2026年3月13日の世界睡眠デーに先駆け、3月10日に睡眠の最新情報に関する報道機関向け説明会が麻布台ヒルズ 森JPタワー ヒルズハウス(東京都港区)で開催されました。説明会では日本睡眠学会 理事長/久留米大学 理事長の内村 直尚先生による睡眠障害の標榜に関するオンライン講演があったほか、睡眠時無呼吸症候群の治療装置であるCPAPなどの製造・販売を行うレスメド株式会社のシディキ佐衣子さんから、同社が実施した「世界睡眠調査2026」 の結果を踏まえた世界と日本の睡眠課題についてお話がありました。おふたりの講演をダイジェストでお伝えします。
内村先生:
日本人の2~3割が睡眠の悩みを抱えているといわれています。睡眠障害を抱え受診した国内患者数は865万人程度と推計され、そのうち8割以上が不眠症、1割程度が睡眠時無呼吸症候群とされています。ほかにも中枢性過眠症(ナルコレプシーなど)をはじめとした多様な睡眠障害があり、こうした病気を適切に診断・治療していくことが重要です。
レセプトデータベースをもとに患者さんが受診した診療科を見てみると、不眠症では内科が半数以上、精神科が3割ほどです。内科の中でも心療内科が特に多く、大半の心療内科では精神科の医師が診療にあたっています。つまり、不眠症を診ているのは主に精神科と内科の医師だといえます。一方、睡眠時無呼吸症候群では8割弱が内科を受診し、次いで耳鼻咽喉科が2割弱で、内科の中では循環器内科や呼吸器内科が目立ちます。このように、睡眠障害の診療にはさまざまな診療科が関わっているのです。
睡眠障害の診断は、日本睡眠学会の「睡眠障害のスクリーニングガイドライン」に沿って進められます。問診で確認した症状から睡眠時無呼吸症候群、中枢性過眠症といった病気を鑑別し、最終的にほかの病気が否定され不眠があれば不眠症を疑います。診断においてはこのように一つひとつの病気を見極めていくことが重要です。
2026年3月時点で日本睡眠学会認定の専門医(専門医・総合専門医)が700人弱、指導医が300人ほどいるほか、日本睡眠学会認定の歯科専門医、専門検査技師、専門心理師などもいます。睡眠障害の診療はこうした多職種の連携のもとで行われているのです。
内村先生:
近年は、睡眠を可視化するデバイスの登場などによって自身の眠りの問題を認識する方が増えている一方で、その問題をどこに相談すればよいか分かりにくいのが現状です。そこで、患者さんの医療アクセス向上や睡眠医療のさらなる充実を図ろうと、日本睡眠学会は2025年4月、厚生労働省に「睡眠障害」の標榜に関する要望書を提出しました。関連する日本精神神経学会、日本呼吸器学会、日本神経学会、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会、日本循環器学会、日本小児科学会からも賛同を得たうえで、睡眠障害内科、睡眠障害精神科などの標榜の実現を目指すものです。
一般の方へのアンケート調査では、睡眠に問題を感じている方のうち医師に相談したのは約14%であるのに対し、「睡眠障害」の標榜があれば受診したいと答えた方は約80%に達しました。また、睡眠障害の診療に携わる医師を対象に行ったアンケート調査では、約80%が「睡眠障害」の標榜が必要、約70%が標榜したいと回答しました。「睡眠障害」の標榜は、患者さん、医師共に望んでいることなのです。
次に大学病院に目を向けると、睡眠の専門外来を設けているものの、日本睡眠学会認定の専門医がおらず対応できる病気が限られている施設もあるようです。そこで日本睡眠学会では、「睡眠医療特定地域専門医・指導医制度」および「特定地域専門施設」を創設し、全国どこでも同じレベルの睡眠医療を提供できる体制づくりに力を注いでいます。2025年には、睡眠医療に関わる多職種の方々への知識・情報の共有のため日本語の電子雑誌『睡眠医療ネクサス』を創刊しました。専門医および「睡眠障害」を標榜した医師の医療の質を担保するためのセミナーや、一般診療科の医師や産業医に睡眠障害を知ってもらう場も設けたいと思っています。
また、一般の方向けの市民公開講座の開催や小中学生向けの「みんいく」(睡眠教育)教材の制作など、広く睡眠の重要性を知ってもらう取り組みも行っています。さらに、睡眠健診を幅広い世代に普及させ、睡眠障害の早期診断・治療につなげていきたいと考えています。
