連載特集

県民の「いのち」を守る羅針盤――神奈川県医師会の使命と挑戦

公開日

2026年05月21日

更新日

2026年05月21日

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2026年05月21日

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急速に進行する少子化や医療を取り巻く環境の変化のなか、神奈川県医師会は“あってあたりまえ”の医療を支えながら、県民に開かれた組織へと進化を続けています。最近では「かながわMIRAIストリート」への参加や「かなドク」の開設など、神奈川の医療を次世代へつなぐための取り組みを進めています。今回は、2025年6月に神奈川県医師会の会長に就任された鈴木 紳一郎(すずき しんいちろう)先生(藤沢湘南台病院 理事長)に、神奈川県医師会の取り組みや今後の展望などについてお話を伺いました。

多様な医療環境を生かし、全国展開できるモデルをつくる

医師会は「日本医師会」「都道府県医師会」「郡市区等医師会」という3つの階層で成り立っています。神奈川県医師会は都道府県医師会にあたり、県の医療政策の立案、病院やクリニックの管理、災害時における医療体制の整備、地域医療構想の推進――などの役割を担っています。簡単に言うと「神奈川県の医療をよりよいものにしよう」と取り組んでいるのが、私たち神奈川県医師会です。「命をつなぐ これまでも これからも」というマスターコンセプトの下、“あってあたりまえ”の医療を守るため、さまざまな活動を通じて神奈川県の医療を支えています。

国際的に評価の高い国民皆保険制の中で地域の実情に応じた医療提供体制を構築することが我々の使命であり、コロナ禍の際には「神奈川モデル*」を確立し危機を乗り越えました。神奈川県の特徴は、横浜や川崎のように医療が集中する都市部から、医療資源が不足している地域までさまざまな医療環境が混在していることです。こうした特性を踏まえながら、神奈川県ならではの医療体制を今後構築していく必要があると考えています。そして、“日本の縮図”ともいえる神奈川県において成功する医療体制を構築することは、そのまま全国に展開可能なモデルになり得ると思います。

*神奈川モデル:人口あたりの医療資源が乏しい神奈川県において、重症患者は「高度医療機関」、中等症患者は「重点医療機関」で受け入れ、無症状・軽症者は自宅・宿泊施設で療養してもらうという新型コロナによる医療崩壊を防ぐために構築した医療提供体制のこと。

県民向けイベント、医師のキャリアサポートへの取り組み

神奈川県医師会は、県民の皆さんにとって身近な存在となることを目指した取り組みにも力を注いでいます。その1つが「かながわMIRAIストリート」への出展です。2025年は子どもをターゲットに、映画「はたらく細胞」とのコラボレーションによる写真撮影、聴診器や映画チケットのプレゼント抽選などを行いました。子育て世代の方を中心とした県民の方々にまずは神奈川県医師会のことを知ってもらいたいと思い企画したものです。イベントでは医師や看護師の格好をした子どもたちのキラキラした笑顔が大変印象的でした。参加者の方からは「医師会の皆さん、いつもありがとうございます」といった言葉もかけていただき、よりいっそう身が引き締まる思いがしました。なお、この取り組みの背景には、深刻な少子化への危機感もあります。イベントに参加した子どもたちが医療・保健・福祉に興味を持ち、これからの医療業界の担い手となってくれることを期待しています。今年(2026年)の「かながわMIRAIストリート」にも出展予定です。

「かなドク(神奈川でドクターになろう)(https://kanadoc.jp/)」というウェブサイトの開設も、神奈川県医師会独自の取り組みです。かなドクは、医師になろうと考えている高校生から、医学生、研修医、専攻医、勤務医、開業医と、医師のキャリアの全ての段階をサポートするサイトです。

具体的には、医学生を対象とした臨床研修病院の説明会、産業医や学校医になるための情報提供、医院承継の相談、県医師会の役割や魅力の説明など、医師・学生にとって有益な情報を一元的に提供します。「神奈川で医師として働きたい」という人に必要な情報が手に入る、そんな幹となるウェブサイトにしたいと考えています。将来的には、一般の方向けの情報ともリンクさせ、県民や患者さんにも役立つサイトを目指しています。

多くの仲間と共に、医師会を発展させていきたい

神奈川県の人口は日本で2番目に多いにもかかわらず、医師会の会員数は東京、大阪、愛知に次いで4番目の1万人弱にとどまっています。県内約2万人の医師のうち、加入者が約半数という現状です。今後の目標はより多くの医師に神奈川県医師会の一員になってもらうことです。いろいろな医師が入ってきてくれれば、それだけ会の活動に彩りが加わり、多種多様な取り組みが可能になります。特に若手医師の加入を増やすため、研修医や専攻医の研修病院を訪れ、医師会の必要性や加入のメリットを伝えるなど周知に努めています。

同時に、理事・役員をはじめとする医師会会員や職員一人ひとりが能力を最大限に発揮できるような環境や雰囲気をつくり、医師会の活性化・発展につなげていきたいと考えています。

データが描く未来の医療

神奈川県では知事の主導の下「未病」を改善する取り組みが進められてきました。未病とは、健康と病気の間で変化するグラデーションの状態で、未病改善によって心身が健康な状態に近づき、健康寿命の延長につながると考えられています。従来の「治す医療」だけでは限界が見えるなか、今後は未病の改善がより求められていく時代になるでしょう。

たとえば、将来的には地域の健康データの改善を評価するような仕組みも必要だと考えています。具体的には、糖尿病の指標であるHbA1cの数値や血圧の改善、さらには不要な薬剤を減らしても健康を維持できるといった成果に対して、適切な診療報酬が支払われる形を目指すべきだと考えています。参考となるのがイギリスの取り組みです。イギリスでは、総合診療医(GP)がかかりつけ医として機能し、担当する地域の健康データがよくなると診療報酬を受け取ることができる「成果連動型報酬」と呼ばれる仕組みを導入しています。

2026年度の診療報酬改定で、医療機関の「データ提出」がより求められる形になったことを考えると、日本の医療も未来に向けて変化しているのだと感じます。そして、こうした医療の変化に現場の医師たちが取り残されず、次の時代の医療でも活躍できるように導いていくことは、私たち医師会の使命です。

医療は一生をかける価値のある素晴らしい仕事です。1人でも多くの方が神奈川や日本で医療の道を志してくれることを願っています。これが、“あってあたりまえ”の医療を守ることにつながっていくのだと思います。

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