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臨床研究リテラシー、留学における意思決定のアドバイスについて講演――リウマチ学会第11回連携ウェビナー

公開日

2026年05月11日

更新日

2026年05月11日

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2026年05月11日

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一般社団法人日本リウマチ学会と株式会社メディカルノートによる第11回の連携ウェビナーが2026年3月30日に開催されました。今回は高知大学臨床疫学講座(寄附講座) 特任教授の佐田 憲映(さだ けんえい)先生による「臨床研究を活かすリウマチ学」、産業医科大学医学部 第1内科学講座 准教授の久保 智史(くぼ さとし)先生による「結局、留学したほうが良いのか…リウマチ学編」の2つの講演がありました。それぞれの内容をダイジェストでお送りします。

リウマチ膠原病領域における臨床研究リテラシーの必要性

佐田先生:

リウマチ膠原病は非常に多様な症状がみられるため、診療の中で想定外の経験をする医師も多いのではないでしょうか。診療で感じた違和感を言語化して問いを立て、適切なデザインで確かめて解決し、最終的に診療へ還元する――。この循環を回すための共通言語が「臨床研究リテラシー」です。本日は、診療における臨床研究リテラシーの必要性についてお話しします。

感染症や悪性腫瘍の診断では、病原体やがん細胞といった明確な“確定アンカー”が存在します。一方で、リウマチ膠原病の領域では、臓器横断的な所見や複数の検査結果から、確率論的に診断しなければならないケースが多々あります。このような不確実かつ複雑な環境下では、経験のみに頼った診療には限界が生じます。そこで必要となるのが「臨床研究リテラシー」です。臨床研究というとランダム化比較試験(RCT)のような介入研究を想像する方も多いかもしれませんが、介入を伴わない観察研究、そして患者さんの予想外の経過を報告する症例報告も立派な臨床研究であり、未知の病態を解明する第一歩となります。たとえば、1951年に2人の病理医が報告した13例の症例集積は、その後の診療を大きく変える契機となりました。これらの患者さんは、重症喘息、好酸球増多、組織学的な血管炎を併存しており、「チャーグ・ストラウス症候群(現在の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:EGPA)」という疾患概念が誕生しました。

バイオマーカー発見が診療にもたらしたもの

佐田先生:

症候群が定義されたら、次に行うべきは分析的な観察研究(コホート研究や症例対照研究)です。予後、重症化、治療反応性の違いなどを比較することで、次なる課題を探すのです。こうした研究により、1つの症候群として捉えられていた集団の中から、臨床的な異質性が見つかるケースがあります。たとえば、かつて「古典的結節性多発動脈炎(PAN)」と考えられていた集団の中に、壊死性腎炎や肺胞出血など明らかに違う病態を呈する集団があることが分かりました。それが「顕微鏡的多発血管炎(MPA)」です。

ただしこれだけでは、症状が明らかにならない限り、疾患の区別はできません。そこで次は「どのようにその違いを区別するのか?」という問いに進む必要があります。この問いによって発見されたのが「抗好中球細胞質抗体(ANCA)」です。Davies氏らは、壊死性腎炎と関節炎症状を有する患者群の中から、好中球の細胞質に対する自己抗体であるC-ANCA、P-ANCAを発見し報告しました。これらはPANでは検出されなかったことから、疾患を区別するためのバイオマーカーとして確立され、2012年 国際Chapel Hillコンセンサス会議ではANCAが疾患標識抗体として正式に認定されました。これにより「ANCA関連血管炎」という独立した疾患群が確立され、他の小型血管炎とは区別して整理されるようになったのです。なお、ANCAは治療の側面においても有用なツールです。従来は症状が出現するまで、あるいは組織学的な診断ができるまでは治療の導入が躊躇されていたような症例でも、より早期に治療導入の決断が可能となってきています。

RCTの限界を補完する「リアルワールドエビデンス」

佐田先生:

バイオマーカーはRCTにおいても活用されます。バイオマーカーを用いて集団を定義することで、集団がより均質になることが想定されます。そうなると治療効果がより正確に推定できるため、より少ないサンプルサイズで研究が実施可能となるなど、効率的に研究ができるようになります。またEBM(Evidence-Based Medicine)の実践において、どういった患者さんにこのエビデンスを適用できるのか(一般化可能性)の判断が容易となります。

なお、エビデンス構築の最高峰がRCTであることは間違いありませんが、リウマチ膠原病領域においてRCTの実施は容易ではありません。リウマチ膠原病領域は希少疾患が多いためRCTに適した対象患者を集めることが容易でなかったり、多臓器に障害が及ぶためアウトカム指標が複雑化してしまったりなどの特性があるためです。さらに、寛解と再燃を繰り返し、一部は不可逆的な慢性疾患に移行するなど、さまざまな経時的変化が起こり得ることから、各時点で切り分けて RCTを実施することは困難です。

