甲状腺診療を専門とする隈病院が、臨床知見や研究成果を共有することを目的に毎年開催している「隈病院甲状腺研究会」。その第26回が、2026年3月7日にホテルオークラ神戸にて開催されました。今回のテーマは「原発性副甲状腺機能亢進症」です。副甲状腺はカルシウムやリンの調節に必須のホルモンを分泌する重要な器官であり、その機能に異常が生じると骨粗鬆症や尿路結石などさまざまな合併症を引き起こします。今回はこの副甲状腺に焦点を当て、内科、臨床検査科、外科の各専門家が登壇し、病態診断から超音波による局在診断、最新のガイドラインを踏まえた治療戦略まで、3つの演題が行われました。本記事では、研究会当日の様子をリポートします。

開会あいさつを行う隈病院 院長 赤水尚史先生
隈病院院長の赤水先生より、開会のあいさつが行われました。赤水先生は、日頃の診療連携や協力に対する感謝を述べた後、今回のテーマである「副甲状腺」の役割について言及しました。副甲状腺疾患は比較的まれではあるものの、そこから分泌される副甲状腺ホルモンはカルシウム調節のキーとなる非常に重要なホルモンです。そのため、過不足が生じると、日本において1千万人を超える患者がいるといわれる国民病「骨粗鬆症」をはじめとするさまざまな病態に深く関わるとのことです。本研究会では、その中でも原発性副甲状腺機能亢進症に焦点を当て、内科・検査・外科それぞれの視点から最新の知見を共有する場としたいと語りました。

司会進行の隈病院 外科科長 舛岡裕雄先生
演題1の座長は、東京大学大学院医学系研究科 内分泌病態学 准教授である槙田 紀子先生が務められました。
最初の演者は、隈病院 内科の門野 至先生です。門野先生は、日常診療でしばしば遭遇する高カルシウム血症の評価手順と、原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の診断における留意点について、自施設のデータを交えて解説しました。

発表を行う隈病院 内科 門野至先生
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高カルシウム血症の診断において、まずは再検査やアルブミン補正(血液中のタンパク質濃度による誤差の補正)を行い、本当にカルシウム値が高いのかを確認することが出発点となります。
次の大きな分岐点が「副甲状腺ホルモン(PTH)」の測定です。PTHが抑制されずに高いままであればPHPTなどが疑われますが、ここで遺伝性疾患である「家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)」を除外するために、尿中カルシウム排泄率(FECa)の確認が重要になります。FHHはカルシウムの感知センサーの感度が鈍くなっている病気であり、高カルシウム血症であるにもかかわらず尿へのカルシウム排泄が少なくなるのが特徴です(FECa 1%未満が典型)。一方、PHPTでは尿中カルシウム排泄は正常から高値(FECa 1%以上)を示すことが多いとされています。
しかし、ここに「ビタミンD欠乏」という要因が加わると診断が複雑になります。ビタミンDが不足すると、腸からのカルシウム吸収が低下するため、血液中のカルシウム値が目立たず「正常カルシウム表現型」に見えることがあります。実際、当院のデータを用いた検証でも、術前評価時に補正血清カルシウムが正常範囲内に留まる症例が一定数存在しました。
このように総カルシウムのみで判断し病態を過小評価してしまうことを防ぐために有用なのが、生理活性を持つ「イオン化カルシウム」の評価です。補正血清カルシウムが正常範囲内であっても、PTHの過剰な作用によってイオン化カルシウムは上昇している症例が存在するため、必要に応じて評価を行うことが診断のポイントになります。
さらに、尿所見におけるFECaの解釈にも注意が必要です。ビタミンDが高度に不足した状態では、腎臓でのカルシウム再吸収が強まるため、PHPTであってもFECaが低く見える症例があることが分かりました。
そこで、近位尿細管の機能を反映するリン代謝指標「%TRP(リン再吸収率)」に着目して解析を行ったところ、ビタミンDが高度に不足している群において、近位尿細管でのリン再吸収が相対的に亢進していることが示唆されました。具体的には、近位尿細管でのリン再吸収が亢進している状態(%TRPがおおむね86%以上)において、PHPTであってもFECaが1%未満と低く見えてしまう症例が多く分布していました。
また、ビタミンDが高度に不足した群では、骨病変がより進行した分布を示しました。
これらの結果から、PHPTの診断においては、カルシウムや尿の表面的な数値だけで判断するのではなく、ビタミンDの状態や近位尿細管の再吸収状態など、見え方の背景を総合的に考慮して解釈することが重要です。
演題2の座長は、藤田医科大学医学部 内分泌外科 教授である日比 八束先生が務められました。
続いての演者は、隈病院 臨床検査科 生理機能検査室の西村 萌英検査技師です。西村さんは、初期検査として有用な超音波(エコー)検査について、副甲状腺腺腫(良性の腫瘍)と類似疾患との鑑別ポイントを症例動画と共に解説しました。