数か月後には「睡眠障害」の標榜が可能になる見通しです。睡眠に問題を抱える方の医療へのアクセスが向上し、国民の健康や質の高い生活に寄与できることを期待しています。
シディキさん:
当社では、世界中の人々の睡眠の状況を包括的に捉える「世界睡眠調査」を毎年実施しています。本日は13の国と地域で行った最新の調査結果から、睡眠の実態や課題についてお話ししたいと思います。
初めに世界の睡眠状況から見ていきましょう。
まず注目したいのは、健康のために重要な行動として運動や食事よりも睡眠を挙げる方が上回り、82%が睡眠は非常に重要と答えたことです。また、77%の方が睡眠不足は慢性疾患の原因になると認識しています。その一方で、毎晩よく眠れている方は3人に1人以下という現状が明らかになりました。
次によい睡眠で得られる効果について尋ねたところ、体力や集中力、ストレス管理能力の向上のほか、好きなことをするエネルギーが増える、イライラが減る、仕事への意欲が増す、運動する確率が上がる、好きな人と過ごすエネルギーが増える――といった精神面でのポジティブな影響を挙げる方が目立ちました。
続いてウェアラブルデバイスの影響についてです。この1年で睡眠を可視化するデバイスの利用率は3倍以上になり、その結果に応じて睡眠習慣の改善に取り組んだ方も多かったようです。睡眠に課題が見つかったら積極的に受診するという方も多くいらっしゃいましたが、実際に受診した方は23%にとどまっています。受診しなかった理由としては、睡眠課題の重要性を認識していなかった、仕方がないことだと思っていた、重症になったら相談しようと考えていたといった回答があり、重症とそうでない状態との境界線があいまいであることがうかがえます。そのほか、受診はしたが医師から聞かれなかったため自分から睡眠の課題に触れなかった、という回答もありました。
さらに、女性は男性よりも睡眠の質が低いという結果が出ています。調査では、入眠に時間がかかる、起床時に休養感がない、ストレスや不安が睡眠の質を下げている、家事や育児が睡眠に負の影響を与えている、パートナーのいびきで目が覚めるという項目に対し、はいと答えた人の割合が男性よりも女性のほうが多い結果が得られました。
シディキさん:
続いて日本のデータをご紹介します。
まず残念なことに、日本人の平均睡眠時間は4年連続で世界最下位であり、6時間20分~6時間40分の間で推移しています。睡眠不足が慢性疾患につながるリスクを理解している方の割合は13か国平均を大きく下回り、睡眠と健康に関する知識も他国に遅れを取っています。
睡眠と労働の関係についても世界との差が浮き彫りになりました。他国では睡眠不足による疲労で病欠した経験のある方が7割いる一方で、日本では「睡眠不足で休んだことは全くない」と答えた人が6割にものぼります。上司が健康を気にかけてくれる、職場の文化が休息と回復を優先していると感じる方の割合は13か国平均を大きく下回っており、健康や睡眠の問題は職場で共有・解決できないと考える方が多いようです。
続いて女性のライフステージごとに睡眠の特徴を見ていくと、更年期女性はホルモンバランスの変化の影響が睡眠にも及んでいると考えられます。また、妊娠中は自身の睡眠を記録する方、医療従事者に相談する方が多く、妊娠していない時期と比べて主体的に健康を管理する傾向が見られます。
最後にパートナーと寝室やベッドを共にしない、いわゆる“睡眠離婚”についてです。日本は睡眠離婚の割合が13か国中トップで広く定着しているようです。パートナーのいびきで目が覚めてしまうのを避けることが要因として考えられますが、離れて寝ているとお互いに相手のいびきや無呼吸など深刻な病気のサインに気付けなくなる可能性があります。
世界睡眠デーを機に、ご自身の睡眠習慣を今一度振り返っていただければと思います。睡眠パターンを記録していると何か変化があればすぐに気付けますし、状況に応じて適切な医療サポートを受けるのも賢い選択だと思います。また、寝室を静かに暗くするなど睡眠に適した環境づくりも大切です。今夜はスマホを手放し、ゆっくり睡眠をとられることを願っています。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。