一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会(以下、日本がんサポーティブケア学会)と株式会社メディカルノートによる連携ウェビナーが2026年3月17日に開催されました。
テーマは「創成期を経て、次なる飛躍へ:会員と共に築くサポーティブケアの未来」です。日本がんサポーティブケア学会 理事長の山本 信之(やまもと のぶゆき)先生(和歌山県立医科大学 副学長・医学部内科学第三講座 教授)より、社会的背景を踏まえたがん対策の現状、同学会の役割と取り組み、がん医療のこれからについてお話しいただきました。当日の講演内容をダイジェストでお送りします。
医療を考えるうえで、「健康の社会的決定要因」を無視することはできません。これは、個人または集団の健康状態に違いをもたらす経済的、社会的状況のことを指します。収入、教育、住居状況、社会的支援、医療アクセス、地域環境などが、健康行動や医療サービスの利用状況を決定するだけでなく、健康における不平等の原因ともなり得ることを意味しています。
現在、厚生労働省が進めている“健康日本21(第三次)”では、「誰一人取り残さない健康づくり」と「より実効性をもつ取組の推進」というビジョンが掲げられており、私たちもこの文脈の中で、がん対策を考えていく必要があります。我が国のがん対策の歩みを振り返ると、1981年に悪性腫瘍(あくせいしゅよう)が死亡原因の第1位となって以降、がん対策基本法の成立などを経て着実に体制が整備されてきました。2023年に策定された“第4期がん対策推進基本計画”は「誰一人取り残さないがん対策」を全体目標とし、予防・医療・共生の三本柱で展開されています。特に「がん医療」の項目では、ゲノム医療やチーム医療と並んで「支持療法*の推進」が明確に位置づけられています。また、「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」も重要な課題です。
*支持療法:がんに伴う症状や治療によって生じる副作用などに対して、生活の質(QOL)の維持や向上を目的として行う予防や治療、ケアのこと。
近年は、がんと共存しながら生きる時代へと変化しています。興味深いデータとして、がん患者さんが1年生存するごとにその後の生存率が向上していく“サバイバー生存率”があります。たとえ進行がんであっても、早期の危機を乗り越えることで生存の見通しは改善していく傾向にあり、診断時から患者さんを長期的に支える“支持医療”の重要性がよりいっそう高まっているといえます。
支持医療の効果を裏付ける有名な研究に、ある早期緩和ケアの臨床試験があります。この研究では、転移のある非小細胞肺がん患者さんに、診断後早期から緩和ケアチームが関わることで、生活の質(QOL)や抑うつの改善のみならず生存期間の延長が示唆されました。
日本がんサポーティブケア学会は、がん患者さんに必要な支持療法について学術的活動を行うために、2015年に設立されました。現在、会員数は1,000名を超え、多職種による活動が活発化しています。
2024年には、ミッション・ビジョン・バリューをリニューアルしました。「支持医療を通じてがんに伴う苦しみのない社会を目指す」というビジョンを掲げ、エビデンスに基づいた標準治療の情報発信や、専門家の養成、研究推進、国際連携に力を入れています。
具体的には、18の委員会、17の部会、11のワーキンググループがあり、それぞれの専門領域で活動しています。たとえばCachexia(悪液質)部会や、CINV(化学療法に伴う悪心・嘔吐)部会、痛み部会などの身体的症状への対応から、サイコオンコロジー部会や、就労支援などを含むサバイバーシップ部会まで、非常に多岐にわたる活動を行っているのが特徴です。
このような活動の成果として、診療ガイドラインなどの発刊も行ってきました。最近では『がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版』や『がん薬物療法に伴う末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)診療ガイドライン2023年版』など、現場で役立つ情報を適時発信しています。
2026年5月には、富山県民会館にて第11回学術集会を開催します。テーマは「心のケア」です。なお、2027年の第12回学術集会は愛媛県松山市での開催を予定しています。
さらに、2026年には待望の学術学会誌『Journal of Cancer Supportive Care』の発刊も予定しており、研究成果の集積と発信を加速させていく構えです。
支持医療は、がん治療を支え、患者さんの人生を支えるものだと考えています。これからも会員の皆さん、そして患者・市民の皆さんと共に、科学に裏打ちされた真のサポートを追求していきます。
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