連載特集

納得のいく治療を医師とともに――心臓弁膜症診療における相互コミュニケーションの重要性

公開日

2026年05月13日

更新日

2026年05月13日

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2026年05月13日

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息切れや動悸などの症状を伴う「心臓弁膜症」。年のせいだと見過ごされがちですが、日本国内の65歳以上の潜在患者数は推計400万人、75歳以上では約10人に1人が患っているといわれています。2026年3月26日、エドワーズライフサイエンス合同会社は「心臓弁膜症の診療における患者さんと医師のコミュニケーション」をテーマにメディアラウンドテーブルを開催。心臓弁膜症診療における医師・患者間の対話の重要性、双方が抱える困難さ、よりよいコミュニケーションのためのヒントについて講演とディスカッションが行われました。その内容をダイジェストでお伝えします。

<ゲストスピーカー>

  • 出雲 昌樹先生(聖マリアンナ医科大学 循環器内科 教授/聖マリアンナ医科大学病院 循環器内科 診療部長)
  • 寺田 恵子さん(一般社団法人 心臓弁膜症ネットワーク 理事)

心臓弁膜症は心不全の一歩手前の状態

はじめに出雲 昌樹先生より「心不全予防のための心臓弁膜症治療――治療検討におけるコミュニケーションの重要性」というテーマでお話がありました。

出雲先生:

超高齢社会を迎える日本では、心不全による死亡者数が年々増加傾向にあります。心不全は何らかの異常で心機能が低下して全身に血液を十分に送り出せない病態を指し、その背景には必ず原因となる病気があります。その原因として最も多いのが虚血性心疾患、次いで多いのが「心臓弁膜症」で、心不全の約5人に1人には心臓弁膜症があるとされています。

なお、心不全はステージA・B・C・Dの4段階に分けられ、心臓弁膜症がある方はステージBの「前心不全」とされます。症状はなくても心臓弁膜症があるだけで、すでに心不全の入り口に立っていることになるのです。心不全の症状が出現してステージCになると、その後はよくなったり悪くなったりを繰り返しながら、身体機能が徐々に低下していく経過をたどります。そのため、心臓弁膜症を指摘されている場合は、ステージCへの移行を防ぐために適切な治療を受けることが重要です。

出雲 昌樹先生(聖マリアンナ医科大学 循環器内科 教授/聖マリアンナ医科大学病院 循環器内科 診療部長)

見過ごされやすい心臓弁膜症――「息切れ」感じたら医師に伝えて

出雲先生:

心臓弁膜症は、左心房、左心室、右心房、右心室という心臓の4つの部屋の扉の役割を果たす僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁のいずれかに異常をきたす病気です。弁が正常に機能していれば血液の流れは一方向に維持されますが、心臓弁膜症では弁が狭くなって血液が流れにくくなったり、弁がうまく閉じず血液が逆流したりします。高齢になるにつれて有病率は上がる傾向にあり、65歳以上の方の潜在患者数は推計で約400万人、75歳以上では約10人に1人が心臓弁膜症であるといわれています。

心臓弁膜症の代表的な症状は、息切れ、動悸、胸の痛み、失神などですが、その中でも特に多い息切れの症状は「年のせい」と見過ごされがちです。病気によるものと認識されづらいため、息切れを感じていても受診しなかったり、ほかの病気で通院している場合でも医師には話さなかったりする方が多いのが実状です。限られた診察時間のなかで医師のほうから聞き出すのも難しく、心臓弁膜症の発見のきっかけをつかみにくいといえます。また、症状を自覚していないケースが多いことも、診断につながりづらい要因です。

出雲先生ご講演資料
出雲先生ご講演資料

医師とのコミュニケーションで自分に合った治療を見つける

出雲先生:

心臓弁膜症は軽症〜中等症であれば薬で症状を和らげる治療を行いますが、重症化した場合は悪くなった弁を修復したり、交換したりする治療が必要です。治療には、開胸手術による治療のほか、足の付け根などから細い管を入れて行うカテーテル治療もあります。複数の選択肢がある中でどのような治療を行うかを決めるには、患者さんの状況(年齢、身体的特徴、他の病気の有無、加齢による心身の衰えなど)に加えて、患者さん自身がどのような治療を求めているのか、どのような人生を望んでいるのか――などの価値観や希望が非常に大切です。高齢の患者さんであればご家族の意向も重要です。それらを踏まえて循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、心エコー医などからなる「弁膜症チーム」で治療法を検討していきます。

また、心臓弁膜症は治療が遅れると治療後の予後が悪くなるというデータもあるため、治療のタイミングを逃さないことも大切です。しかるべきタイミングで、その方にふさわしい治療を納得して受けていただくために、患者さんと医師が日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことが大切だと考えています。

出雲先生ご講演資料

出雲先生ご講演資料

症状があっても半数弱しか受診していない現状

次に、エドワーズライフサイエンス合同会社で実施した「治療のコミュニケーションに関する医師・患者の意識調査」の結果が共有されました。

調査対象は65歳以上の生活者1,620人(健康な方:648人、息切れ・動悸・胸の痛み経験者:972人)と循環器内科医70人です。期間は2025年11月15日〜12月15日で、全国インターネット調査で実施しました。

まず、生活者全体に対して「病気になった際にリスクが高いと思う臓器」を選択式で質問したところ「心臓」と回答した方が最も多く、また心臓弁膜症の認知度は96%と非常に高い結果が出ました。一方で、心臓弁膜症が「加齢による症状と間違いやすく自覚しづらい病気」であることを理解している方は30~40%台にとどまっています。

