日本リウマチ学会とメディカルノートによる第10回連携ウェビナーが、2026年1月29日に開催されました。今回は、2026年4月に開催される「第70回日本リウマチ学会総会・学術集会(JCR2026)」の会長を務める渥美 達也(あつみ たつや)先生(北海道大学 名誉教授)より、今大会の見どころやテーマに込めた思いについて、自身の研究の歩みとともにお話しいただきました。講演の内容をダイジェストでお届けします。
第70回日本リウマチ学会総会・学術集会が2026年4月22日〜24日の3日間、福岡国際会議場・福岡サンパレス・マリンメッセ福岡B館で開催されます。プログラムは学術集会プログラム担当委員会で策定しており、例年どおり充実した内容となっています。見どころをいくつかご紹介します。
まず、特別講演にはIL-6*の発見者であり、世界を代表する免疫学者である岸本 忠三先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授)をお招きします。先生が報告されたIL-6のシグナル経路は、抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブの開発へとつながり、関節リウマチのみならず多くの免疫疾患の診療に計り知れない恩恵をもたらしました。また、海外からはSLE(全身性エリテマトーデス)研究の第一人者であるデビッド・アイゼンバーグ先生(University College London)をお招きし「膠原病における難治性病態の解明」というテーマでご講演いただきます。さらに、公募演題の「近未来のリウマチ医セッション」には、昨年比3割増となる102題の応募がありました。若手の研究者や学生による火花散る激しいディスカッションを期待しています。
*IL-6:体内の炎症や免疫反応を調整するタンパク質のこと。関節リウマチにおいて過剰に産生され、関節の痛みや腫れ、骨の破壊などを進行させる原因となる。
会長講演では私自身の研究の歴史についてお話しします。私は大学を卒業後、佐川 昭先生が当時リーダーを務められていた北海道大学第二内科の膠原病グループに入門しました。私が最も興味を持った疾患はSLEでした。医師になったばかりの頃に経験した激しい症状の患者さんを今でもよく覚えています。
SLEを含めた自己免疫疾患では、自己免疫によって組織の炎症が持続することで臓器機能が廃絶していく自然経過をたどります。そのため、多くの研究者は自己免疫の病態解明を通じた治療薬の開発に取り組んできました。SLEに関しても病態に関わるさまざまな免疫細胞や分子を制御する薬剤開発が進められてきましたが、残念ながら治験に成功し薬として承認されたものはまだ限られているのが現状です。
SLEの免疫機序を考えたとき、「何がこの自己免疫に特異的なのか」を突き詰めていくと、実は自己免疫に特異的なのは自己抗原だけであり、それ以外の反応は通常の免疫反応と何ら変わりありません。そうなると、既存の治療薬は免疫抑制という形をとらざるを得ず、常に「感染リスクとのバランスをどう取るか」という課題に直面することになります。これがSLEの分子標的療法の開発が非常に困難である理由の1つです。
私は自己免疫の側面だけを追いかけていては、SLEを完全に克服するには限界があるのではないかと考えました。そこで、自己免疫の結果として起こる臓器病変の病態を制御することで、最終的なSLEの発症を防ぐことに着目して研究を続けてきました。注目したのは、SLEの15〜30%に合併する病態である「抗リン脂質抗体症候群(APS)」です。抗リン脂質抗体は血栓を引き起こす病原性のある自己抗体であり、APSを発症すると動脈・静脈の血栓症、不育症(流産)などの症状が現れます。
私は、APSを克服するには、抗リン脂質抗体を作らせない戦略のほかに、「抗リン脂質抗体は作られてもAPSを発症させないこと」が鍵となると考えました。APSは、試験管内(in vitro)では凝固時間を延長させる「アンチコアグラント(抗凝固因子)」としてはたらきながら、生体内(in vivo)では血栓症を引き起こすという、非常に不思議な性質を持っています。血漿中に流れる抗リン脂質抗体が、細胞表面の抗原に結合することで一気に細胞が活性化されて凝固促進物質を産生させるこのプロセスこそが、この難治性病態を解明する鍵となります。会長講演では、こうした私の研究ヒストリーについても詳しくお話ししたいと考えています。
今大会では第70回の節目を記念して、これまでの足跡を辿る「70周年記念展示」を行います。SLEの歴史を振り返ると、70年前の3年生存率はわずか60%という厳しいものでした。しかし、グルココルチコイド(ステロイド)の登場によって生命予後は劇的に改善し、さらにその後のシクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)や、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の登場がその流れを加速させました。近年ではベリムマブやアニフロルマブといった生物学的製剤、そして2024年にはボクロスポリンが登場し、SLEはグルココルチコイドに依存しなくとも寛解導入や維持が可能な病気となりました。2019年版の診療ガイドラインでも示されているとおり、治療目標は「SLEではない人と何も変わらない社会活動を送れる状態を維持すること」です。新しい薬の登場により、グルココルチコイドに依存しない「社会的寛解」の維持が十分に可能になると信じています。
私は北海道の倶知安町で生まれ、小樽市で育ちました。小樽では、冬に「雪あかりの路」というキャンドルを灯す静かなイベントが開かれます。今大会のテーマ「あなたの笑顔にSO THAT YOUR SMILE NEVER LOSE ITS HAPPINESS」は、このイベントの由来でもある詩人・伊藤 整の初詩集「雪明りの路」にちなんでいます。その詩集の中に「夏になれば」という詩があります。思いを寄せる女性が、いつか妻となり母となっても、その笑顔から幸せが失われませんようにと願う内容です。私たち医療従事者も、患者さんやそのご家族の笑顔のために仕事をしています。よりよい治療法を開発し、笑顔から幸せが失われないように努力を続けることは、私たちの最も基本的な仕事です。
なお、全員懇親会は福岡国際センターで開催いたします。大相撲九州場所が行われる会場ですので、懇親会は「JCR九州場所」と題し、相撲に関するエンターテインメントを多数用意しております。ぜひ奮ってご参加ください。皆さまと4月に福岡でお会いできることを心より楽しみにしております。
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