「気付いたら髪が抜けていた」「急に脱毛が広がっていた」――そんな突然の変化から始まることが多い円形脱毛症。外見への戸惑いや将来への不安から、仕事や日常生活、さらには心の状態にも大きな影響を及ぼすといわれています。近年は新たな治療薬の登場によって、これまで改善が難しかった重症例でも治療の選択肢が広がっています。大阪公立大学大学院医学研究科 皮膚病態学 准教授 今西 久幹(いまにし ひさよし)先生に、円形脱毛症の特徴や受診の目安、治療の進歩についてお話を伺いました。

今西 久幹先生
円形脱毛症の患者さんには、ビジネスパーソンの方が少なくありません。周囲の目が気になったり、仕事を続けるなかで「この先どうなっていくのか」と不安を抱えたりすることが多いようです。患者さんが脱毛によって自信を失いやすくなることも指摘されており、実際の診療の中でも、そのように感じる場面があります。
治療中は、治療費やウイッグにかかる経済的な負担に加えて、通院や検査、治療薬の受け取りなど時間的な負担もあるかと思います。特に仕事や家庭でさまざまな役割を担う働き盛りの患者さんにとっては、病気そのものや治療が大きな負担となることが考えられます。
また、円形脱毛症による経済的損失について調査した研究では、プレゼンティーズム(健康問題による生産性の低下)が示唆されています。これは、仕事を続けているものの生産効率が低下し経済的損失につながっていることを意味し、円形脱毛症が、患者さん個人および社会全体に対して、大きな影響を及ぼしていることが示されています。
円形脱毛症は、脱毛の形によっていくつかのタイプに分類されます。イメージしやすいのは単発型(頭部に1箇所丸い形の脱毛ができるもの)や、脱毛が2か所以上生じる多発型ではないでしょうか。
そのほかのタイプは、一般的な円形脱毛症のイメージとはかけ離れているかもしれません。髪の毛が全て抜け落ちる全頭型、全頭部に加えて体の毛全体も抜けていく汎発型、生え際が帯状に脱毛する蛇行型などがあります。このように、典型的な単発型や多発型以外であっても円形脱毛症の可能性はありますが、発症してもそれとは気付かずに過ごされているケースもあると考えられます。
毛の抜け方や、進行のスピードにも特徴がありますので、ほかの脱毛症と比較しながらお話しします。同じように脱毛が起こる病気に、男性型脱毛症*や女性型脱毛症**があります。これらは数年あるいは10年以上など比較的長い経過を経て、脱毛が進んでいくのが一般的です。一方、円形脱毛症は急速に広がることが多いのが特徴で、単発型や多発型の患者さんは「気付いたら円形脱毛症になっていた」とおっしゃる方が多い印象です。全頭型や汎発型では、数週間でほとんどの毛が抜けてしまう例があります。急に抜け毛が増えたように感じる、あるいは家族など周囲の方から教えてもらったといった場合には、円形脱毛症の可能性を考えて受診することをおすすめします。
また、男性型脱毛症や女性型脱毛症の場合は、頭頂部や生え際が後退していくように脱毛し、細い毛の割合が増えていくのが特徴です。一方、円形脱毛症では根元から髪の毛がちぎれるように抜けていく傾向にあります。これらのポイントも受診の目安の参考にしていただくとよいでしょう。
*男性型脱毛症:男性ホルモンの影響によって、生え際や頭頂部を中心に薄毛がゆるやかに進行する脱毛症。
**女性型脱毛症:主に頭頂部を中心に髪全体のボリュームが徐々に減っていく、女性にみられる進行性の脱毛症。
円形脱毛症は、典型的な単発型や多発型では髪の毛が円形や楕円形などに抜けてしまう病気で、自己免疫疾患*の1つと考えられています。発症しても直接命に影響することはありませんが、脱毛がストレスとなり心理的な負担を及ぼします。実際に精神的に大きく落ち込んでしまう患者さんもいらっしゃいます。
また、長期間治療をせずに放置していると、改善しにくくなる可能性があることが分かっています。毛が抜け落ちている期間が数年ほど続くと、治療をしても、なかなか毛が生えてこない、もしくは軟毛(いわゆるうぶ毛)のようなものしか生えてこないといった例があるのです。改善につなげるためには、症状がある場合には放置せず、適切な治療を受けることが重要です。
*自己免疫疾患:本来は細菌やウイルスから自分の体を守るためにはたらく免疫が、誤って自分の体を攻撃してしまう病気。
円形脱毛症の治療法には、薬物療法(塗り薬、注射薬、飲み薬など)や紫外線療法などがあります。近年、JAK阻害薬という飲み薬が登場したことで、治療の選択肢がさらに広がりました。JAK阻害薬による治療は、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛があり、6か月以上自然に発毛してくる傾向がない12歳以上の患者さんが対象です。JAK阻害薬が登場したことで、これまで改善が難しかった重症例でも治療効果が期待できるようになったと感じます。
そのほか、JAK阻害薬による治療の特徴として、検査結果に問題がなければ、紫外線療法などに比べると通院頻度を減らせる点も挙げられると思います。薬の導入時にいくつか検査を行うため、その期間は少し頻回に受診いただくことになりますが、当院の場合はその後通院間隔を長くしています。
適切な治療によって円形脱毛症の状態が改善し、休職されていた患者さんが復職されたり、表情が明るくなり自信を取り戻されたりするところを見てきました。お子さんでは、初診時は表情が硬く受け答えも難しかったものの、髪が生えてくるにつれて笑顔が増え、元気に挨拶をしてくれるようになった例がありました。脱毛による戸惑いや不安を抱えていた患者さんでも、治療によって自分自身のボディイメージと周囲の反応が一致してくると、自信を取り戻していくように思います。
私は治療の選択では、SDM(shared decision making:協働的意思決定)を大切にしています。患者さんの脱毛の状態や、価値観はさまざまです。治療法の選択では、行える治療は状態によっても異なりますが、それぞれの治療のメリット・デメリットをお伝えしたうえで、ご本人の希望を話していただくようにしています。治療開始後も、ウイッグをいつ外すのがよいかなど、患者さんと相談することもあります。
円形脱毛症の可能性を考えたら、まずはかかりつけの先生に相談するのがよいと思います。近年は医療者向けの啓発活動が進んでおり、皮膚科だけでなく、最新の情報を積極的に取り入れている他科の先生もいらっしゃいます。そのため、まずは身近なかかりつけ医に相談し、皮膚科にご紹介いただくのも選択肢の1つです。患者さんご自身が病気や治療について正確な知識を持つことも大事だと考えていますので、特に毛髪疾患を専門にしている先生がいれば受診をおすすめします。診てもらっている先生が脱毛を専門にしていないという場合は、適した医療機関へ紹介していただくとよいでしょう。
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