次に、症状を経験した方に息切れや動悸、胸の痛みを自覚したときに受診したか聞いたところ、受診したと答えた方はいずれの症状についても50%以下でした。受診しなかった理由としては、「一時的なものだと思った」「年のせいだと思った」という回答が多く、症状を病気によるものと認識できていないため受診に至っていないことが分かります。

医師・患者双方がコミュニケーションに難しさを抱える

続いて、受診経験のある生活者(患者さん)と医師にコミュニケーションについて尋ねました。患者さんから医師に症状を伝える場面では、患者さんの33%、医師の56%が何らかの困難を感じたと答えています。患者さんからは「症状をうまく説明できなかった」という回答が最も多く、医師からは「医学的な情報や症状の経過を正確に聞き取ることが難しかった」といった声が聞かれました。

さらに、医師から患者さんに治療について説明する場面で困難を感じたと回答したのは、患者さんで37%、医師で77%という結果が出ています。患者さんからは「自身の病状の重さを把握できなかった」という声が多く、医師からは「高齢者の患者さんでは詳細な聞き取りや記憶が難しく、どの程度理解できたかを確認しづらかった」といった声がありました。

今回の調査では、心臓弁膜症の症状について理解が十分に進んでいないこと、患者さんと医師の双方がコミュニケーションに難しさを抱えていることが分かりました。心臓弁膜症の診療をより円滑に進められる環境づくりのため、両者のコミュニケーションを支援するさらなる取り組みが重要であることが示唆されました。

エドワーズライフサイエンス合同会社 調査結果

エドワーズライフサイエンス合同会社 調査結果

よりよいコミュニケーションに向けて――医師・患者双方の視点から

この調査結果を受けて、医師・患者間における相互コミュニケーションの重要性をテーマに、出雲 昌樹先生と寺田 恵子さんによるディスカッションが行われました。寺田さんは10代の頃に発症した膠原病(こうげんびょう)で定期的に受診をしているなかで心臓に違和感を覚え、主治医に相談し検査をしたところ2019年に心臓弁膜症の1つである大動脈弁閉鎖不全症と診断されました。現在は降圧薬を服用しながら経過観察を続けています。

寺田 恵子さん

出雲先生:

コミュニケーションに困難さを抱えている患者さん・医師が多い理由の1つには、医学教育の過程において、コミュニケーションに関する「教育」の不足があると考えています。医学教育ではどうしても学問が重視されがちですが、これからはコミュニケーションについても学べる機会を増やしていくことが大切ではないかと思います。また、調査結果にもありましたが、やはり高齢の患者さんではよりコミュニケーションに難しさを感じることが多々あります。治療に対して本当に理解と納得をしてくれているのだろうかなど、日々私も悩み工夫しながら診療にあたっています。

寺田さん:

私は膠原病の通院で医師と思うようにやり取りできない期間が長かった経験から、医師との関係性を築くにはある程度の時間を要するのかなと感じています。また過去に循環器内科で「最近調子どうですか?」と聞かれたときに、ちょうど忙しくて疲れが溜まっていたので「最近睡眠不足で……」と答えたところ「心臓のことを教えてください」と言われてしまったことがあり、今ある不調をどこまで話すか迷った経験があります。

出雲先生:

患者さん1人あたりの診療時間が限られている現状で、そうしたコミュニケーションをとってしまう医師は残念ながら少なくないと思います。しかし、患者さんのお話には病気に関わるさまざまなヒントが隠されていると思うので、私は待ち時間に今日話したい内容を紙に書いていただき、その紙を見ながらお話を聞くようにしています。また、医師には話しにくくても看護師に話せることもあると思いますので、看護師の力も借りながら患者さんの訴えを聞き漏らさないような工夫をしています。

寺田さん:

メモに書き出すのはいいですね。患者には自分の体の状態を把握して医師に必要な情報を伝える責任があると改めて感じています。医師からあらかじめ注意すべき体調変化のポイントを聞いておけば、伝えるべき情報をピックアップして迷わずにお話しできそうです。

出雲先生:

そうですね。あとは特に高齢者だと自分の変化に気付けない患者さんもいるので、私はご家族にも外来に来てもらうようにお願いしています。症状を見落とさないために、ご家族の気付きは重要なヒントになりますね。

また、患者さんやご家族に診断結果や治療についてお話しするときには、言葉だけでなく、イラストや模型を使いながら分かりやすい説明に努めています。病院によっては、待ち時間に治療に関する説明動画を見ていただくような取り組みも進んでいるようです。限られた診察時間のなかでしっかりご理解、ご納得いただくにはこうした工夫が大切ですね。

寺田さん:

私も心臓弁膜症の診断を受けたとき、医師が心臓の状態をイラストに描いて説明してくださったので、自分の心臓がどのような状態になっているのかがとても分かりやすかったです。そのイラストは今も大切に持っています。つい先日の診察では診断時と現在のエコー画像を見比べながら説明をしてくださり「あのイラストのこの部分がよくなってきているんだな」というイメージが湧きやすく、自分自身の状態がよく把握できましたね。

 

心臓弁膜症や心不全では、病気そのものへの理解に加え、「気付く」「伝える」「受け止める」という相互コミュニケーションが早期発見や一人ひとりの希望に沿った治療につながる重要な要素となります。医療従事者、患者、家族などが連携し、対話を重ねていくことの大切さを改めて見つめ直す機会としたいものです。

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