以上の高齢者という典型的な地方都市です(2023年4月時点)。輪島市から郊外に出るには、海岸沿いの国道と山間部を通る県道2本のルートしかありません。市立輪島病院は市内唯一の総合病院ですが、最寄りの災害拠点病院である公立能登総合病院(石川県七尾市)までは58km、救急車で50分かかる距離にあります。

地震後すぐに院長に連絡を取り、県庁にDMAT(Disaster Medical Assistance Team、災害派遣医療チーム)の派遣要請を依頼しましたが、病院に集まれた医師は私を含めわずか7名でした。急いで病棟をある程度片付け、これから来るであろう患者さん対応の準備にあたりました。

DMAT到着までの48時間

医師7名のうち、外科系は泌尿器科の私と整形外科の先生の2名のみ。敷地内の薬局でトリアージ*を行い、外科系医師2名と小児科の先生1名の計3名で「黄色」と「緑」の患者さんを、内科系と産婦人科の先生4名は「赤」と「黒」を担当するという役割分担です。

自家発電では空調は使えず雪混じりの雨が降る極寒のなか、次々と運ばれてくる患者さんの処置を必死で続けました。多くは重いけがと火傷を負っていました。倒れてきた家具やガラス片による切創、指が押しつぶされた挫創、開放骨折、ストーブの上にのせていたやかんのお湯が飛んできた重症熱傷、瓦礫の下敷きになったことによるクラッシュ症候群……。すぐに搬送が必要な方もなかなか叶わず、縫合と止血をするだけで精いっぱいの状況でした。市外からのルートは地震で断裂していて、DMATも容易には到着できません。夜間は3時間交代で仮眠をとりつつ対応を続け、発災から48時間後、1月3日16時になってDMATが到着してくれました。

*トリアージ:災害時などに、限られた医療スタッフや医薬品などを最大限に活用して、より多くの人を助けるために、けがや病気の緊急度や重症度に応じて治療の優先度を決めること。タグは、「赤」:重症、「黄色」:中等症、「緑」:軽症、「黒」:呼吸をしていない、死亡。

トイレが使えなかった5日間

地震直後、市から飲料水や食料が届き、これらには困りませんでした。しかし、非常用トイレがなかったのです。断水しているので当然水洗トイレは流せませんが、「流れない」と分かっていても排泄を止めることはできません。1人が使うと次々に排泄が重ねて行われ、病院中のトイレがまたたく間にひどく汚染されていきました。

実は東日本大震災の教訓をもとに、内閣府が作成した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」というものがあります。これによれば、地震後3日以内にトイレの環境が整った自治体はわずか34%、ほとんどは4日以上を要していました。実際、輪島市にトイレ(トイレカーなど)が到着したのは1月6日でした。発災から5日間もトイレが使えない状況が続いたのです。この間、男性職員は病院近くの川で、女性職員はおむつを使って対応せざるを得ないという、非常に過酷な状況でした。

汚いトイレが引き起こす健康被害

トイレが不衛生だと深刻な健康被害をもたらします。日本からの報告によれば、水道水やトイレ衛生水準が回復した避難所ではそうでない場所と比較して、下痢などの消化器疾患の罹患率が有意に低かったことが明らかになっています。

実際に地震後数日が経つと、胃腸炎や膀胱炎、尿が出なくなる尿閉の患者さんが増えてきました。避難所のトイレが汚くて満足に行けないため、水分摂取を控えて脱水状態になり膀胱炎を発症する、服用していた薬を家から持ち出せなかった前立腺肥大症の患者さんが尿閉をきたすなどのケースです。非常用トイレの備蓄は、食料などよりも大切かもしれないと痛感しました。

命を守る非常用トイレの備蓄

トイレは単なる「衛生」ではなく「医療」としての備えが必要です。数と運用次第では、震災関連死などの健康被害を減少させることができます。

「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」によれば、発災直後は避難者50人当たり便器1つ、その後避難が長期化する場合はできるだけ早く20人当たり1つに増やすことが目標として定められています。待ち時間と健康被害を減らすためには、女性用と男性用の比率を3対1とすることが重要です。また、清掃担当と清掃の頻度を定め、手洗い用の水と消毒液を確保し、転倒などを防ぐために夜間の導線と照明を設置することが求められます。

平時からBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)にトイレ備蓄を組み込み、排泄という人間の尊厳に関わる問題への対策を「医療の備え」として位置づけることが、多くの命を救うことにつながると考えます。

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