こうしたRCTの限界を補完するものとして期待されるのが、電子カルテやレセプト情報を用いた「リアルワールドエビデンス(RWE)」です。近年では、観察研究において因果推論の考え方が導入され、RCTを模倣してデザインを行うTTE(Target Trial Emulation)という手法が登場し、観察研究であっても比較の質が格段に向上してきています。

臨床研究リテラシーがあれば、日々の診療で感じる違和感を「気のせい」で終わらせず、問いに変えることができます。そして、その問いに対して、RCTと観察研究それぞれの利点を組み合わせることで、自分たちで解決していくことが可能です。日々の診療の中で感じた違和感が臨床研究や基礎研究を経て新しい理解やツールになり、最終的に自身の診療の質向上につながるかもしれません。ぜひ臨床研究にトライしてみてください。

自分の留学スタイルは? “留学ガチ勢”か“留学エンジョイ勢”か

久保先生:

留学は大きく研究留学(基礎研究)と臨床留学(臨床スキル向上)に分かれます。本日は、主に博士号取得(大学院卒業)後に行く研究留学に関して、留学するかしないかの意思決定および、目的に合わせた留学先の選定に焦点をあててお話しします。

留学のスタイルは人それぞれですが、大きく“留学ガチ勢”と“留学エンジョイ勢”に分かれると思います。前者は研究成果を出すことを最も重要視しているグループ、後者は結果に固執するのではなく、海外経験や視野拡大を重要視しているグループです。なお、この分類は優劣を分けるものではありません。大切なのは、自分はどちらのスタイルなのかを明確にしておくことです。自分がどちらのスタイルなのかが分からない場合には、▽留学のゴールを即答できるか▽留学中に遊びよりも締め切りを優先することができるか▽帰国後のキャリアがアカデミアにあるか――を自問自答してみてください。「はい」が多いほど、“留学ガチ勢”だといえるでしょう。

ラボの決め方――“留学ガチ勢”は一段階上のジャーナルを目指せる環境を

久保先生:

では、留学先はどのように選ぶとよいでしょうか。まず、“留学エンジョイ勢”が留学先を決めるうえで一番重要になってくるのが、国や都市の生活のしやすさです。また、帰国後にコネクションを維持したいと考えるのであれば、リウマチ学で有名な先生がいることは選定基準の1つかもしれません。ワークライフバランスやラボの雰囲気は実際に入ってみないと分からないことが多いので、事前に心配する必要はないと思います。

留学先の決定が難しいのは“留学ガチ勢”です。成果を出すことが第一目標になるので、まずは自分を知ることが大切です。自身の過去の論文実績を客観的に評価したうえで、一段階上のジャーナルを目指せる環境を選ぶべきだと思います。たとえば、RMD OpenやRHEUMATOLOGYへの掲載経験があるなら、Arthritis & Rheumatology(A&R)や、Journal of Experimental Medicine(JEM)、The Journal of Clinical Investigation(JCI)を狙える研究室を選ぶとよいでしょう。すでにそれらの掲載経験があるなら、さらにその先にはリウマチ学分野の頂点であるAnnals of the Rheumatic Diseases(ARD)、免疫学分野の頂点であるnature immunology、Immunityがあり、最終的には全ての研究分野の頂点であるCell、Nature、Scienceが待っています。

私見ではありますが、たとえばnature immunologyクラスを留学中に書きたいのであれば、「そのラボが同クラスの論文を定期的(2〜3年に1回)に出していること」が必須条件となります。また、PIがかつてNatureなど有名雑誌のエディターを務めていた経歴があったり、ラボが最新技術の開発を報じるnature methodsに投稿していたりすることも選ぶ基準になると思います。

人生の財産としての留学

久保先生:

「結局、留学したほうがよいのか」という問いに対して、答えはシンプルで「人による」です。しかし、これまでお話ししたように考え方の軸はあります。“留学エンジョイ勢”に関しては、生活や家族の制約がない限り、海外で得た経験は非常に大きな人生の財産になると思います。視野や価値観は確実に広がりますので基本的には留学をおすすめします。一方で“留学ガチ勢”については、専門分野のトップ誌の掲載を狙いたい場合、留学は有力な選択肢です。ただ、日本でもトップ誌を十分に狙えるようなラボにいる場合は無理に留学する必要はありません。もちろんそれでも海外で過ごす経験はかけがえのない人生経験になるはずです。

私は38歳で留学を経験しました。渡航直後に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが直撃し、研究は思うように進まず、精神的にも厳しい時期がありました。それでも、この経験が自分の人生に与えたインパクトは非常に大きく、代えがたいものだったと感じています。

留学前は不安や迷いがあるのが普通です。しかし、留学は視野を広げるだけでなく、業績やキャリアの可能性を広げる機会にもなります。ここにいたままで同じ経験ができるか。そして、その経験は後からでも取り戻せるものか。そうでなければ、留学には行く価値があります。

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