連載クリニックの現場から

「自分はまだ大丈夫」と思っていませんか? 専門医がすすめる“40歳からの大腸カメラ”

公開日

2025年12月05日

更新日

2025年12月05日

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2025年12月05日

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横浜わたなべ内科・内視鏡クリニック根岸院 院長 渡邉 一輝 先生

大腸がんは、日本人のがんによる死亡原因として、女性では第1位、男性でも第2位に位置する病気だ(2023年時点)。早期に発見すれば予後は良好とされるが、現実には「痛そう」「恥ずかしい」「忙しくて時間がない」などの理由で検査を後回しにしてしまう人が少なくない。特に現役世代では、健診で便潜血陽性を指摘されても「痔だろう」と思い込み放置したり、そもそも自分事として捉えられなかったりするケースも多い。

長年にわたり大腸がん診療に携わってきた横浜わたなべ内科・内視鏡クリニック 根岸院(神奈川県横浜市)院長の渡邉 一輝(わたなべ かずてる)先生に、大腸がんのリスクと内視鏡検査の重要性についてお話を伺った。

「まだ若いし、自分は大丈夫」その油断が危ない

大腸がんという病気は、痛みや貧血・下血といった分かりやすい症状が、すぐに現れるものではありません。腸にできたポリープが長い年月をかけてがんに変化していくケースが多くみられます。ポリープ自体は進行するまでほとんど症状が出ないため、自覚のないまま知らないうちにがんが育っていた、ということも珍しくないのです。

実際、30歳代や40歳代でポリープが見つかる方は決して少なくありません。そのため、医師としての感覚では、「40歳を過ぎたら一度は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けておくべき」と考えています。ところが一般の方の感覚では、「50歳代になったら考えればいい」と思っている方が多いように感じています。この意識のズレを、本当にもったいなく思います。

健診で異常を指摘されても、仕事が忙しくて後回しにしてしまった、体調が悪くないからと放っておいた、そうした声をよく耳にします。それも、「自分はまだ大丈夫だと思っていた」という意識があるためだと思います。しかし、進行してから見つかった場合には、治療の選択肢が限られてしまいます。だからこそ、40歳を過ぎたら症状がなかったとしても、大腸カメラ検査を受けることには大きな意味があるのです。

ポリープの段階で発見できれば「がん」化を未然に防げることも

「ポリープがある」と聞くと、不安に感じる方も多いと思います。実際、ほとんどのポリープは良性ですが、その中には年月をかけてがん化していくものもあります。代表的なのが腺腫(せんしゅ)と呼ばれるタイプのポリープで、放置すると数年のうちに悪性化することがあります。

見つかった段階では良性であることが多いため、その時点で適切に切除することが、がんの予防につながります。よく「大腸カメラは、がんを早期に見つけるための検査」と思われがちですが、実際には「がんになる前に食い止めるための検査」でもあるのです。

こうした視点を持っていただけると、大腸カメラを受ける意義が、より明確になるのではないでしょうか。

鎮静剤を使用して「つらくない大腸カメラ」がスタンダードに

大腸カメラ検査と聞くと、「痛そう」「怖そう」と感じる方も多いでしょう。確かに、かつては不快感を伴う検査方法が主流だった時代もありました。しかし今では、鎮静剤の使用も含め、検査技術や機器が大きく進歩しています。大腸がんを予防できる検査を「もう受けたくない」と思わせてしまうことこそ、私たちの責任だと考えています。だからこそ、“つらくない大腸カメラ”の実現に真剣に取り組んでいます。

鎮静剤を使えば、眠ったようなリラックスした状態で検査を受けられます。患者さんからも「いつの間にか終わっていた」「思っていたよりずっと楽だった」という声を多くいただきます。また、必要に応じて鎮静剤を併用し、痛みや不快感をさらに軽減することも可能です。

さらに、お腹の張りを和らげる炭酸ガスや、体への負担を減らす細径スコープなど、快適に検査を受けていただく工夫も進んでいます。こうした取り組みは、今では多くのクリニックで当たり前になっています。

以前に検査を受けて「もう大腸カメラはこりごり」と感じた方にも、今の検査の快適さと進化をぜひ知っていただきたいです。

自覚症状がない今こそ、検査のタイミング

大腸がんは、早期に見つければ治療の選択肢が広がる病気です。さらに、がんになる前のポリープの段階で処置ができれば、発症の可能性を大幅に減らすことができます。これほど明確に予防が可能ながんは、実はそう多くありません。

便潜血陽性を指摘された方、家族に大腸がんの既往歴がある方、そして40歳を迎えた方には、ぜひ一度、大腸カメラ検査を検討していただきたいと思います。

私が大学病院などで消化器外科医として勤務していた頃、手術で救えた方もいましたが、「もう少し早くがんが見つかっていれば」と涙した場面も少なくありませんでした。

がんは、早く見つけるほど患者さんの人生を守ることができる病気です。不安や忙しさから、受診を後回しにしている方もいるでしょう。それでも、自覚症状がないうちに検査を受け「あのとき受けておいてよかった」と感じてほしい。それこそが、長年大腸がん診療に携わってきた医師としての願いです。

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