新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、呼吸器診療を取り巻く環境は大きく変化しました。第66回日本呼吸器学会学術講演会が2026年4月17~19日に、神戸国際会議場・展示場で開催されます(オンデマンド配信を併用したハイブリット形式)。会長を務める花岡 正幸(はなおか まさゆき)先生(信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)に、同時開催される市民公開講座や大会テーマに込めた思い、注目のプログラムについてお話を伺いました。

提供:花岡 正幸先生
今回の学術講演会のテーマは、「未来をつむぐ―呼吸器病学 その先へ―」としました。シンプルな表現に、呼吸器病学の未来を切り拓くという私たちの決意を込めています。「つむぐ」という言葉には、私の拠点である信州・松本の歴史が深く関わっています。幕末から昭和初期にかけて、日本の輸出総額の第1位は生糸でした。特に長野県は製糸業が盛んで、大正から昭和初期にかけて生糸生産日本一を誇りました。製糸工場で働く女性(工女)たちを描いた有名な小説「あゝ野麦峠」の舞台もこの地にあります。
現在の呼吸器病学は、感染症、喘息、肺がんなど細分化が進んでいます。それぞれの領域に専門の学会が設立されていますが、一方で「呼吸器」という大きな枠組みでのつながりが希薄になりつつあるという危惧もありました。呼吸器は本来、全身を管理するトータルな学問です。それぞれの領域が力を合わせて一体となり、未来へ向かって融合していきたいと考えています。
学術講演会に併せて4月19日には、神戸国際会議場で市民公開講座を開催します。今回はコロナ禍での中止やオンライン開催を経て、実に7年ぶりに対面形式で行います。呼吸器や病気にとどまらず、いかに人生を豊かに生きるかという視点を大切にしたいと思い、テーマは「自分らしく生きる」としました。
講師には、大坂 巌(おおさか いわお)先生(医療法人社団真養会 きせがわ病院)と医師で作家の夏川 草介(なつかわ そうすけ)先生をお招きします。緩和医療の専門家である大坂先生は、医療に関わる人の思いやりのある肯定的な言葉は薬になり得るのではないかという「ことぐすり(言薬)」という考え方を提唱されています。夏川先生は、臨床医として最前線で何百人もの新型コロナ患者さんを診療してこられ、信州の病院で働く内科医が主人公の小説「神様のカルテ」はベストセラーとなりました。数多くの患者さんに向き合ってきたお二人の哲学や人生観を踏まえたお話を伺えることを楽しみにしています。
市民公開講座は4月14日までお申し込みを受け付けていますので、多くの方のご参加をお待ちしております(https://www.jrs.or.jp/jrs66/citizen.html)。
日本の呼吸器医療が直面している最大の課題は、専門医の不足です。特に地方では深刻で、私の勤務する長野県でも呼吸器専門医がほとんどいない地域も少なくありません。この現状を打破するためには、さまざまな方策を講じてこの領域に関心を持っていただく医学生や研修医を増やしていく必要があります。
今回の学術講演会でも、学生や若手の医師を対象に「呼吸器病学ことはじめ」というプログラムを準備しました。これは全国各地の呼吸器学会の地方会で最優秀演題を受賞した学生や医師を招待するもので、例年指導医も交えて白熱した議論が繰り広げられます。若手ならではの素朴で鋭い質問は、私たちにとっても大きな刺激になり、まさに学会の原点ともいえる光景だと思います。
今回の学術講演会では3日間にわたって魅力的なプログラムを多数用意しています。
基調講演は、「聴衆を魅了するプレゼンテーション」というテーマで、佐藤 綾子(さとう あやこ)先生(パフォーマンス教育協会 理事長、信州大学名誉フェロー)にご登壇いただきます。私たち医師はプレゼンテーションの教育を受ける機会がほとんどありません。学会での発表においてもスライドや原稿を棒読みしてしまう姿が散見されます。しかし、それではなかなか聴衆に思いは伝わりません。スピーチやプレゼンテーションなどの伝える技術を磨くことは不可欠なのです。
招請講演は、堂免 一成(どうめん かずなり)教授(信州大学アクア・リジェネレーション機構 特別栄誉教授)にお願いしました。堂免先生は太陽光を利用して水分解によって水素を製造するという革新的な研究をされています。喘息やじん肺、過敏性肺炎など呼吸器疾患の多くは環境要因と密接につながっています。これ以上環境に負荷をかけない社会の構築は、呼吸器を専門とする医師としても注視していきたいテーマです。
会長企画としては、私自身の研究テーマでもある「低酸素と生体」を深掘りする予定です。あらゆる呼吸器疾患では最終的に低酸素が問題となるため、この根源的なテーマに改めて向き合い議論を深められればと考えています。また、「5人の女性教授が語る呼吸器病学の今とこれから」と題するセッションも企画しています。昨年、呼吸器領域では全国で女性教授が合わせて5人となりました。専門が喘息、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(COPD)、感染症、間質性肺疾患、肺がんと異なるため、それぞれの視点から呼吸器領域の現在とこれからの展望を語っていただきたいと思っています。
学術講演会のポスターには、私の住む長野県松本市が街を象徴し未来への道標として掲げる「三ガク都」のイメージを込めました。すなわち、「岳都」としては特別名勝として指定されている上高地を、「学都」は国宝に指定されている旧開智学校と開催地である神戸の北野異人館を、そして「楽都」はこれら3つの情景をつむぐ五線譜で表現しました。
ぜひ神戸に足をお運びいただき、直接顔を合わせて熱い議論を交わしていただきたいと思っています。多くの先生方のご参加を心よりお待ちしています。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。