発表を行う隈病院 臨床検査科 生理機能検査室 西村萌英検査技師
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ガイドラインにおいて超音波検査は初期検査に有用とされていますが、検者間の検出率の差が課題となっています。そこで本日は、局在診断の成功率を高めるために、副甲状腺腺腫と類似疾患との鑑別ポイントを実際の画像を見ながら整理していきます。
まず、副甲状腺のスクリーニングで観察する際は、常に多腺性(複数の腫瘍)や異所性(通常とは異なる位置)の可能性を考えておくことが重要です。基本的には甲状腺の背側を中心に探しますが、まれに上縦隔側などの深い位置に存在することもあります。その場合は頸部をよく伸展させ、周波数を少し下げるなど、設定やプローブを適宜工夫しながら鎖骨頭部の間を覗き込むように観察します。
典型的な副甲状腺腺腫は、扁平で境界がはっきりしており、前面(甲状腺との境界部)に線状の高エコー(白く映る線)が描出されるのが特徴です。また、鑑別の最大のポイントは内部の血流シグナルです。特にリンパ節との鑑別において、副甲状腺腺腫は内部に豊富な血流シグナルを認めることが多いという特徴があります。
当院では複数の血流評価法を併用しています。特に低速血流評価(SMI)は、低速血流の観察に優れており、副甲状腺腺腫の鑑別に有用です。また、拍動によるアーチファクト(ノイズ)を除去し、腫瘍内部の血流シグナルのみを明瞭に評価できます。
さらに、非典型的な症例への対応も重要です。たとえば、甲状腺内に埋没している副甲状腺腺腫の場合は、甲状腺結節(しこり)との鑑別が困難になります。この場合、結節が甲状腺実質に完全に囲まれているかどうかの確認や、線状高エコーの有無、内部エコーの低さ、血流シグナルの流入パターンなどから総合的に判断します。また、腫瘍は充実性がほとんどですが、まれに嚢胞変性(液体の溜まり)や石灰化を伴う副甲状腺腺腫も存在します。
画像所見のみで甲状腺結節などとの鑑別が難しい場合は、血液検査などの臨床情報と照らし合わせて評価することが大切です。不要な穿刺(細胞採取)を避けるためにも、柔軟に副甲状腺疾患の可能性を示唆して臨床側へ報告することが、私たちの重要な役割だと考えています。
3人目の演者は、隈病院 院長補佐の宮 章博先生です。座長は演題2に引き続き日比 八束先生が務められました。

発表を行う隈病院 院長補佐 宮章博先生
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原発性副甲状腺機能亢進症の局在診断と治療について、私が委員として携わり昨年発刊された日本の「副甲状腺機能亢進症診療ガイドライン」のエッセンスを交えてお話しします。
近年、検査の普及により、典型的な症状のない無症候性の患者さんが増えています。しかし、無症候性であっても手術をせずに10年、15年と経過を観察すると、高い確率で骨密度低下や尿路結石などの症状が進行・発現してくることが分かっています。したがって、適切に手術適応を見極める必要があります。
日本のガイドラインでは、手術適応の基準として「血清カルシウム値が基準値上限+1mg/dL以上」、「骨密度の低下(Tスコア-2.5未満)」、「腎機能の低下(eGFR<60mL/1.73m2)」、「画像診断によって判明した椎体骨折や尿路結石」、「年齢50歳未満」などを採用しました。ここで特に注意していただきたいのが骨密度の評価です。本疾患は皮質骨に影響が出やすいため、骨粗鬆症の検査で一般的な腰椎や大腿骨だけでなく、橈骨(前腕の骨)を含めて測定することが大切です。橈骨で見ると骨密度がかなり低下しているケースがしばしば見られます。
根本的治療である手術を成功させるには、「単腺(1つ)か多腺(複数)か」、そして「腫瘍がどこにあるのか」を見極める局在診断が極めて重要です。上の副甲状腺は第4咽頭嚢から、下は第3咽頭嚢から発生して頸部へ移動してくるという発生学の知識が上下の腺の判別や異所性の腫瘍を探すうえで不可欠になります。画像診断としてはMIBIシンチグラフィ(SPECT-CT)が有用ですが、小さな腫瘍では薬剤の集積が見られないこともあります。そこで造影CTを組み合わせます。動脈相から少し時間を置いた「遅延相」を撮影することで、副甲状腺腫瘍とリンパ節の鑑別が可能となります。
実際の治療において、単腺の腫大であれば単腺を摘出する低侵襲な(体への負担が少ない)手術で、97~98%という高い治癒率が得られます。一方、多腺腫大の場合は両側の探索を行い、全摘出と前腕などへの自家移植、あるいは年齢や腫瘍の数・重量を考慮して亜全摘を行うことになります。
最後に、穿刺細胞診については、原則禁忌です。針を刺すことで、腫瘍細胞が周囲に播種(散らばること)し、再発する可能性があります。どうしても鑑別が困難な場合には穿刺することもありますが、決して吸引はせず、毛細管現象で針に入ってくる液のみでPTHを測定して診断しています。
長期間カルシウムが高い状態が続くと、慢性腎臓病の発症につながることもあります。もしカルシウムが高いことがあれば、早い段階で専門的な医療機関へご紹介いただくことをおすすめします。

閉会のあいさつを行う隈病院 副院長 伊藤充先生
最後に、隈病院副院長の伊藤先生より閉会のあいさつが行われました。多数の参加者と、座長を務めた先生方への深い感謝が述べられました。また、院長補佐の宮先生からの日本のガイドラインを踏まえた治療戦略、内科の門野先生からのビタミンDの観点を踏まえた診断の留意点、そして西村検査技師からの超音波画像診断のポイントという、本日の3つの講演内容を改めて総括されました。本研究会で共有された知見が、参加者の明日からの診療の大きな一助となることを願いつつ、今後も隈病院への変わらぬ支援と協力を呼びかけ、盛況のうちに研究会は締めくくられました。
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