連載クリニックの現場から

卵子にも“タイムライン”がある——未来の妊娠を考える、プレコンセプションケアとは

公開日

2026年02月03日

更新日

2026年02月03日

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2026年02月03日

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湘南茅ヶ崎ARTレディースクリニック 院長/佐柄 祐介 先生

妊娠や出産は「そのときが来たら考えるもの」と思われがちだが、近年ではもっと早い段階から体の仕組みを理解する「プレコンセプションケア」が注目されている。性や妊娠に関する知識を身につけ、将来の妊娠に備えて健康状態を整えるという考え方であり、世界保健機関(WHO)でも重要性が示されている。

特に、卵子については年齢とともに数や状態が変化するにもかかわらず、学校教育の場でもそのことが十分に扱われていないのが現状だ。しかし、将来妊娠を望むかどうかにかかわらず、自分の体の“タイムライン”(年齢に伴って変化していく過程)を知っておくことは、人生の選択肢を広げるうえで有益だと思われる。
そこで、湘南茅ヶ崎ARTレディースクリニックの院長・佐柄 祐介(さがら ゆうすけ)先生に、若い世代へ伝えたいプレコンセプションケアの考え方についてお話を伺った。

自分の体を知ることは、将来の安心につながること

プレコンセプションケアは、妊娠を意識してから始めるものではありません。性や妊娠に関する基本的な知識を身につけ、日々の健康管理に目を向けることで、未来に備えていく考え方です。WHOでは「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しており、必ずしも特別な治療や検査を指すものではありません。

妊娠は、体だけでなく心の状態や生活習慣とも深く関わります。月経のリズム、睡眠、食事、ストレスとの向き合い方など、日常の積み重ねが将来の健康につながっていきます。もちろん、今すぐ妊娠を考えていない方にも関係する話です。

プレコンセプションケアの目的は、今の自分の現在地を知ること

プレコンセプションケアと聞くと「妊娠の準備」というイメージが強いかもしれませんが、本質はもっと広いものです。体の仕組みを理解し、日々の健康状態を整えて、今の自分をよりよい状態にする。それが結果的に、将来の選択肢を狭めないことにつながります。

この考え方は、妊娠を前提としない方にとっても大切です。自分の体について理解が深まると、将来に対する漠然とした不安が整理され、ライフプランを考えやすくなることがあります。プレコンセプションケアは、妊娠という選択に閉じたものではなく、自分自身の健康を守る取り組みだと考えてもらえれば、もっと身近に感じられるはずです。

卵子の“タイムライン”は、数が変化する仕組みから理解する

プレコンセプションケアの中でも大切なのが、卵子についての基本的な知識を学ぶことです。
女性は出生時に約200万個の卵子を保有しているとされています。その後、思春期までに約30万個程度にまで減り、20代を経て30代後半にかけて急速に減少していきます。排卵されるのはその中のごく一部で、生涯に実際に排卵される卵子はおよそ400~500個にすぎません。

こうした数の変化の背景には、卵子が体の中でどのように存在しているかという仕組みがあります。卵子は「卵胞(らんぽう)」と呼ばれる袋の中で育ち、成熟すると卵胞をやぶって卵巣の外に出てきます。これが、排卵です。

毎月の月経周期の中で実際に排卵に至るのは一部で、排卵されなかった卵胞も含め、体の中にある卵子は時間の経過とともに自然に減っていく仕組みになっています。卵子は卵胞の中にあるため、卵子の数が減るのと同じように、卵胞の数も年齢とともに自然に減っていきます。

こうした変化には個人差が大きく、一概に年齢だけで判断できるものではありませんが、体には一定の時間の流れがあることを知っておくことが、将来を考えるためのヒントになります。

10代・20代のうちに、将来の選択肢を広げてほしい

結婚や出産の時期が多様化している現代では、一人ひとりのライフプランが大きく変わってきています。そんななか、“将来の妊娠をどのように考えるか”という視点は、あまり語られてきませんでした。現在は自治体による情報提供や支援の取り組みも始まっており、プレコンセプションケアは個人の努力だけに委ねられるものではなく、社会全体で支えていくものという考え方が広がりつつあります。

未来は突然やって来るものではなく、日々の積み重ねの先にあります。自分の体の“タイムライン”を知ることで、焦りを和らげ、より自由に人生を設計できるようになってもらえたらと思います。

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